第66話 試射
大砲を牽引している装甲車と戦車が大量の蒸気を吐き出す。
10メートルの大砲は16トンあり普通の車では牽引が不可能。砲身だけでは撃てないため、台座なども作り総重量はありえないほど増えた。
特大の鞄でも入るわけがなく、牽引して持ってくるしかなかった。
試射の候補地は海岸線沿いで車がはまって動かなくなるなど色々あり、現在は無限駆動の装甲車と戦車で引っ張っている。
「よく持って来れたよな」
「もう社内に戻したくありません」
「試射が成功した場合は列車にする必要があるんだが?」
ライナスがため息をつく。
王都から離れた場所に持ってくるだけで大変だったからな……。本当に社内に戻したくないな。
「アイザック、あの車両もいいな」
「ベアトリクス様、テラパワーの生産能力には限界というものが存在しております」
一度に全部は無理。
製品を一度に作りすぎたのが悪いのだが、全部生産となってはテラパワーの従業員が倒れるか辞めてしまう。
「優先順位を決める必要があるか」
「はい。そうしていただけますと助かります」
ベアトリクス様と話している間にも大砲を試射する準備が進められていく。
大砲が目標地点にまで到達すると、最大距離で飛ばすため大砲に角度がつけられる。ハーバートが指揮をとって角度が調整される。
角度の調整が終わると巨大な砲弾が大砲に装填される。
装填が完了した状態になってしばらくするとハーバートが合図を出すと10と書かれた旗が上がる。
「10分後砲撃試験をいたします。耳栓の装着を願います」
すぐに砲撃試験をせず、余裕を持たせてある。
凄まじい音がすると予想されるため、確実に耳栓ができる時間を作った。
「父上、兄上」
当初の予定通りにフランク王太子殿下にルーファス国王陛下が見学に来ている。
王家の方々が耳栓したのを確認した後、俺も事前に配られていた耳栓を耳に挿入する。
潮風を感じる青い空の中、10分から順番に1分の旗に変わる。
忙しく動き回っていた人も立ち止まり、砲撃されるのを待つ。
最後の発射合図である赤字に0の旗が上がる。
——ドゴンッ
大気が震え音の振動が全身を震わせる。
耳栓で耳を塞いでいるのに音が貫通している。
砲身より飛び出た砲弾は凄まじい速度で空高く飛んでいく。
あまりの速度で飛んでいくためすぐに見失ってしまう。見失ってしまったが、音速を超えていそうな速度を目視で追える自分の身体能力にも驚きではある。
高所に設置された観測所を見ると、砲弾が落下した合図の赤い旗を掲げた。
ベアトリクス様の方を見る。
「————」
ベアトリクス様は口を開いているが何も聞こえない。
なぜだと考え、耳栓していたのを思い出す。自分の耳から耳栓を外す。
「耳栓していたのだったな。忘れていた」
ベアトリクス様も耳栓をとっている。
「15キロメートルも飛ばせるのかと半信半疑であったが、少なくとも数キロは確実に飛んでいるな」
「はい。砲弾の軌道から考えると成功していると思われます」
10キロメートルは最低でも飛んでいると思うが、実際の飛距離は測ってみないとわからない。
距離が遠い分、着弾地点の確認に随分と時間がかかる。
「次は普通の大砲であったか」
「次の試射の前に砲身が破損していないか確認が必要ですので、確認完了まで大砲と戦車を試射します」
着弾地点の確認は後回し。
15キロの移動にもなると車で移動しても往復するのに30分以上かかる。着弾地点を探すための時間も必要になり、一発撃って確認していては試験が終わらない。何発か撃ってから着弾地点を確認する。
10メートルの大砲は現在、煤をかき出されて砲身を確認されている。
煤が若干緑色なのは魔石が一部完全に燃焼しきっていないのかもしれない。火災が起きないように水を用意した方がよさそうだな。担当者が気づいていると思うが、近くにいたテラパワーの社員に指示を出しておく。
「普通といっても銃と比べたら大きい。持って使うのは不可能か」
「はい。砲身が短いものでも2メートル、大きいものですと7メートルに達します」
俺が大砲について説明している間も、大砲の責任者であるハーバートが忙しそうに動き回っている。
10メートルの大砲よりも先に用意されていた普通の大砲は車で牽引できるように台車がある。四輪駆動車で牽引できるため、10メートルの大砲と比べて取り回しがとてもいい。
大砲に砲弾が込められ、砲撃試験が始まる。
10メートルの大砲に比べてしまうと迫力がないが、それでも砲撃すると凄まじい音とともに振動が体に伝わってくる。
砲身の長さから口径の大きさまで様々な大砲があり、試写を繰り返して結果を記録していく。
「飛距離は圧倒的に大型の大砲が勝るが、十分に飛んでいる」
「短いものですと1キロ以内ですが、最長は2キロを超えると計算しております」
大砲は緑色の煙を上げながら砲弾を撃ち出す。
ある程度試射したところで計測して、大砲ごとに情報を取る。
10メートルの大砲と普通の大砲を交互に試射していく。
朝方から始まった試験は夕方を迎える。
10メートルの大砲がどの程度飛んだのかを確認しに着弾地点に向かう。
「計算通りに15キロメートルとはな」
ハーバートの設計と計算は完璧だったようだ。
「着弾地点も想像以上に安定しています」
15キロを飛ばすと1キロ以上誤差が出るかと思っていたが、500メートル程度に着弾地点が固まっている。
「アイザックの構想は列車砲であったか」
ルーファス国王陛下が俺に尋ねてくる。
「はい。砲身のみで38トンという重さは車で牽引する方法では輸送が困難です。列車であれば移動範囲は限定的になってしまいますが、輸送に耐えるのではないかと想定しています」
「線路上から15キロ先のダンジョンを砲撃か。15キロもあればダンジョンに届きはするな」
「限定的な使い方になりますので、列車砲の数は必要ないと思っております」
名前付きのダンジョンを討伐する機会などそうない。普段は使い道のない列車砲は数問あれば十分だろう。
「予備を含めたとしても10門もあれば十分であるな」
「最初は実験的な運用で2門もあれば十分だと考えております」
1門では破損や故障の不安が残る。予備でもう1門あれば十分だろう。
「平時であれば2門で良いが、バンブータイガーの問題がある。3門用意したい。できるか?」
「お任せください」
「頼んだ」
1門は完成している。後2門と考えればできなくはないだろう。
「通常の大砲はどれほど生産できる?」
次はフランク王太子が尋ねてくる。
「できる限りは急ぎ製作いたしますが、期限によるとしか申せません」
「期限か。確かに先が見通せぬな……。100門は王家が確実に買い取る。可能な限りで構わぬので製作を願いたい」
「承知いたしました」
なんとか生産数を抑えるのに成功する。
「無限駆動の車両についてはどうだ?」
次はベアトリクス様。
「四輪駆動車の生産を一時的に止めればどうにか」
「数は任せる。戦車を多めに」
「分かりました」
四輪駆動車の生産始まったばかりだが仕方ない。
忙しすぎると思わず黄昏てしまう。
海がきれいだ。海、水。
「バンブータイガー共和国のダンジョンは水に近くはないのですか?」
「比較的近い。バンブータイガー共和国自体が半島にあるため周囲に水が多い」
「無限駆動のポンプを乗せた車両があるのですが」
「ふむ……戦車は最悪大砲でどうにかなるか。ポンプを乗せた車両を多めにせよ」
「承知しました」
テラパワーで生産する装備を詰めていく。
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