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脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜  作者: Ruqu Shimosaka


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第7話 テラパワー

 部屋に入った時に気づいた。

 ベアトリクス様が使用しているトレーニング器具は自社が売っている製品。会社から王宮に商品を納品したとは聞いていたが、王族が使っているとは思いもしなかった。


「妾のトレーニング器具はテラパワーで特注した商品だが……」


 会社名のテラパワーのテラは一兆倍と地球の意味を合わせた。パワーはマジックにするか迷ったが、魔法よりも筋肉な世界ゆえにどちらでもいいようにパワーにした。


「テラパワーは自分が開発した錬金術関連の商品を売る会社にございます。トレーニング器具に関しては錬金術とは言い難い物ですが……」


 前世はオタクであるが、高校生の頃からジムでトレーニングに通っていた。

 トレーニングを始めたのはオタク友達が筋トレ系のアニメにはまったのがきっかけ。典型的なオタクの友人はジムに一人で行くのが怖いと、俺を含めたオタク友達を誘ってジムに通い始めた。

 俺は情熱や才能はそこまでなかったが、オタク友達の中に情熱と才能に目覚めた友人がいた。俺は才能のあった友人に付き合ってジムに通い続けた。


 前世ではジムに通い続けたため、トレーニング器具について普通の人よりは詳しい。

 転生した世界のセリアンスフィアにあるトレーニング器具は酷い物だった。

 道具が酷い状況でも貴族や冒険者は己を鍛えダンジョンに向かう。ダンジョンでの戦い方はさっぱりだったが、トレーニング器具の改善はできる。

 俺は錬金術を覚えて少ししたところで、自分の命を守るためトレーニング器具の開発を始めた。


「テラパワーの代表はライナスではなかったか?」

「ライナスは自分の従者です。自分の代わりに会社の代表を任せています」


 俺は錬金術師として表に出て活動ができないので、従者のライナスが代理で錬金術の物を売る会社を経営している。従者の名義を借りるのは、貴族としてあまり褒められた趣味を持っていない場合の常套手段。

 名義を借りているライナスには会社の利益から報酬をかなりの額払っている。さらに、もし俺が死んだ場合はライナスが会社を好きにしていいと伝えてある。


 錬金術師の師匠やライナスと共同で開発したものを売っている会社であるため、全てが嘘というわけでもない。

 最初は三人で作った錬金術の道具を売る趣味の小さな会社にするつもりだったが、想定より会社が大きくなってしまったため三人で困惑している。

 家督を放棄して家から支援がない状況でも平気なのは、会社で稼いだお金があるため。テラパワーがあって良かった。


 現在、テラパワーの会社を経営しているのがライナスであるため、俺は従者にお金から家まで準備してもらっている主人となっている。さすがにそれはどうかと思って、会社などの名義をライナスから俺へと一部変更している。

 ライナスは現在、名義変更のために慌ただしく動き回っている。


「クロエ、ライナスがアイザックの従者だというのは本当か?」

「ええ。アイクと一緒にいるとテラパワーの新作すぐに触れるの」

「それは羨ましいな」

「テラパワーからの支援すごいのよ」


 俺は可能な限り命を大事にする。

 テラパワーで稼いだお金と錬金術で開発した道具を使い、ダンジョンでの危険が減るように常に試行錯誤している。ダンジョンは絶対に安全とはならないが、少しでも安全になるように心がけている。


 身を守るという意味では、パーティーメンバーのパーシーやクロエを支援するのも安全につながる。何の事情も説明せずにテラパワーの支援を受けるのは違和感があるため、二人には錬金術でお金を稼いでいるのは伝えてある。

 最初は錬金術師かと微妙な反応を返されたが、命を守るためと伝えたところ納得された。


「妾もテラパワーのトレーニング器具を使ってから強くなった」

「トレーニング器具はあくまで道具。強くなったのはベアトリクス様の努力による物です」


 道具は飾るだけでは何の意味もない。

 ベアトリクス様のはち切れそうな筋肉を見れば、どれだけ大変なトレーニングを続けているのかわかる。トレーニングを怠けていては絶対につけられない筋肉。


「確かにテラパワーから道具を買う以前より努力はしているが、テラパワーの道具を揃えてから効率が大きく変わった。これからも期待している」

「はい」


 ベアトリクス様の激励に頭を下げる。


「テラパワーであれば妾が推薦しても問題はない」

「ありがとうございます」

「アイザック、今度ライナスとともに妾の元に参れ」

「承知いたしました」


 ベアトリクス様の予定を聞いて、一週間後に改めて尋ねるのが決まる。

 一週間後であれば俺とライナスも余裕ができていると思う。


「先に謝っておく。アイザック、そなたを含めアックスオッター周りを調べる」

「心得ております。自分は貴族らしからぬ趣味は持っておりますが、身内を殺すような趣味は持ち合わせておりませんのでお好きなだけお調べください」


 ベアトリクス様が俺の顔を見つめる。


「そなたは親と兄を殺され怒っていたのか」


 ベアトリクス様に言われてデレクの非道な行為に怒っていたのだと気づく。

 俺は小心者で死にたくないと逃げ続けているが、自分の代わりに誰かが死んで欲しいなどと考えはしない。皆が同じように生き延びられるように支援していた。特に無鉄砲な兄には手厚く支援するように指示を出していた。

 そして新しく兄になったデレクも支援するように指示を出していた。

 拳に力が入る。


「父は身から出た錆と言えなくもありませんが、兄はまだ20歳でした。殺される謂れはないと思っております」


 前世は兄とそう変わらない20歳になる直前で死んだ。

 転生前と後の年齢を合わせれば35歳に近いが、合わせた年齢になる程精神が大人にはなっていない。しかし、20歳で死ぬのが早すぎるのはわかる。


「アイザック、デレクについてはすぐに答えは出せるかわからない。少し待ってもらえるか?」


 毒殺については一週間で片付くような問題ではないだろう。

 どれだけかかろうとも俺は待つ。


「はい。どのような決定だとしても、自分はスカーレットドラゴン王国の決定に従います」

「分かった。妾に任せてもらう」


 俺はベアトリクス様に深々と頭を下げる。

 話し合いが終わると俺たちはベアトリクス様の部屋から出る。




 クロエの用意した車で王宮から学園へと戻る。

 どこに連れて行かれるのか不安だった行きとは違い、帰りは車の座席に深く座ってくつろげる。


「クロエ、ベアトリクス様を紹介してくれてありがとう。相談に乗っていただけて少しすっきりした」

「それは良かった。アイク、あとはトリスに任せて少しゆっくりしなさい」

「ゆっくりと言っても、やるべき仕事が山積みなんだよ」


 急にアックスオッターに戻ったり引っ越しがあったりと、普段やっている作業が溜まってしまっている。その上、家や会社の名義を変えるのに必要な書類があったりと、やるべき作業が増えるばかりで無くならない。


「それなら、せめてアックスオッターであるのを今は忘れなさい」


 クロエの指が俺の胸を刺す。


「忘れる?」


 クロエの指が俺の胸から上がって目を差す。


「目の下にくまができているわよ」

「え?」

「寝られていないんでしょう」

「そんなことは……」


 一緒の車に乗っているパーシーからも目の下にくまができていると指摘を受ける。

 クロエやパーシーに心配されるほど顔色が悪いのか。

 睡眠は取っているつもりだったが、実際のところは寝られていなかったようだ。


「学園のダンジョン実習までに体調を整えなさい。つまらない失敗で怪我をしたくないわ」

「そうだな」


 ダンジョンでの体調不良は命に関わる。

 数日後の実習までに体調を回復させなければ。

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