第61話 久しぶりのテラパワー
師匠が運転する車に乗り込む。
「ライナスもまだテラパワーに行っていないんだったか」
ライナスは怪我を負ったが、約束通りに無事に帰ってきた。
「さすがに動けませんでした」
獣化している俺でも王都に帰ってきたところで緊張が切れたのか数日寝込んだ。赤竜勲章の授与までには動けるようになったが、2日前まで食べて寝てを繰り返していた。
獣化していないライナスはまだ完全に回復していないだろう。
「書類すごい溜まっているんだろうな」
「はい……」
三週間以上、俺とライナスがテラパワーを不在にした。
悲惨な状況になっているのが容易に想像できる。今からテラパワーに行くと思うと気が重くなる。
「師匠、テラパワーどうなっているんです?」
師匠はアックスオッターに行かず王都に残っていた。
テラパワーの共同経営者であり錬金術師として何が起こっていたかを知っている。
「ん? 大丈夫だ。心配するな」
師匠が明らかにはぐらかしている。嫌な予感しかしない。
「師匠?」
「大丈夫、大丈夫」
テラパワーに行くのが怖い。
顔を強張らせながらライナスと顔を見合わせる。
着替えてテラパワーに着くと明らかに以前と違う。
まだテラパワーの建物にも入っておらず、敷地内に入っただけなのだが?
敷地の一角に装甲車の無限軌道があるのはまだいい。なんで戦車のように砲塔がついた装甲車がある?
しかも周囲には大型の大砲が複数置いてある。
アックスオッターに行く前は確かになかった。
「嘘だろ?」
「一ヶ月も留守にしていませんよ!?」
ライナスも知らなかったようで驚いている。
いや、一ヶ月以内で作るのは錬金術で作るにしても開発速度がおかしいだろ。
事前に作っていないと無理な速度。
…………事前に? 勝手にガトリングを作ったトリガーハッピーのうさぎ人ハーバートが思い出される。
「まさかハーバートがまた秘密で開発していた?」
「あんな大掛かりな物、開発費をどこ……ガトリングの開発費を流用しましたね!」
騎士団から大量に受注したガトリングの予算は普通よりも随分と多く設定した。すこし予算を流用すれば試作の大砲程度作るのは簡単。
だが流用などすればガトリングの予算が減るだろうが!
「ハーバート!」
俺とライナスがどれだけ苦労して予算を配分していると思っている!
というか俺にも錬金術させろ! なんでハーバートが好き勝手しているんだよ!
「アイザック、ライナス。ハーバートが悪ふざけをしたのは否定しないが、元々はガトリングの試験で大砲を作っている」
師匠の声に振り返ると、師匠が苦笑している。
「ガトリングの試験で大砲?」
「大口径をどこまで携行できるか評価していた。最初から持てるわけないだという大きさまで作ったのはやりすぎているがな」
そんな評価試験あったきも……受理した書類が多すぎ思い出せない。
「しかし、やりすぎでは?」
「さすがにハーバートも大きすぎる大砲は再利用前提で組んでいた」
「ハーバートにも多少は配慮がありましたか」
最初からやるなという話ではあるがな。
「アックスオッターの状況がテラパワーまで伝わって状況が変わった。アックスオッターがモンスターに飲まれた場合、携行できるか関係なしに地上向けに大砲が使えるのではないかという話になった」
「確かに……」
曲射して砲撃すれば距離も稼げる。
モンスターの攻撃が届かない範囲から一方的に砲弾を打ち込める。
「テラパワーにはアックスオッター出身のものが多い。ダンジョンの討伐が成功するのを祈っていたが、会社としては討伐が失敗した前提で何ができるかと動いていた」
「皆がアックスオッターのために動いてくれていたのですか」
俺とライナスとは違う戦いをテラパワーの社員はしていたのか。
「しかし、テラパワーの生産能力でここまでの開発速度は出せないのでは?」
ライナスが現実的な問題を指摘する。
確かに無限軌道、戦車、大砲を複数は作りすぎ。
「それは……ハーバートと一緒に説明する」
師匠があからさまに視線を逸らす。
え……まだ問題が? もしかして今目に見えている光景は問題のうちに入らない?
ライナスと顔を見合わせて顔を強張らせる。
「あら、随分とテラパワーに置いてあるものが変わったわね」
「そうだね」
俺が固まっているとクロエとパーシーがテラパワーに来たようだ。
「ところでアイク、こんなところで何をしているの?」
「いや……今から中に入る」
ハーバートの元で話を聞きに行く。
ハーバートの研究室は以前にもまして物で溢れている。
大砲の小型版が机に設置され、壁には弾道計算をしたであろう数式と曲線が描かれた紙がはられている。本格的に大砲を開発している。
「ハーバート」
机に齧り付いていたハーバートが顔を上げる。
「おお。皆様無事のご帰還嬉しく思います」
ハーバートは無精髭が生え、目の下に隈ができている。
ウサ耳の生えた無精髭のおっさん可愛くない……。
「ハーバート、家に帰っているか?」
あまりの見た目に思わず帰宅しているか確認してしまう。
「何度か家で起きた記憶はあります。気を失うと家にいるのですよ、不思議ですね」
それは誰かに家まで運ばれているだけだろ……。
「師匠、開発速度が速いのは昼も夜もなく働いているからではありませんよね?」
「違う」
テラパワーがブラック企業になっていなくて良かった……。
「それでは開発速度が速くなった理由はなぜです?」
ライナスが尋ねると師匠はハーバートを見る。
「ハーバート、バレットアームズについて話せ。きっかけはハーバートだろう」
バレットアームズ?
……あ、ライフル銃の技術を買ってくれた会社だ。
結構大きな銃器メーカーで技術力があるため模倣品を作るのは簡単であろうのに、模倣品を作って売らずにテラパワーから技術を買ってライフル銃を量産している。
他の模倣品を作っている銃器メーカーより質の高いライフル銃を作っている。
「はいはい。バレットアームズを買収いたしました」
「…………」
え? 買収?
「買収!?」
「正確には経営統合でしたか?」
ハーバートが師匠を見る。
「そうだ。バレットアームズをテラパワーの傘下に入れ、銃器部門をバレットアームズとテラパワーで統合した」
俺とライナスがいないのに誰が決裁を?
あ、師匠も共同経営者であるため決裁権がある。
「おかしい。テラパワーの規模は大きくなりましたが、バレットアームズを買収できるほどの現金がありません。どうやって買収してのです?」
ライナスのいう通り、確かにそんな現金はテラパワーにはない。
というかテラパワーは大きくなったとはいえ、バレットアームズより小さいか同規模。買収に相手が応じるのは変。
「バレットアームズが経営難に陥ってテラパワーに助けを求めたのです」
ライナスの質問に師匠ではなくハーバートが答える。
「経営難? ライフル銃の需要は増えど減りはしないと予想されていました」
「ライフル銃ではなく、主力事業の弾薬が赤字に陥ったようです」
「弾薬?」
弾薬?
格安の魔石を使う弾薬なら赤字になるわけが……。いや、デレクが魔石を買い占めていた。
「魔石の高騰か」
「そうです。バレットアームズはテラパワーが安定して弾薬を供給しているのを知って、どのように魔石を手に入れているのかと尋ねに来ました」
弾薬は自社で製造しなくとも作れるため、製造するための材料を渡して外注している。
安定して弾薬を作り続けていれば違和感に気づくか。
「王宮から魔石を直接買っていると教えたのか?」
「バレットアームズの社長が直接尋ねてきて、丁寧に頭を下げられたため王宮から買っていると伝え、申請の方法をお教えしました」
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