第68話 タートルジェイド子爵領
久しぶりに書類から解放された。
休みなわけではなく、列車に揺られバンブータイガー共和国の隣にあるタートルジェイド子爵領に向かっている途中。
従者とか関係なしに俺とライナスは列車の椅子に全身を預け、溶けるように座る。随分と久しぶりに書類を見ないでいい。
「テラパワー以外で会うのは久しぶりね」
対面に座るクロエが話しかけてくる。
少し姿勢を正す。
「俺がテラパワーに缶詰だったからな」
クロエとパーシーには定期的に会っていたが、二人がテラパワーに来て顔を見に来てくれていたから会えていただけ。
二人がテラパワーに来ていたのは俺に会いにくるためだけではなく、新しい装備のためでもある。俺もヘカトンケイルの素材で装備を更新している。
「アイクとライナスはテラパワーの社員と一緒に移動しなかったのね」
「あっちは人と機材でいっぱいでね。少しでも席を空けるため俺とライナスは騎士団と行動している」
大砲と無限軌道を整備するためテラパワーの社員がタートルジェイド子爵領に向かう。モンスターが溢れそうなダンジョンへ向かうため、同行の強制はしていない。同行する場合、危険手当はかなりの額を支給する。
タートルジェイドに行きたがる人はいないかと思っていたが、アックスオッター出身の社員を中心に同行を申し出てくれた。師匠やハーバートも今回は同行している。
テラパワーはサブリナたち役員に任せた。「会社の決裁権持っている3人ともいなくなるな」とか色々と言われたためサブリナに決裁権渡しておいた。
決裁権簡単に渡すなと怒られたが、サブリナならやってくれる。色々な意味で信じている。というか、俺、ライナス、師匠は錬金術師で経営者向きでないと今更ながらに理解した。
「大砲や車両の生産は途中で改善したと言っていたけれど、結局どの程度完成したの?」
「目標の生産数は全て揃えた。今は追加分を生産輸送している」
今は大砲と戦車を中心に量産している。
名前付きのダンジョンはアックスオッターで発生したダンジョンと同じように、大きな一部屋になっている場合が大半のようだ。戦車と大砲は名前付きのダンジョンだけでなく、成長しきった深層ダンジョンの地上の掃討にも使えると注文数が多い。
生産数はどこかで頭打ちになるだろうが、砲弾は消費を続けるため資金繰り的には問題ないと考えている。
「トリスからテラパワーで作った物一式をセレストドラゴン王国に送ると聞いているわ」
「らしいな。列車砲まで船で運ぶと聞いている。注文が入った場合は、技術を売るかテラパワーの支社をセレストドラゴン王国に作る必要があるな」
「セレストドラゴン王国に支社を作る場合は私を通せばいいわ」
「そうなったら頼む」
セレストドラゴン王国から注文が入るとは思っているが、実際にどう動くかは社内で検討段階。他国に支社を作って連携できるのかという問題が大きく、技術を売るのも視野に入れている。
テラパワーの支社をセレストドラゴン王国に作るのはクロエという繋がりから簡単ではあろうがな。
2日かけタートルジェイド子爵領の駅に魔石列車が到着する。
荷物を持って列車から目的地の街へと降りる。
駅から外に出ると港町のようで、アックスオッターと同じように潮風を感じる。海まで続く街は普通の家と低層のビルが混じっており、今後発展しそうな雰囲気を醸し出している。
普段は賑わっていそうな街の中はすでに避難が開始されているため、騎士団関係者が多く一般人が少ない。
固まった体をほぐすように大きく伸びをする。
列車での移動とはいえ、久しぶりののんびりとした時間を満喫した。
「アイクはよく寝ていたね」
パーシーが苦笑している。
「おかげで寝不足が解消された」
「無理もほどほどにね」
「ほどほどにしたいが、名前付きのダンジョンができるとわかっていて無理しないわけにもいかないだろう」
俺の頑張り次第で人の死ぬ数が減る。
