第67話 忙しすぎるテラパワー
忙しい。
書類に忙殺される日々。
山のように積まれた書類に目を通していく。
新人騎士の訓練を免除されたため助かっている。
どうも元々俺は免除しても問題ないと思われていたようだが、クロエとパーシーに合わせて訓練を継続されていたらしい。クロエとパーシーも獣化して体力が増えたため、必要がないと判断されたようだ。
訓練の免除によって新人扱いしないと宣言されたわけだ。
そもそも新人騎士扱いされていなかった気もするが。
訓練と同時に騎士団のダンジョン討伐も俺が向かう回数は特別に減らされている。
訓練もなく討伐にもいかない。
椅子に座ってばかりのためトレーニングで体力は落とさないようにしているが、精神的に疲れていてトレーニングに集中できない。それでもトレーニングを続けなければ騎士の活動に差し障りがでるため頑張っている。
「列車砲の搬出準備がもうすぐ完了します」
テラパワーの社員が呼びに来た。
一緒の部屋で仕事をしていたライナスと顔を見合わせる。俺は脱いでいた制服の上着を着る。ライナスもスーツの上着を着た。
書類が山積みにされた部屋から出る。
車に乗って列車砲のために用意された工場へと移動する。
列車砲の搬出が手間なのを知った王宮が線路近くの工場を買取。工場内に本線まで続く線路を作ってしまった。線路の上で列車砲を組み立て、そのまま搬出できる。
国家事業ならではの力技。
工場では多くの人が動き回っている。
テラパワーの社員だけではなく、王宮からの人員に、列車の車両を専門にする会社からにも人を出してもらっている。
短期間で列車砲を製作するため、王宮が色々と段取りを整えてくれた。
「分かってはいたが、大きいな」
列車砲の前に立つ。
「車体全体を含めると25メートルほどになります。普通の車両が20メートル程度であるため実際にはさほど大きさは変わりません。大きく見えるのは大砲があるため背が高く見えるからでしょう」
近くに来たハーバートが説明してくれる。
すぐにハーバートが来たのは俺だけ騎士団の制服であるため目立つのだろうな。
「砲身だけでも10メートルはある。安定させるのに車体も相応の重量がないといけないか」
「100トンは余裕で超えております」
舗装していない道など確実に動かせない。
線路でなければ運べない重量にまで増えな。
「王宮から材料をもらえて助かったな」
「はい。ダンジョンから持ち帰った武器のため精製する必要はありはしましたが、幸い錬金術師の数が揃っていたため人海戦術でどうにかしました」
話していると工場の大きな扉が開く。
湯気を上げながら魔石機関車がゆっくりと後ろ向きに工場内に入ってくる。工場内が機関車から放出される蒸気で白くなる。
ゆっくりと魔石機関車と列車砲が近づいていく。
連結部分がぶつかる音が工場内に鳴り響く。
魔石機関車が完全に止まって連結作業が始まる。
「連結完了! 列車砲ブレーキ解除!」
何度も連結確認された後、連結作業が終わる。
魔石機関車が再び蒸気を上げ始めると、連結部分から金属音がなるが機関車と列車砲はそれ以上動かない。すると機関車が凄まじい量の蒸気を上げ始める。
工場内に蒸気が充満する。
次第に魔石機関車と列車砲がゆっくりと進み始める。
人が歩く速度で魔石機関車と列車砲が工場内から出ていく。
「動いたか」
「理論上は魔石機関車の余力はまだあると分かっていましたが、安心しました」
列車の後をついていくように工場内から外に出る。
列車は工場から出ると目の前にある線路へと合流していく。
「無事搬出できたか」
列車が遠くなるまで見守る。
振り返ると皆が安堵した表情を浮かべている。
やはり理論上と本当に動くかどうかは実際に見てからでないと安心できないな。
「ハーバート、あと2門頼むぞ」
「1門作り終わりましたので、要領はわかりました。次はもっと早く作れるかと」
「怪我のないようにな」
