第72話 前進
「前進せよ!」
列車砲も含めた、大砲の音が止むと前進命令が出る。
騎士を先頭にゆっくりと前線が上がっていく。
ハーバートを装甲車に乗せ、俺も同乗する。
俺が所属する第二騎士団は護衛のため、前を行く騎士の後ろをついていく。
装甲車の中から外を見ていると、1キロを超えると地面が穴だらけになる。穴の周辺には、モンスターの死体が散らばっている。
死体を確認すると、中層にいるようなゴブリンやオークなどのモンスターの死体も混じっている。
「大砲は思った以上に効果があります」
ハーバートも装甲車の中から周囲を見回している。
「よくやったとしか言いようがないな」
ダンジョンの地上部分だけではあるが、戦い方が大きく変わった。
大砲に砲弾を込めているのは騎士だが、大砲を操作しているのは騎士団の裏方を担当する兵士。
大砲の数を増やせば兵士だけで運用できる。
兵士は一層のモンスターを倒せる程度の実力だが、大砲を使えば中層以降のモンスターを倒せる。しかもただの中層ではなく、名前付きのダンジョンから出てきた中層のモンスター。
「しかし、進む速度が随分とゆっくりになりましたね」
装甲車が動いたり止まったりを繰り返す。
歩くよりも遅い。
「モンスターを回収しているんだろう。名前付きのダンジョンから出てきたモンスターは騎士でも危険な存在。死んでいるか確認しながら、慎重にモンスターを回収していそうだ」
倒したモンスターはコアが爆発する危険があり放置しておくのはまずい。
「どうやって死んでいるか確認するのですか?」
「モンスターが死んでいるかの確認は簡単、首を落とせばいい。簡単に首を落とせれば死んでおり、固ければまだ生きていたという意味。どちらにせよ首を落とせば死ぬ」
「豪快ですね」
俺は苦笑しながら肩をすくめる。
騎士が豪快なのは平常運転。
「しかし、モンスターが少ないな」
砲弾がコアへ直撃して爆散した可能性はあるが、にしても数が少ない。
「これで少ないのですか?」
ハーバートが目を見開いて俺を見る。
ダンジョンで戦った経験のないハーバートなら驚くか。
「成長しきった深層ダンジョンの地上には数え切れないほどのモンスターが密集していた」
「確かに密集とまではいきませんね」
ゆっくりとでも前に進めている時点で数の少なさがわかる。
ダンジョンから出てきたモンスターは万を超えているとは思うが、一箇所に万のモンスターが固まってはいない。
数が少ないとはいえ、ダンジョンに到着するまで結構な時間がかかりそうだな。
装甲車が止まる。
ダンジョンに近づくまで予想通り、かなりの時間を要した。
タートルジェイドの街からダンジョンに近づくほどモンスターの数が増え、前進する速度が落ちていった。
「モンスターは恐ろしいですね」
ダンジョンから出てきたモンスターと騎士が戦っている。
低層のファンブボア、サーベルタイガー、中層のゴブリンやオーク。モンスターは全て奇形。
モンスターの数は多くないため袋叩きにしており、騎士が怪我する心配もなさそう。
俺から見えると余裕を持って戦っているが、ハーバートにはモンスターが恐ろしく見えるようだ。
「今まで来た場所で亡骸になっていたモンスターしかいない。ハーバートが作った大砲で十分に倒せるモンスターだ」
「確かに大砲でなら倒せるのかもしれませんが、接近戦で立ち向かっていく騎士はとんでもない」
「騎士であっても接近戦でもないと魔力が持たないのでな」
「アイザック様が魔力効率を重視している理由がよくわかります」
ハーバートの視線はモンスターと戦う騎士から離れない。
モンスターと戦うのは騎士とギルド員。モンスターとの戦いを始めてみるハーバートが驚くのもわからなくはないか。
地球基準で考えると騎士は化け物しかいない。
装甲車が叩かれ、ドアを開けるとパーシーとクロエがいた。
