第70話 錬金術師
タートルジェイドの工場でテラパワーの社員が忙しそうに動き回っている。
野外で作業するわけにもいかず、タートルジェイドの会社から工場を買い取った。工場の立地はダンジョンから一番遠い場所で、モンスターが来ても逃げる余裕はある。
修理であったり、不足している品の追加だったりと皆忙しそうだ。
今日はモンタギュー卿を招いて甲冑の納品のため試着。
身長が2倍になった場合どうやって甲冑を作ればいいか全くわからなかったが、師匠とハーバートが作り方を知っていた。ただ貴重な素材を必要としており、普通の工房が作るのを断る理由が察せられた。
遠征先に貴重な素材が手持ちにあるわけもなく、ベアトリクス様に相談すると持ち込まれていると教わり、好きに使っていいと素材を渡された。
「違和感はありますか?」
「今のところ感じられない」
獣化していない状態のモンタギュー卿が動き回って動きを確認している。
全身を錬金術師が手作業で作っているため、普通の甲冑以上に動きやすいであろうとは想像できる。
「甲冑の確認を頼みます」
「承知しました」
テラパワーの甲冑を担当する社員がモンタギュー卿の甲冑を触って確認する。
錬金術師は金属などの素材を自由に変形させられる。力で変形させているわけではなく、武器や防具を魔力で強化する応用。つまり錬金術師は魔力を使っている。
差はあるが一般人でも魔力を保有している。大半の一般人は短時間、身体強化するのが精一杯といったところだろうか。
錬金術師となる人は一般人の中でも多めの魔力を保有している人が多い。
「甲冑自体は問題ないのではないでしょうか。あとは素材の効果を発動するかどうかです」
錬金術師にも専門があり、魔力が多ければ錬金術が使い放題かと言われると微妙なところだ。
地球でも合金を作る際には配合を細かく決めるが、錬金術でも同じ作業が存在する。金属と素材を混ぜ合わせるのに職人技のような魔力の精度が必要になる。馬鹿みたいに全力で魔力を込めればいいわけではない。
魔力の使い方が騎士とはまた違うため、騎士が錬金術師の真似するのは難しい。
俺は自分を錬金術師だと思っているが、金属を糸のように細くできる師匠やハーバートのような技術力はない。
得意分野も違う。師匠は車関連が得意であり、ハーバートは銃器。俺とライナスは金属と素材を混ぜるのが得意。
金属を混ぜるのが得意になった理由は、トレーニング器具の重りをひたすら作っていたため。大雑把に大量の金属を混ぜ合わせて整形するには大量の魔力が便利なのだ……。
「モンタギュー卿、俺たちが離れた後、合図を送りますので獣化してください」
「了解した」
皆で分厚い金属壁の後ろに隠れる。
モンタギュー卿の新しい甲冑は仮止め状態であるが、獣化の衝撃で吹き飛びかねない。全体で100キロ近い金属の塊が飛んできては普通の人は耐えられない。
周辺に表に出ている人がいないのを何度も確認する。
「モンタギュー卿、獣化してください」
「了解した」
俺とライナスは金属壁が壊れないように強化する。
弾け飛ぶような音がすれば失敗となる。
…………。
「獣化が完了した。甲冑が弾け飛びそうな様子もない」
金属壁からまず俺が顔をだす。
モンタギュー卿が4メートル以上の巨体になっている。
甲冑が体に合わせて大きくなっている。
「皆、出ても問題ない」
テラパワーの社員が金属壁から移動する。
皆がモンタギュー卿の迫力ある姿を見て頷いている。
獣化したモンタギュー卿は随分と迫力があるように思えるのだが、テラパワーの社員たちは怖がる様子を見せない。
「武器も大きくなっていますか」
「ああ、武器は持ち変える前提でいたが助かる」
モンタギュー卿がバトルアックスを振り回す。
俺は盾を持つ前提のそこまで大きくないバトルアックスだが、モンタギュー卿は両手で持つ前提の大きなバトルアックスを使用している。