「はい」
テラパワーで仕事をしていると扉が勢いよく開く。
山になった書類が一部崩れる。
普段はそんな開け方をする社員はおらず、驚きながらも崩れた書類を集める。
「忙しすぎるわ!」
文句を言いながら入ってきたのはバレットアームズの元社長サブリナ・バニー。親からバレットアームズを継いだサブリナは茶色の髪に黒目の若い女性。うさぎ耳が頭部にあるうさぎ人。
ハーバートはむさい男のうさぎ人だが、サブリナは若いきれいなうさぎ人。どうも二人は種族が同じで年齢が近いのもあり、銃器を取り扱っているのも共通しているため親交があったようだ。
「忙しいのは同意する。辞めないでほしい」
つい引き止める言葉が口から発せられる。
「辞めないわよ!」
「良かった」
俺とライナスの安堵が重なる。
「人員が足りなさすぎるのよ。列車砲と大砲を売却したお金で会社を買収して人を増やすわ」
「確かに現金はあるな……」
現金が入ってきても材料費と社員のボーナスに使う程度で投資する暇がない。
「テラパワーの銃器部門に入ったバレットアームズは銃器関係専門で車両製作は専門外。車を作っている会社を買収すれば少しは楽になるわ」
バレットアームズを含め、経営統合もしくは買収した企業は銃器系統の会社で揃っている。
「生産が落ち番遅れているのは無限駆動の車両か」
「四輪駆動の車も作りたいわ。売れるのに生産止めているのは勿体無いわよ」
四輪駆動車も無限駆動の車両も全て作りたくはある。
人がとても、とても欲しい。
「しかし、そんなすぐに買収できるような企業があるのか?」
「弾薬のように車も魔石を使って走っているわ。燃料である魔石が高騰すれば車両の売り上げが緩やかに落ちていく、そろそろ経営に火がついている会社が出てくるはずよ」
魔石を使う弾薬ほど直接的ではないが、車も魔石の高騰によって売り上げが落ちるのか。
「今なら買収提案に乗る可能性が高いのか」
「ええ。技術力があってテラパワーより規模の小さな会社を狙いましょう」
サブリナの手法は多少強引にも思えるが、人が足りていないのは間違いない。
俺とライナスは騎士や錬金術師が本業で会社の経営者としては三流。
社員が増えるとそれだけ人件費が必要になるが、受注が止まる様子は当分ない。会社が大きくなって困る理由は特にないか。
「会社の選定を任せても?」
「任せて」
サブリナは大股で歩いて部屋を出ていく。
扉を勢いよく閉めるため、また書類の山が崩れた。
崩れた山を戻しながら、書類の山が消えてくれるのを祈る。
サブリナの仕事は早かった。
車を生産する会社の買収は成功。
サブリナの手腕で買収先の社長から役員まで全てテラパワーで雇った。一人たりとも逃さないという気迫は凄まじいものを感じた。
会社買収の効果はすぐに現れた。
「本当に助かった」
「会社経営なら任せなさい」
大砲、無限駆動の車両の生産も順調。
書類の山も多少減った。
「しかし、サブリナは優秀なのになぜバレットアームズを潰しかけたんだ?」
「魔石は価格が多少変動する程度で安定しているもの。価格が高騰する前提で計画しません」
確かにダンジョンが討伐され続けている状況で魔石の価格が高騰するとは思えないか。デレクのように魔石の価格を釣り上げようとするには相当の資金が必要で、普通やろうと思う人はいない。
仮に価格が安定している時に貯蔵しようにも魔石は危険物。企業が長期保管すれば事故につながりかねない。
魔石を適当に保管するのは無知なデレクくらいなものだ。
魔石の高騰は自分きっかけではないが、一族が関与している。
「そうなるとサブリナには申し訳ないな」
「魔石の高騰理由については聞いています。私が経営判断を失敗しただけで、アイザック様に非はありません」
「そう言ってもらえると助かる」
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