第60話 赤竜勲章
勇士への祈りの後、デレクとディランの捜索が開始された。
巨大な白いコウモリがダンジョンから飛び去ったのは確認されたが、デレクとデレクの祖父であるディランはやはり捕まえられていなかった。捜索の範囲を広げたがダンジョンの周辺にはおらず、アックスオッターでも見つからなかった。
ディランの会社であるブラックウィングは調べ直されているが、結果が出るまではまだ時間がかかる。
俺はアックスオッターに残り調べたかったが、帰還を命じられた。
騎士団所属の身で命令の無視はできない。それにデレクの身内である俺がアックスオッターに残ればあらぬ疑いをかけられる。身の潔白を示すためにも残るわけにもいかない。
俺は再び故郷をさる。
「アイザック・オブ・アックスオッター」
騎士団の正装でルーファス国王陛下の前に立つ。
謁見の間に敷かれた絨毯を触る感覚が尻尾から伝わってくる。正装姿であるが獣化したままで若干違和感。気になるからと尻尾を振らないようにしないと。
「赤竜勲章を授ける」
ルーファス国王陛下より俺の胸元に赤い竜の勲章が付けられる。
核を与えたダンジョンができた原因であるアックスオッター家の俺が勲章を授与されるとは思ってもいなかった。辞退した方がいいのか分からず、事前にどうすればいいのかと王宮に尋ねた。
王宮の役人が教えてくれた話だと王宮でも俺の扱いは議論になったようだが、騎士の勲章は個人と家は別に考えるべきだという結果になったらしい。
「アイザックよ、すまないがアックスオッターは王領となる」
勲章について尋ねた時、王領になるとは聞いていた。
しかし、ルーファス国王陛下に直接謝罪されるとは思っていなかった。
「ルーファス国王陛下、当家の起こした災厄の結果を考えれば、アックスオッターの名前が残っただけで十分だと考えております」
アックスオッターを誰が統治するかなど関係ない。
俺は故郷のアックスオッターが残ればよく、伯爵になりたいわけではない。
「そうか。しかし、優秀な騎士であるアイザックをこのままにできぬ。歴代アックスオッター家当主の献身も評価している。時期を見て叙爵した上でアックスオッターを王領から伯爵領に戻す」
……え? 伯爵領に戻す?
驚き返事が遅れてしまった、慌てて感謝を伝える。
「感謝いたします」
さすがに爵位はいらないと拒否するのは無理。
前ほど貴族になりたくないという気持ちは薄れたが、別に伯爵になりたいわけではないのだがな……。
「これからの活躍も期待している」
「スカーレットドラゴン王国のため最善を尽くします」
ルーファス国王陛下との話が終わると謁見の間から下がる。
今回は勲章をもらう騎士が多すぎ、部屋に入りきらない。勲章をもらった騎士から部屋を出るという特殊な授与式になっている。
人数が多く前回より授与までの速度が早かったのは、ヘカトンケイルと戦ったもの全てに赤竜勲章を授与しているためだ。
「アイクどうだった?」
先に赤竜勲章を授与されていたクロエが部屋の外で声をかけてくる。
俺同様にクロエも獣化したままで大きな翼が生えている。
クロエの翼を近くで見ると小さい透明度のある青い鱗が宝石のように輝いている。
「勲章は授与された」
胸元にある赤竜勲章を指差す。
「勲章じゃなくアックスオッターよ」
「ああ、聞いていた通りアックスオッターは王領になるが、時期を見て伯爵領に戻すと言われた」
「残念」
なぜかクロエが残念だという。
「何が残念なんだ?」
「スカーレットドラゴン王国がアイクに叙爵しないのなら、セレストドラゴン王国が叙爵しようと思っていたのよ」
「……え? 俺の意思はどこに?」
「覚醒者を放っておくわけないじゃない」
そういえば俺は覚醒者であると判断されているのだったな。
魔力の代わりに力が上がっているが……。魔力が、魔力が良かった……。
「叙爵についてはまだ先だよ。後で考えればいいんじゃない?」
パーシーが話に入ってくる。
