第63話 大砲
戦車の方針が決まったため、次は大砲かと移動しようとする。
「アイザック、もう一台ある」
「装甲車と戦車以外にも?」
「戦闘用ではないがな」
実験棟がある方向へと師匠が歩き出す。
魔石や可燃物が発火した場合に消化用に水が貯めてある貯水池へとたどり着く。
置いてあったのは消防車のような見た目のホースが伸びた無限軌道の車。
「師匠これは?」
「水を汲み上げ、ダンジョンに水を流すためのポンプを積んだ車だ」
ダンジョンは水で沈めれば討伐できる。
巨大なポンプはダンジョンまで運び込むのが大変なため、車に乗せたというわけか。
「ポンプまで作ってませんよね?」
「さすがに作っていない。既存のポンプを買って、動力部と連結させて出力を上げた程度だな。車体自体もポンプを乗せられるように作っているだけで、あまりいじっていない」
「既存のポンプを流用したのなら耐久性も問題なさそうです」
師匠の判断に間違いはないと俺も思う。
ダンジョンの討伐に使うポンプはスカーレットドラゴン王国が大金を払って開発している。既存のポンプで十分に出力がある。
今からポンプ業界に参入するよりも既製品を買って取り付けたほうがいい。
「どの程度役に立つかは分からないが、自走した方が役に立つかもしれないと思ってな」
「特大の物が収納できる鞄は数が限られていますし、使い勝手はいいんじゃありませんか? というか、テラパワーの工場で火災が起きた時に使えそうです」
「火災か。確かにな」
使い道が結構あるように思えてきた。
「ポンプを積んだ車の開発も継続しましょう」
「分かった」
さすが師匠、いいものを作る。
ついに大砲の元に向かう。
固められた土の上には、台車に乗せられた大砲が置いてある。大砲は細身で口径が大きくないのが見えて取れる。
大砲を前にハーバードが元気に説明を始める。
「アイザック様の構想から着想を得て製作した大砲は、連射速度を少しでも上げるため、砲弾を後ろから装填する後装式の大砲にいたしました。しかし、速度は追及しましたがガトリングに比べると圧倒的に連射速度は遅いといえます」
「大砲で連射速度を上げるのは無理だろうな。大量に並べるしかない」
モンスターの攻撃範囲外から打つ前提であれば連射性能はある程度で十分。
「現実問題として運搬が可能であり、ある程度の連射ができる砲身の口径は100ミリ前後までだと考えております。弾頭が100ミリ前後ですと飛距離が1キロメートルから2キロメートルだと試算しております」
「ガトリングの口径が10ミリだったか。飛距離も1キロメートルもあれば十分じゃないか?」
口径が大きくなるだけではなく、推進力となる魔石の使用力も多くなる。遠距離射撃で多少威力が落ちると想定しても十分な威力がありそうだ。
「ですよね。口径が300ミリはやりすぎました」
「300ミリって30センチの大砲を作ったのか?」
「はい。郊外とはいえ砲身が重すぎ移動すらできず、弾頭が会社の敷地内を余裕で飛び越えるため撃つのも不可能。作ったのはいいですが、試射すらしていません」
「とりあえず実物を見たい」
ハーバートが案内した場所には一際大きく太い大砲が置かれていた。砲身が歩幅で適当に測って10メートルほど、砲弾のエネルギーに耐えるためか随分と分厚い。鉄の塊であるため、重量が凄まじいのは想像がつく。
「砲身長が10メートルほどあります。重量は16トンだと試算しています」
「運べるわけない」
16トンとか専用の台車を作るところから始めないといけない。
「はい。列車でしか運べないのではないでしょうか?」
「列車か……」
列車砲という物が地球にはあった気がする。
列車に大砲を摘んでも線路が通っていなければ意味がないが、スカーレットドラゴン王国は国内に線路が張り巡らされている。
「ハーバート、口径30センチの砲弾がどの程度飛ぶか計算はしているのか?」
「砲弾にもよりますが最大が15キロメートル程度だと試算しています」
「……そんなに飛ぶのか?」
「計算上は飛びます」
半径15キロメートルに飛ばせるのなら線路上から名前付きのダンジョン砲撃できるのでは?
名前付きのダンジョン周辺は開拓されていないが、10キロメートルも離れればモンスターが襲ってくる可能性はない。街はないかもしれないが、線路は走っている可能性は十分にある。
「線路から名前付きのダンジョンまで距離がどの程度あるか次第だが、列車砲を作ってみるか」
「列車砲ですか?」
「鉄道車両の上に大砲を設置すれば列車で牽引できる」
「鉄道車両の重量まで足されると、重すぎて線路上から動かせないのでは?」
ハーバートのもっともな質問に頷く。
「線路上からダンジョン周辺を狙撃する」
「線路上からではダンジョンまで遠すぎませんか?」
「ああ。線路から名前付きのダンジョンまでどの程度距離があるかが問題になってくるな訳だな」
ハーバートは何度も頷く。
俺の説明で納得したようだ。
「なるほど、なるほど。それでは素材として再利用せずに残しておけばよろしいですかな?」
「そうだな。まずは大砲自体が計算通りに使えるかどうか試験するため、俺から王宮に試験できる場所がないか尋ねておく」
「通常の大砲もお願いします」
「分かった」
大砲をテラパワーから運び出すのが大変だが、どうにかするしかない。
王宮から特大の物が入る特殊な鞄を借りてくるかな。ヘカトンケイルの収納に使われた鞄で、重量軽減も強くついており大きく重たいものも簡単に運搬できる。
10メートルの砲身が入るかが問題だが……。
「ねえ、アイク」
大砲をどう運搬するか考えているとクロエに話しかけられる。
「クロエ、どうかしたか?」
クロエの装備を見てもらう予定がテラパワーの試作品見学になってしまった。
大砲はクロエの好みではなかったかもしれない。
「無限駆動と大砲ってアイクの発想から作ったのよね?」
「そうだな」
「アイクってよく色々思いつくわね?」
そっちか。
発想について聞かれるとはな……。
師匠とライナスから視線を感じる。どうするのかと視線で訴えかけているように思える。
クロエやパーシーと出会って4年か……話しても問題ないように思える。仲間に隠し事があるというのも嫌だな。というか話して信じてもらえるかどうかが問題で、実際のところ別にそう隠しておく必要もないか。
「クロエは転生についてどう思っている?」
「転生? 転生って偉大な戦士が生き返るって話?」
「そうそう」
異世界セリアンスフィアにも地球と同じように転生という概念はある。地球同様に本当に人が転生すると考えているのは一部で、大半は転生などしないという考えでいる。
「俺は転生したんだ」
「転生って本当にするの?」
クロエの顔が上下に動き、俺の全身を見回しているのがわかる。
疑うような反応になるのもわかる。俺でも転生したと言われたら疑うし、頭を打ったのかと心配する。
「するらしい。転生した俺が一番驚いている」
「つまりアイクは偉大な戦士だったの?」
首を横にふる。
「いあ、一般人だった。そもそも転生前はセリアンスフィアの人間ではない。地球という世界で生きていた」
「地球?」
「別の世界というか、別の惑星というか……セリアンスフィアの生まれではないという認識でいいよ」
「なるほど?」
クロエはよく分かっていなさそうな返事を返す。
しかし、どう説明したらいいものか。
「地球にはダンジョンがなくモンスターはいない。俺が住んでいた国は戦争もなく平和だった」
「ダンジョンがなくモンスターがいないのはあり得ないわ。それは別の世界ね」
ブックマーク、評価がありましたらお願いします。




