第71話 砲撃音
工場で師匠と無限軌道の装甲車を改造して重機を作る。
以前からあったのはケーブル式の掘削機であったが、今回作ろうとしているのは油圧式の掘削機。工事でよく使われるショベルカーなど呼ばれていた形の重機。
試作機の掘削機が稼働するまで形にはなった。
「油圧がどれだけもつ——」
——ドンッ
外から砲撃音が響く。
最初の一発から連続して砲撃が続く。
「始まったか」
工場の中から見えるはずのないダンジョンがある方向を睨む。
「皆、作業をやめろ」
工場にいるテラパワーの社員たちが手を止める。
作業が止まった工場内には外から響く砲撃音だけが響く。
「事前に決められた指示通りに動け。もし騎士から予定外の指示が出た場合は命に関わる問題。すぐに騎士の命令に従え」
テラパワーの社員たちが顔を強張らせて頷く。
「師匠、重機の出番はまだ先です。今は予定通りに動いてください」
「分かった」
第二騎士団の騎士が工場内に入ってくる。
騎士を護衛にテラパワーの社員が決められた場所へ各自移動していく。
「アイク様、甲冑を着て騎士団に戻りましょう」
「ああ」
俺とライナスは重機を作っていたため作業着を着ている。
鞄の中から鎧下から甲冑まで取り出して身につけていく。甲冑をライナスとお互いに手伝いながら着て、甲冑に問題がないか確認する。
「ライナス、いくぞ」
「はい」
工場から外に出ると砲撃音がさらに大きく聞こえる。
——ドゴンッ
大砲より大きな砲撃音が周囲に響く。
「列車砲も砲撃を開始しているのか」
列車砲は街から離れた場所にあるため、砲撃が開始されるまで若干の時間差がある。
「急ぎましょう」
装甲車に乗り込んで移動する。
工場がある場所はダンジョンから遠いため、おそらくモンスターが来ないのではないかと言われている場所。大砲が設置されている最前線まで少し距離がある。
装甲車を操って第二騎士団が集まっている場所に急行する。
「ベアトリクス様、遅くなりました」
大砲の砲撃で凄まじい音がしており、大声を出しながらベアトリクス様に声をかける。
「アイザックが遅れるのは予定通り。気にする必要はない」
ヘルムを脱いでいるベアトリクス様は俺を一瞬見た後、ダンジョンがある方向へと目をむける。
俺もダンジョンがある方向に視線を向けると、砲弾によって土が飛び跳ねている。モンスターらしき存在も空中に投げ出されている。
「戦う準備はできております」
「いや、まだ騎士は前に出ていない。砲撃が想像以上にモンスターの侵攻を止めている」
「想像以上に大砲の効果がありましたか」
俺とライナスは甲冑を着た上で移動していた。経過した時間を考えると、モンスターが街に到達して接敵していてもおかしくはない。しかし、街を守るように並んでいる騎士が戦っている様子はない。
さすがの騎士も砲撃の中を進むのは嫌なのもありそうだがな。
「モンスターを放出したばかりゆえ、モンスターの数が少ないのかもしれないが……。楽にダンジョンまでたどり着けるやもしれない」
「大砲を急ぎ量産した意味はありましたか」
「テラパワーに無理させた分の効果は十分に出ている」
タートルジェイドでも大砲は量産しており、想定の倍である200門以上が用意できた。
200門全てが2キロ射程の大砲ではないが、半数以上が長距離の大砲になっている。
魔石の色である緑色が混じった煙を上げながら大砲は連射されている。
少し甘い匂いの煙が風に流される。
風のおかげで視界は良好。
「アイザック、我々の任務は護衛が中心、もうしばらく待機になる。もう一度装備を確認しておくように」
「了解しました」
確かに大急ぎで甲冑を着た。
改めて装備を確認しているとクロエとパーシーが近づいてきた。
「二人ともどんな感じだ?」
「嬉しい誤算で暇ね」
クロエが肩をすくめる。
「大砲の破損率は?」