「アイク、騎士団は一部が入り口からモンスターが出てこないように残り、僕たちは奥に進むってさ」
「湖まで移動か」
「うん」
ダンジョンから湖は見えている。
再び装甲車がゆっくりと動き始める。
装甲車が進んでいくと大きな穴にたどり着く。
「列車砲を集中させた場所か」
周囲の安全を確認した上で装甲車から出る。
「砲撃された範囲は50メートル近いか」
「土が掘り返されて随分と柔らかくなっているね」
パーシーが足元の土を触っている。
草は一切なくなり、黒い土が露出している。
「魔法を使う前に柔らかい土をどかすか」
「シャベルだね」
そうシャベルしかない。
今日はダンジョンから溢れたモンスターとの戦闘だけで終わると予定されていた。
今の段階で当初の予定を数段飛ばして進行している。
「今日中にここまでこられるとは思っていなかった。試作の掘削機も持ってくるべきだったか」
「水路作るのに使えばいいんじゃない?」
「戻って取りにいく暇はないか」
装甲車に積まれていたシャベルが配られる。
騎士たちが砲撃された50メートル範囲の中に入っていく。中には獣化したモンタギュー卿の姿もある。
100人以上の騎士がシャベルで地面を掘り返し始める。甲冑姿でシャベルを使って地面を掘っているのは違和感のある姿。
俺も見ていないでシャベルを持って砲撃された範囲の中に入る。
シャベルを地面に突き刺す。
シャベルは軽く、地面の土も柔らかい。
土を持ち上げても軽い。水を貯める範囲の外へと土を投げる。
「ちょっと楽しいかも」
「意外に面白いわ」
パーシーだけでなく、クロエも穴掘りが気に入ったようだ。
俺も思った以上に作業が楽なため、無心で続ける。
「なんか作業速度が早くないか」
無心で作業していた手を止める。
すでに俺の身長とそう変わらない深さになっている。砲撃で柔らかくなった土よりも下の層まで達しているはずなのに、柔らかくなった層と土の硬さがあまり変わらない。
俺と同じように騎士たちの掘削速度も変わらない。
凄まじい速度で穴が広がっていく。
あまりに早いので、早送りで作業が進んでいるような錯覚すら覚える。
「モンタギュー卿がすごいね」
「確かにすごいが……」
モンタギュー卿の掘削速度は目を見張るものがある。
しかし、他の騎士も手を止めずに、驚くほどの速度で掘り進めている。
……俺はもしかして掘削作業の効率を地球基準で考えていたかもしれない。
「もしかして重機要らなかったか?」
「さすがに湖まで掘るのは大変じゃないかな?」
「そう思っておくか……」
さほど時間もかからず、50メートルプールほどの穴が出来上がった。しかも深さは3メートル近い。
騎士と重機の効率が変わらない気がする。
「人数が揃っていると早いね」
「ああ……」
早いで済ましていいのだろうかあ。
道具、力、体力、数がそろえば穴はこうも簡単に広がるのか……。
「その程度でいい。穴から退避せよ」
ベアトリクス様の指示で掘られた地面から外に出る。
3メートル程度なら身体強化した状態で飛べばいい。
「火で焼き固める」
穴から全ての人がいなくなると、ベアトリクス様や火魔法が得意な騎士が前に出る。
複数人が魔力を放出して火魔法を放つ。
穴が魔法の炎で満たされ、周囲にも熱気が伝わってくる。
「魔法はいいな」
「地面を焼き固めるっていう使い方だよ?」
「そう言われると微妙に思える」
凄まじい熱気の魔法が消えると、地面が溶けて真っ赤になっている。
冷めれば土は固まるだろう。
「次は湖か」
「今回は楽だね。名前付きのダンジョンが発生したとは思えないや」
いまだに戦闘していない。
魔力をほぼ使っておらず、体を動かしたのは穴を掘るという作業だけ。
低層ダンジョンを討伐するのでももう少し大変だな。
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