第62話 テラパワーの現状
バレットアームズの社長が直接尋ねてきて礼儀を通したのであれば、ライフル銃の技術を買ってくれたバレットアームズに魔石の調達方法を教えるのは問題ない。
しかし、魔石が格安で買えるようになれば、テラパワーが買収する必要はないだろ?
「申請方法まで教えてなぜテラパワーが買収している?」
「それが王宮から最低でも一年は審査期間が必要と伝えられたようです。しかも許可が降りるかは分からないと言われたそうです」
「一年? テラパワーは数日だったぞ?」
ベアトリクス様に言われて書類を作り、王宮に提出してすぐに許可が降りた。
本当に審査しているのかと思うほどの短期間だった。
「テラパワーはアイザック様が竜騎士だったため審査が随分と早かったのではないでしょうか?」
「竜騎士は会社経営に関係する称号ではないぞ」
「それではよくわかりませんね」
俺ではなく、むしろベアトリクス様やフランク王太子殿下が注目していたのが重要かもしれない。そういえばルーファス国王陛下からも黒竜勲章をもらった時にテラパワーの製品に興味を持っていたな……。
国王陛下、王太子殿下、第三王女が指示を出せば処理が速くなるのは当然か。
「それでなぜ買収になったのです?」
俺とハーバートの話が脱線しそうになると、ライナスが痺れを切らしたのか説明を求める。
「最初に魔石の供給を願われましたが、テラパワーから他者に売っては王宮から魔石の調達ができなくなると断りました」
「供給目的で魔石を調達しているわけではありません。断って正解です」
まともな判断。
ハーバートは常識を無視するだけで常識はあるんだよな。
「すると一年は会社がもたないとバレットアームズから会社の売却を持ちかけられたのです。売却というのは私では判断ができないとジェームスに相談しました」
ここでハーバートから師匠に移るのか。
ハーバートにかわり師匠が喋り始める。
「ライナスが先ほど言ったが、テラパワーにはバレットアームズを買うほどの現金はないと伝えた」
「バレットアームズが欲しているのは現金ではなく魔石。魔石をバレットアームズに供給するため経営統合を?」
「そうだ。会社の一部であれば魔石を供給するのは何も問題ない」
「王宮から生産増強を願われている状況です。多少の荒業は見逃されるでしょう」
ガトリングと装甲車の供給を常に急き立てられている。
会社を経営統合したところで何も言われないだろう。
「早期に魔石を供給するため経営統合を急いだ。経営統合後はテラパワーの弾薬とガトリングはバレットアームズに任せる形にした」
「バレットアームズは元々銃器専門の会社です。ガトリングを任せて問題ありません」
なかなか豪快な判断だが、バレットアームズは信頼ができ、銃器の技術力がテラパワー以上にある。任せてしまった方が生産量は増えそうだ。
「経営統合後そう時間はたっていないが、ガトリングの量産はうまくいっている」
「嬉しい報告ですね」
ライナスの顔に笑顔が浮かぶ。
テラパワーにとって生産能力の強化は喫緊の問題だった。ガトリングの生産がうまくいっているのは素直に嬉しい。
しかし、会社どれほど大きくなったんだ? 気になって師匠に尋ねてみる。
「師匠、会社の規模はどれほどに?」
「以前の3倍になる」
「3!? 2倍規模の会社と経営統合して実質配下の企業に!?」
「いや、バレットアームズ単体であれば2倍程度だった。バレットアームズとの経営統合後、テラパワーに相談してくる企業が増えた。バレットアームズの元社長と相談しながら、複数の企業を買収もしくは経営統合している」
デレクが魔石を買い占めていた余波は想像以上に大きいのか。
「テラパワーの生産能力は5倍近く増強された」
「5!?」
テラパワーは王都郊外に工場を増やしている状況であるため、稼働率がそこまで高くないが短期間で5倍!?
