第65話 休養明け
俺はクロエとパーシーと共にベアトリクス様の部屋に入る。
休養明け早々に呼び出された。
騎士団の制服を着たベアトリクス様からソファーに座るようてで合図される。話が長くなるのだと理解する。
お茶が出てきたところでベアトリクス様が話しかけてくる。
「3人とも一ヶ月の休養はどうだった?」
「暇だったわ」
「竜騎士学院で本を借りて読んでいました」
「忙しかったです」
休養であったのに俺だけ回答がおかしい。
ベアトリクス様の視線が俺に向いて苦笑している。
「アイザックは相変わらずテラパワーが忙しいか」
「はい……」
テラパワーの規模は3倍になったのに仕事が3倍くらいになっている。仕事まで増えてしまうと忙しいのは変わらないんだよ……。
師匠が選出したテラパワーの役員の継続は即決してそのまま仕事をしてもらっている。むしろ頭を下げて役員を辞めないでくださいとお願いしたとも。
「申し訳ないがテラパワーには仕事を追加で頼みたい」
まさかのベアトリクス様から仕事を増やす宣言。
これ以上増えるの……絶望で目の前が暗くなる。
それでも尋ねなければならない。
「どのような仕事か尋ねても?」
「テラパワーが試作した大砲の試射を急いで欲しい」
「場所さえ提供していただければすぐにでも」
休養中に王宮へ試射の申請はしている。
場所さえ選定されれば、大砲自体は存在しているため試射はすぐに終わる。
「場所は選定させた」
15キロメートルもの試射、選定までもっと時間がかかると思っていた。
早すぎる展開に嫌な予感がする。
「ベアトリクス様は何をそこまで焦っておられるのですか?」
「バンブータイガー共和国はダンジョンに核を与えていた。いつ名前付きのダンジョンが発生してもおかしくはない」
そうだ。忙しすぎて忘れていたが、デレクが知識を得たのはバンブータイガー共和国からだった。
ダンジョンに核を与えた個数はわからないが、アックスオッターのダンジョンより成長している可能性が高い。今の瞬間にダンジョンからモンスターが溢れてもおかしくはない。
「バンブータイガー共和国はダンジョンの討伐に動かないのですか?」
「スカーレットドラゴン王国から送った使者の忠告に半信半疑だったようだ。それに今から討伐に動いたとしても間に合わない。3つものダンジョンに核を与えていたからな」
「3つ!?」
顔が引き攣る。
100層まで成長し切っていないアックスオッターのダンジョンでも討伐は相当苦労してたというのに、3つは多すぎる!
「ダンジョンの1つがスカーレットドラゴン王国とバンブータイガー共和国の国境付近にある。名前付きのダンジョンができた場合、スカーレットドラゴン王国の街が一つ消える可能性がある」
「そんなに近い場所にダンジョンがあるのですか?」
「ああ。名前付きのダンジョンはモンスターの活動範囲が深層ダンジョンより広い。街の一部が活動範囲に被っていると想定される」
ダンジョンに核を与えるとどうなるか知らなかった可能性が高いとはいえ、国境付近のダンジョンを選ぶのは非常識すぎる。ダンジョンなどどこにでもできるというのに。
「越境してのダンジョン討伐はしないのですか?」
「討伐に向かいたいところではあるが、バンブータイガー共和国と揉めながら討伐できるダンジョンではない」
アックスオッターのダンジョンでは犠牲者を出していた。他国と揉めながら討伐すれば犠牲者が確実に増える。
バンブータイガー共和国がダンジョンを討伐する前提でなければ動くのは難しいか。
本当に厄介な場所のダンジョンに核を与えてくれたものだ。
「ダンジョンからモンスターが溢れる前提で国は動くのですか」
「街の放棄を前提にしているが、住人が素直に指示を聞くとは思えないのでな。時間稼ぎをする必要がある」
アックスオッターも街を破棄して避難するように指示は出ていたが、素直に指示に従った人数は少ない。
結果的には避難する必要はなかったが、ヘカトンケイルを街の目立つところに飾って、避難しなければこれが襲ってきていたと示した。解体されているとはいえ、ダンジョンボスの大きさにアックスオッターの住人は驚き青ざめていた。
一般人はダンジョンが恐ろしい場所だとは知っているが、どこまで恐ろしい場所なのかを知らない。
「モンスターの牽制に大砲、避難用に装甲車といったところですか」
「そうだ。申し訳ないが早急に用意する必要がある」
ハーバートの作った大砲がどの程度完成しているかが問題だな。
随分と計算していたようなので理論上は問題なく動作するとは思うが、実際に使ってみないとわからない問題は確実にある。
「早急に大砲の試射を実施します。運搬のため王宮から特大の鞄をお借りしたい」
「鞄だけではなく人員も出す。運搬を手伝おう」
「ありがとうございます」
会社の人数が増えたとはいえ、10メートルの砲身を運ぶのは難しい。王宮ならばダンジョンから巨大な物を運び出すために機材があり、運び慣れている人も多い。
「試射の見学には妾とフランク兄上がいく。父上も予定が空けられれば参加する」
「……え?」
「期待している」
見学に来るのが王太子殿下と国王陛下!?
期待が、期待が重すぎる!
「尽力いたします……」
胃が痛みそうなので、実際に開発を頑張るのはハーバートだと思っておく。ハーバートなら平気な顔で開発してくれる。
ベアトリクス様が頷き、飲み物を飲んでいる。
ティーカップでなく普通のコップであるのに気づく。中身の色からプロテインを早速飲んでいるのだと気づく。
「次はディランとディランが経営していたブラックウィングについてだ」
「何かわかりましたでしょうか」
「元々ディランは4男でブラックウィングを継ぐ立場ではなかったようだ。両親と兄弟を殺して会社の経営権を奪いとったと噂されている。調べた結果、同時期に家族が死んでおり、噂は真相に近いと判断した」
デレクもまた父と兄を殺した。
「父と兄を殺したデレクに似ていますね」
「おそらくディランの影響だろうな」
「祖父に似た孫か……」
身内を殺してでも経営権を奪い取る非道な人物に傾倒したデレク。
今更の話であるが、デレクをアックスオッターに迎え入れるのはそもそも間違いだったか。
「ディランには家を出ていた時期があるようで、両親を殺すまでの間に空白期間がある。どうもアックスオッターを出て他の場所に行っていたのか足取りが掴めていない」
「アックスオッターから捜索範囲を広げる必要があるのですか」
「そうなる。どこに行ったのかに合わせて探すが、痕跡を追えるかは微妙なところだ」
そもそもブラックウィングは貿易会社。
4男であろうとも多少は家業を手伝っていただろう。相当広い範囲を移動していたと予想できる。
「獣化ができたディランはギルドに登録していないのですか?」
ギルド員であれば足取りを追える可能性がある。
「ディランがギルドへ登録した形跡はなかった。偽名を使っている可能性もなくはないが、偽名で登録するのは難しい。そもそも登録していないのではないかと考えている」
「戦闘経験もなしに騎士相手に逃げ切ったのですか」
ダンジョンボスと戦い体力と魔力は限界だったが、騎士が普通の老人相手に逃げられるとは……。
「戦闘経験がないとは限らない。ギルドは国を跨いで存在しているが存在を認めていない国もある。例えばバンブータイガー共和国などな」
「ディランがアックスオッターを出た空白期間にダンジョンに行っていた可能性があるのですか……」
「そうなる」
ベアトリクス様が頷き再び口を開く。
「分かっているのは以上。またデレクとディランについて何かわかれば伝える」
「ありがとうございます」
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