王家がテラパワーを相当に優遇して無理を通したのも人の被害を極力減らすため。王家の力の入れようも今回は違う。
パーシーと街を眺めながら話しているとベアトリクス様が近づいてきた。
「クロエ、アイザック、パーシヴァル。父上が呼んでいるそうだ」
「すぐ参ります」
「車が用意されている。一緒に向かう」
「はい」
今回の総指揮を取るのはルーファス国王陛下。
国境を越えてダンジョンを討伐するため、ルーファス国王陛下自らが指揮を取る。
街でも一際大きい屋敷に車で移動する。
実家であるアックスオッターの家と同じように庭が禿げ上がっている。騎士が庭で訓練しているのだろうと想像がつく。タートルジェイド子爵が住む屋敷なのだろう。
屋敷の中は緑色の飾りが多く、一瞬魔石かと警戒してしまう。
近づいてよく見ると魔石ではなく、翡翠の工芸品だとわかる。
「アイザック、魔石を装飾品のように扱う者はそういないぞ」
俺が何を警戒したのかベアトリクス様に察知された。
「そのようです。失礼しました」
「まあ、妾も翡翠の産出が多い地域だと知らねば警戒していたとは思うがな。つい最近魔石を集める非常識がいたからな」
「はい……」
「魔石を処理するのも大変だったそうだ」
デレクが集めた魔石はすでに回収されている。
保管方法がやはり杜撰だったようで、周囲の住人を避難させた上で回収したそうだ。爆発や炎上するような事故は起きなかったそうだが、相当に手間をかけて回収したと聞いている。
翡翠の飾られた屋敷の中を歩き、一際大きな部屋へと入る。部屋の中には筋肉で盛り上がった人が揃っている。広い部屋なのに狭く感じる。
「父上」
「ベアトリクス。よくきた」
ルーファス国王陛下がベアトリクス様に笑いかける。
王家の親子関係が悪くないのがよくわかる。
「ベアトリクスは会ったことがあったな。カール・オブ・セレストドラゴン殿下だ」
「ベアトリクス殿下、お久しぶりです」
「カール殿下、お久しぶりです」
今回のダンジョン討伐にはセレストドラゴン王国に支援を願っている。
スカーレットドラゴン王国内には毎日のようにダンジョンが発生しており、名前付きのダンジョンと連戦するとは本来想定してはいない。
「クロエ、久しぶりだな」
「カールお兄様、久しぶりね」
クロエの兄であるカール殿下は白い大きな角に薄い青の髪、風格があるが若いようにも思える20歳半ば程度だろうか。
髪と角の色だけ見ればクロエと兄弟だとわかるほどには似ているが、体格が二人は大きく違う。クロエは鍛えているが健康的な範囲の筋肉量だが、カール殿下の体は筋肉で盛り上がっているのが服の上からでもわかる。
クロエは鍛えているが女性なのと年齢的にもそう筋肉が大きくならないからな。
「随分と大きくなったな」
「お兄様も以前より体が大きくなりました」
「クロエが送ってくれたトレーニング器具のおかげで随分と筋肉がついた」
カール殿下は20歳半ばは超えていそうなのに大きくなるとはどういう意味かと思ったが、筋肉が大きくなるって意味か。
そういえばクロエに頼まれてテラパワーのトレーニング器具を送ったな。クロエに頼まれて送って以降、定期的にセレストドラゴン王国から注文が入るため少なくない数を輸出している。
「カールお兄様、パーティーを組んでいるアイザック・オブ・アックスオッターとパーシヴァル・オブ・ウォールナットスクワローよ」
「アイザック・オブ・アックスオッターと申します」
「パーシヴァル・オブ・ウォールナットスクワローです」
カール殿下に頭を下げる。
「クロエの手紙に書かれていた二人か。アイザックとパーシヴァルには会ってみたかった」
「光栄です」
俺とパーシーが頭を下げる。
カール殿下からトレーニング器具について感謝されたり、セレストドラゴン王国でもトレーニング器具が流行っていると教えられる。
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