「錬金術師の人数も随分と増えたため、大人数の錬金術師で大砲や無限駆動を開発したところ外の状態になった」
大人数の錬金術師で研究を繰り返せば無限駆動もでき、大砲も完成するだろうな……。
でも、会社規模が3倍になると事務作業も3倍なのでは?
「師匠、決裁しなければならない書類はどれほどに?」
師匠が目を細める。
渋い師匠が目を細めるとかっこいいのだが、言い淀む姿が怖い。
「バレットアームズの社長などが経営側に回ったため、決裁しなければならない書類は減っている」
「もしかして仕事が減った?」
「そうだ」
ライナスと顔を見合わせる。
会社の規模が大きくなったのに、仕事が減った!
「アイザックとライナスがいない状態で役員に決めたため、問題ないか話し合って決めてくれ」
「わかりました。師匠、ありがとうございます」
ライナスは深々と師匠に頭を下げる。
師匠はあまり経営に口を出さないのだが、今回は俺とライナスが不在だったためかなり動いてくれたようだ。もしかしたら俺とライナスが生きて帰ってくるか分からなかったため、経営者として動いてくれたのかもしれない。
「難しい話は終わりにしよう。開発した無限駆動と大砲を見に行かないか」
師匠が照れた様子を見せる。
「是非」
師匠が頷く。
「ハーバート、案内するぞ」
「はいはい」
俺たちの話を黙って聞いていたクロエとパーシーも一緒に外に向かう。
「仕事が減って良かったわね」
「ああ、これで隙間時間に錬金術ができる」
クロエが眉を寄せてこちらを見る。
「それ結局仕事していない?」
「トレーニングみたいなもんだよ。趣味なんだ」
「なるほど」
クロエがすぐに納得する。
騎士にとってトレーニングは時間があればする趣味。俺もやりすぎない程度に鍛えはしている。
外に出るとまずは無限駆動から見学する。
「当初の予定通りに走破性と耐久性を重要視している。装甲車よりも重量が上がったため速度は出ないが、以前は走れなかった場所でも走行が可能になっている」
師匠の説明を聞きながら無限駆動を見る。
全てを鉄で作られた無限駆動は確かに凄まじい重量になりそうだ。しかし、重量があるために安定するとも考えられる。
「次は戦車。装甲車とハーバートが開発していた大砲を組み合わせた。一応大砲は撃てるようになっているが、ここで撃つのは無理だな」
「テラパワーの敷地が広いとはいえ大砲を撃つのは無理ですね」
砲弾が敷地を飛び出てしまうし、標的に相当硬いものが必要になる。
「戦車に関しては作ったはいいがあまり出番はないだろう」
「そうですね」
モンスターの攻撃範囲外から一方的に撃つのなら大砲でいいだろう。
「いえ、使えるかもしれません」
俺と師匠の考えをライナスが否定する。
「何に使う?」
「アックスオッターのダンジョンを討伐していて気づいたのですが、名前付きのダンジョンは細い通路がないので車などの車両が中に入れるのでは?」
確かに今回討伐したダンジョンには通路がなかった。
「名前付きのダンジョンが同じ構造であれば使えるか」
「はい。大砲ほどの大口径であれば名前付きのダンジョンでもモンスターを倒せるのでは?」
「深層は厳しいと思うが中層程度までならいけるかもしれないな」
竜騎士学院で名前付きのダンジョンについて資料を探してみるか。
「どうする。開発を続けるか?」
師匠に尋ねられて悩む。
使用範囲が名前付きのダンジョンという限定されている。しかし、名前付きのダンジョンを攻略できる可能性がある武器をスカーレットドラゴン王国が放置するとも思えない。
「……仮ですが開発を続けましょう。名前付きのダンジョンについて調べてみます」
「分かった」
別サイトでのコンテスト期間が明日10日午前11:59に終わるのにともない、1日2話更新から1日1話更新に変更いたします。更新時間は昼12時です。
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