第64話 次々にできた発明品
セリアンスフィアでダンジョンがなくモンスターがいない場所はない。地球はセリアンスフィアに住んでいる人からすると、夢の中で見た世界といわれそう。
セリアンスフィアは地球と比べると随分と過酷。
「地球では学生だった」
正確には大学生。
オタクだがジムに通う珍しいタイプではあったように思う。
「学生って魔法学園みたいな?」
「いや、一般人が通う普通の勉強を教わる学校」
スカーレットドラゴン王国には魔法学園とは別に庶民が通う学校がある。一般人の師匠は学校に通って錬金術を覚えている。歳が離れているがハーバートは師匠の後輩に当たる。
「戦いの経験は?」
「ないよ。体を動かしてはいたが、武術の経験はない。喧嘩すらしていない」
「それで騎士を辞めたがっていたのね」
「戦いの経験がないのもあるけど、刺されて死んだ感覚を覚えているのだ。最初は痛かったのに徐々に痛みもなくなり、血がなくなっていく感覚。死の間際は死を怖いとは感じずに逝ったんだが、転生した後に思い出したら感覚がなくなっていくのが逆に怖くてね」
本当に嫌な記憶。
忘れようとしても頭にこびりついて消えない。
「最悪な記憶ね。騎士を辞めたがるはずだわ」
「辞められなくなってしまったがな」
生まれ変わったアイザックという体の適性は完全に騎士なんだよな……。
力、体力、防御力。どれをとっても優秀な騎士の適性。アックスオッター家の血は騎士として優秀すぎる。
「ところで平和な国でアイクは刺されたの?」
「通り魔だったんだよ。俺を指した後、他の人にも襲いかかっていた」
「逃げるとか倒すとかは?」
「今の俺なら余裕で倒せるが、転生前は普通の一般人だったから逃げれもせず棒立ちで刺されておわり」
「そういえば一般人と言っていたわね」
クロエは今の俺と転生前の俺が一致しないようだ。
今の俺しか知らないため当然と言える。
「大砲やら無限軌道をどうやって思いついているかに戻すと、地球の知識から話をしているだけなんだ。完成形を知っているだけで、別に俺が考え出したものではない」
「最終的な完成形を知っているから作るのも早いのね」
「その通りだな」
もっとも、俺は構想を話すばかりで作っているのは師匠やハーバートだがな。
クロエが俺の説明に納得したのか何度か頷く。
「アイクが発明したものは一つや二つではないわ。本当に転生したのね」
「信じてくれるか?」
「普通なら信じないところだけど、アイクなら信じるわ」
「ありがとう」
普通なら信じないというのはとても理解できる。信じてもらえるのは嬉しい。
時折俺も本当に地球で生きていたのかどうか分からなくなる時がある。死の恐怖は消えないままに自己がわからなくなるのは辛い。誰かに信じてもらえるのは心の支えになる。
「僕も信じるよ」
「ありがとう、パーシー」
黙って聞いていたパーシーも信じてくれる。
二人が信じてくれるのなら地球があったと強く思える。
「アイザック様、私聞いて良かったので?」
「ハーバートはなんとなく察していただろ?」
「なんだかんだでテラパワーに入って長いですから、アイザック様の構想には元になったものがあるのは察していました」
ハーバートは俺の足りない構想を聞いて、構想を実際に具現化してしまう天才。作っていて違和感に気づかないわけがない。
「誰かに話したところで信じられるとは思えないが、秘密にしておけばいい」
「アイザック様が転生したと話しても私の頭を心配されるだけです」
「その通りだ」
ハーバートは普段の言動が変であるため、寝不足かと思われて終わりそうだが。
「俺の話はこの程度でいい。試作された装備は以上か?」
ハーバートが師匠を見る。
どうやらハーバートが開発した装備は以上のようだ。
「試作ではなく製品がある」
「製品? 装甲車の製作が始まるのですか?」
「装甲車もテラパワーの生産能力が増強されたため近日始まるが、装甲車ではない」
装甲車以外……?
「何か他に製品を作っていましたか?」
「ウォルナットスクワローで作っているプロテインの量産が開始された」
「ああ、プロテインか」
すっかり忘れていた。
プロテインはガトリングと同時期に開発を始めたのだが、予算と人員の差から随分と時間がかかった。もう一つ同時期に開発を始めた高重量のトレーニング器具はすでに販売しており、売上はとても好調。俺も獣化を経験した後は愛用している。
開発期間が1年で複数の売れる製品を出しているのは早い気がしてきた。
「量産すると決めた配合のプロテインは研究棟に置いてある。飲んでみるか?」
「飲みに行きますか」
屋内に移動して製品になったプロテインを味見。
俺は散々飲んだのでクロエとパーシーの評価を聞く。
「美味しいわね」
「美味しいと思うよ」
二人の反応は上々。
「販路はトレーニング器具と同じように貴族向けにいたしましょう。一般流通させるには数が少ないと思われます」
「そうするか」
ライナスの提案通りにする。
トレーニング器具を販売する社員にプロテインの販売もお願いする。
「師匠他には何かありますか?」
「プロテイン以外だと、ダンジョンとユニークモンスターの核はまだ調査中になっている」
「王宮からは長期間でいいと言われています。時間をかけても問題ありませんよ」
「とりあえず簡単に割る方法を探して、既存の割り方で割ったんだが問題ないか?」
「要望にもありましたから問題ないかと。割って足りなくなれば追加をお願いしますよ」
「それでは1個ずつ追加してもらうか。割ってしまったからな」
「分かりました」
割ってしまうと壊れていない状態を調べられないからな。
核はダンジョンに与えればモンスターが増え、割るのも大変とは厄介な存在だな。
ふと、なんで核を割るのか知らないのに気づく
モンスターのコアと違ってダンジョンの核は爆発しない。なんでわざわざ割る必要があるんだ?
竜騎士学院で調べればいいのだろうが……。
「クロエかパーシー、ダンジョンとユニークモンスターの核をわざわざ割る理由知っているか?」
パーシーが横に首を振る。
知らないか。
「ダンジョンに吸収させないためよ。割れば吸収できなくなるわ」
今度自分で調べるかと考えたところでクロエが理由を教えてくれた。
ダンジョンに核を与えないためだったのか。
「割ればダンジョンが吸収しないのか?」
「使えなくするという意味では割ってしまうのが確実ね」
俺が納得したところでハーバートがクロエに質問する。
「ユニークモンスターの核は割らないのですか?」
「割って捨てるのが習慣にはなっているけれど、ユニークモンスターの核は割る必要はないわね」
割る必要ないのか。ダンジョンの核に比べればユニークモンスターの核は少なく、数を考えると割って捨てる手間もそうかからないか。
プロテインを飲みながらクロエの説明に納得していると、クロエがこちらをみる。
「ねえ、アイク」
「クロエ、どうかしたか?」
つい先ほども同じやりとりをした気がする。
次は何を聞かれるのだろうか。
「仕事減ったと喜んでいたけれど、むしろ新しい仕事が増えていない?」
「………………」
ライナスと顔を見合わせる。
無限軌道の装甲車、ポンプ車、洗車。大砲、列車砲。プロテインに核の研究。
それだけではなく既存の製品である、トレーニング器具、ガトリング、装甲車の生産もある。
血の気が引いていく。
「やりすぎた」
「規模が3倍になっても研究、生産する物が3倍以上になっては……」
また書類の山に囲まれる。
「俺の時間が……」
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