「バトルアックスには贅沢に素材を使っていますので、そう簡単には壊れないと思います」
「うむ……値段が怖い」
素材だけで家が立ちそうな値段がする。
「王家から素材に加工費もいただいていますので、モンタギュー卿にお金を請求は致しませんよ」
「それはそれで怖いのだ……」
高いものをもらうのが怖いのは理解できる。
しかし、人が4メートルを超える巨体になり、魔力も随分と増えている。
王家がモンタギュー卿に期待するのもわかる。
「王家はともかく、テラパワーとしては社員を守っていただけると嬉しいですね」
「ここまでの装備を作ってくれたのだ。任せよ」
モンタギュー卿の返事は心強い。
「装備が問題ないか少し走り回ってみますか」
「分かった」
工場から外に出る。
モンタギュー卿はまず二足歩行で走り、次に四足歩行で走る。
四足歩行は走りにくくないのかと思うが、どうも体の形が変わるようだ。
象みたいな大きさのモンタギュー卿が走り回っている姿は迫力がある。
「どうです?」
「動きに支障はない」
テラパワーの社員で総点検しても甲冑の破損は見られない。
「次は例の装備を試してくれませんか」
「あれか」
モンタギュー卿が工場の脇に置いてあったシャベルを手に取る。
4メートルのモンタギュー卿が使うため、通常の倍はあるシャベル。
「シャベルで軽く土を掘ってみてもらえますか」
「了解した」
モンタギュー卿は硬い土を砂のように掘っていく。
一度に掘る土の量もとんでもない。
「もう十分です」
気づけば俺の身長ほどの小さな山ができている。
「思った以上に使いやすい」
「曲がったりしていませんか?」
「問題ないな」
モンタギュー卿が柄までアダマンタイトで作られてシャベルを見ている。
シャベルは本来、アダマンタイトで作るような物ではない。水路建設のために作ってみた。重機に近いものはスカーレットドラゴン王国にもあるのだが、まだ発展途上といったところ。
間に合うかはわからないが重機の試作はしている。
人力でどうにかするために作ったのがアダマンタイト製のシャベル。モンタギュー卿のシャベルだけでなく、騎士団用のシャベルも作ってある。
騎士団なら魔法を使ってどうにかするより、体を動かした方が絶対効率がいい。
シャベルは全てがアダマンタイト製であるが、アダマンタイトは金属に戻せば使える。
「シャベルは預かっておきますか?」
「気に入った。持って行っても構わないか?」
「構いませんよ」
シャベルは壊れる前提で数を作ってある。モンタギュー卿のシャベルも壊れる前提で予備は複数用意した。
「モンタギュー卿、もう一度甲冑を確認して問題がなければ納品完了となります」
テラパワーの社員がモンタギュー卿の甲冑を隅々まで確認する。
社員から甲冑は問題が見られないと報告を受ける。
「甲冑を製作していただきとても助かった。この恩はダンジョンの討伐でお返しする」
「期待しております」
モンタギュー卿はショベルと鞄に入れ、バトルアックスを背負うと工場を出ていく。
「騎士は錬金術師と覚悟が違いますな」
「皆は無理してくれるなよ?」
俺はテラパワーの社員が心配で仕方がない。
「私は騎士の甲冑を多く作るため、普通の人よりもダンジョンをみじかに感じていたと自負しております。それでもアックスオッターが消えかけ、ダンジョンは大きな街を消すほどの脅威であると考えを改めました」
テラパワーの社員たちが俺を見る。
「アックスオッターを守ったのは小さな頃から知っている騎士です。私は小さな頃から知っている騎士の力添えができれば十分です」
共同代表になる前から、テラパワーの社内で俺が経営者のうちの一人だとは知られていた。皆の心意気は嬉しいが……。
「本当に無理してくれるなよ」
「はい」
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