俺が貴族になりたがっていなかったのをパーシーは知っている。叙爵についての話を止めようと気を遣ってくれたのだろう。しかし、俺の頭の中は魔力について考えていた。以前よりも随分と魔力の増えたパーシーが羨ましい。
「ところでアイクは運動していないよね?」
パーシーがあからさまに話題を変えてくる。
叙爵について長く話す必要も感じず、魔力が羨ましいと直接パーシーに言うのも違う。
パーシーが話題を変えたのに乗る。
「さすがに運動はしていない。全治一ヶ月と言われているじゃないか」
全治一ヶ月。
ダンジョン討伐に参加した騎士にまとめて出された医者の診断結果。まとめて診断された結果であるため、以前にバンパイアから殺されかけて治すまで1日だったのににくらべると随分長い。
しかも獣化できるものは獣化したまま一ヶ月大人しく過ごし、トレーニングはもってのほかと医者から厳しく指示されている。
アックスオッターの処理が終わると休むようにと帰還させれた。
「クロエが安静の指示を無視してトレーニングしていたらしいんだよ。アイザックからも注意して」
クロエがむくれる。
「もう。ルイーザとルイーズに散々注意されたからわかっているわよ」
「そのルイーザとルイーズに注意をお願いされたんだけど」
クロエはパーシーに今まで注意されていたのだろうな。
しかし、クロエに限らずスカーレットドラゴン王国の騎士が一ヶ月もトレーニングを休めるわけもなく、トレーニングを始めて家族や医者から怒られるのは想像できる。
トレーニングを我慢するのは無理だろ……。
「クロエがトレーニングしないのは無理じゃないか?」
「わかっているじゃない」
クロエが頷く。
翼が頷きに合わせて小刻みに動く。ちょっと翼が気になる。
やはり尻尾もいいが翼もいいよな。
「アイク、やめさせないと治療期間が伸びるよ」
パーシーはどうしてもクロエを安静にしたいようだ。
「俺はともかくクロエとパーシーはそこまで怪我はしていないだろ? ダンジョンを出てから10日経っている。そこまで心配しなくていいと思うぞ」
俺は腕をこんがりと焼いてしまったが、クロエとパーシーはあまり怪我を負っていない。さすがに無傷とはいかないため、治療のために安静にする必要があるとは思うが数日も安静にすれば十分ではないだろうか。
「それはそうだけど」
一ヶ月と言うのは動き回る騎士たちを前提に考えた期間だと思われる。
バンパイアに殺されかけた時、完全に体重を戻すのには一ヶ月以上かかったが、別に動けないほど重症ではなかった。
腕をこんがりと焼かれた俺でも安静期間は本来一週間もあれば十分なのではないだろうか。
やたら安静期間が長いのは安静だといわれているのに、時間があればトレーニングしてしまう騎士が問題なのだ。
「動くクロエを暇にさせなければいいんだろ?」
「何かあるの?」
「テラパワーで装備を修理したりして暇つぶしをさせよう」
「なるほど」
酷使した装備の修理には時間がかかる。
それにクロエは翼が生えたため、俺と同じように甲冑を作り直す必要がある。作るまでに結構な時間がかかるのが予想でき、早めに注文しないと次の戦いに間に合わなくなる。
俺も家でじっとしているとデレクやディランについて考え、塞ぎ込んでしまう。だったらクロエやパーシーとテラパワーに行った方がいい。
「早速向かいたいところだが、着替えてからだな」
騎士団の正装に以前授与された黒竜勲章、今授与された赤竜勲章がついている。
「勲章を無くさないように片付けないと」
「ああ。テラパワーで集合するか」
「そうだね」
俺はクロエを見る。
「クロエもそれでいいか?」
「いいわ」
クロエが上機嫌に頷く。
装備を作り直すのが嬉しいようだ。
「それじゃまた後で」
「ええ」
「また後で」
ライナスを連れて王宮を出る。
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