「詳しく聞いていないけれど、まだ出ていないようね。アイクが直接聞いたほうがいいんじゃない?」
「そうだな」
ベアトリクス様に顔を向けると頷く。
俺が離れても問題ないようだ。
大砲に近づくとさらに音が大きくなる。
騎士が大きな砲弾を軽々と持ち上げて大砲にこめる。最初に砲弾をこめる作業を想定していたのは騎士ではなかったため、連射速度はそう早いものではなかった。騎士が作業すると1分で10発以上撃っている。
おおよそ200門が1分で二千の砲弾を撃っていると計算できる。
「ハーバート、大砲の調子はどうだ?」
大砲の開発者であるハーバートは最前線にいる。
他にもテラパワーの社員が何人も前線まで出てきている。
社員たちの護衛には第二騎士団の騎士がついており、近くには装甲車も用意されている。モンスターが近づいてきた場合、テラパワーの社員を装甲車に詰め込んで安全な場所まで引き返す。
「鋳造品ではなく錬金術師が手作業で作ったからでしょうか、破損は今のところありません」
大砲は鋳造で作れるように研究中。
今は錬金術師が1門、1門手作業で制作している。精度はいいが、1門あたりの値段がとんでもなく高かったりする。
「想定より連射が早いが、砲身の熱は?」
「熱くなってはいますが、ガトリングほどの連射ではありません。砲身が歪むほどの熱を持つまで余裕があると思われます」
1分に10発だと考えれば確かに遅くはある。
しかし、火薬量も多い、どれほど持つだろうか。砲身に使っている金属は普通の鉄ではないため、撃てなくなるまで長いとは思われるが……。
ハーバートが熱に関しては管理するだろう。
「砲弾の数は?」
「1時間以上撃ち続けてもなくなる量ではありません」
「大量に作った甲斐があったか」
砲弾は錬金術師がほぼ関与していない。鋳造で弾頭を作り、火薬と弾頭を組み合わせている。
バレットアームズなど新しくテラパワーに加わった会社が得意とする作業で、凄まじい速度で弾頭は生産されている。そんなにいるのかと思うほど量産したが、意味はあったようだ。
「列車砲については任せているためわかりませんが、砲弾はダンジョン付近まで飛んでいます」
「目視で位置を確認するわけにはいかないからな」
「弾道計算をして撃つしかありません」
「砲弾が大きいのだ、大雑把でも十分に効果はあるだろう」
砲弾が直撃せずとも余波だけでも凄まじい衝撃になるのが想像できる。
倒せるかどうかまではわからないが、直撃さえすればダンジョンボスにすらダメージを与えられる可能性がある。
「列車砲を含め、大砲もどのようなモンスターを倒しているか見えないのが残念です」
ハーバートは恐怖よりも好奇心が優っているように見える。
目を見開いており、血が回っているのか顔色が普段よりいい。
初めての戦闘もあって興奮していそうだな。
「ハーバート、避難命令には従えよ」
「分かっております」
心配ではあるが、最悪ハーバートは護衛の騎士によって装甲車に詰め込まれる。肉体性能の差から抵抗すらできないだろう。
体感的に30分ほど砲撃を続けただろうか。
撃つのをやめるように指示が出た。
大声で叫んでも意味がないため、兵士が走り回って知らせている。
「モンスターが近づいたのであればテラパワーの社員に避難命令が出る。というか俺たちからもモンスターが見えるはず」
目の前にはモンスターの影はない。
「つまり、撃つのをやめた意味は?」
ハーバートが俺を見る。
「モンスターを倒し切ったのかもしれん」
もしモンスターを倒し切ったのであれば驚きだな。
いや、先ほどベアトリクス様も言っていたが、ダンジョンから出てきているモンスターの数がまだ少ないのかもしれないな。
ダンジョンの入り口は大きいとはいえ、車が一台か二台通り抜けられる程度。育ち切ってすぐはモンスターが出てこようにも、入り口が狭すぎてあまり多くは出て来られないのかもしれないな。




