第6話 覚醒者
やはりダメか……。
王族であり、騎士団の副団長であるベアトリクス様に学園を辞めるのは無理だと言われては諦めるしかない。
ダンジョンの脅威は騎士候補だとしても手放せないほど高い。
「アイザック、命が惜しいのであれば王国の騎士団に入っておいた方がいい」
ベアトリクス様が真剣な表情で俺を見る。
命。
錬金術師になるより優先すべき対象に俺の心は大きく反応する。
「どういう意味かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「錬金術師は平民となるが、騎士は貴族に準ずる地位。比べるまでもなく、手を出しにくいのは騎士となる」
自分が貴族にいたため忘れそうになるが、平民と貴族の差は当然存在する。
貴族に課されるダンジョン攻略の義務が大きすぎるがゆえに、貴族でいる旨みがないように思えるが、優遇されている部分も多々ある。もっとも、ダンジョン攻略の義務で全て吹き飛んでいる気もするが……。
しかし、今はその優遇されている部分が重要になるか。
「死にたくありません。王国の騎士団に入団します」
「素直でよろしい。可能であれば王立竜騎士学院に入学しておくといい」
「王立竜騎士学院にですか?」
「学院に所属する騎士の命を狙うような輩は国が黙っていない。地の果てまで追いかけて捕まえる。学院に所属するアックスオッター伯爵を毒殺したのがデレクだと分かった場合、相応の代償を払ってもらう」
ベアトリクス様が魔力を動かし、猛獣のような笑顔を俺に向ける。
王家が毒殺した者を許さないとベアトリクス様が宣言される。
今のベアトリクス様の前にいると、肉食動物に狙われた草食動物になった気分。怖すぎて足が震えてきそう。鍛えているために実際に震えることはないが、ダンジョンで出会うモンスターより怖い。
同時にモンスターより怖い人たちに守られると考えれば得な気がする。
「騎士になるのであれば、竜騎士学院に行くかは迷っていました」
「竜騎士学院は竜騎士であれば入れるが、普通の騎士が入る場合は竜騎士の推薦が必要になる。知り合いに推薦してくれそうな竜騎士はいるか?」
竜騎士学院に興味がなかったため、推薦が必要という制限があったのを知らなかった。
父も竜騎士であったが、死んでしまった相手から推薦はもらえない。
父の知り合いや学園の教師にも竜騎士はいるとは思うが……。
「父の知り合いがいますが、推薦をもらえるかどうかわかりません」
「アイザックの成績次第では妾が推薦してもよい」
「ベアトリクス様から推薦をいただけるのですか!?」
王族から推薦をもらえるとは思ってもいなかった。
「アックスオッターの後継が誰もいなくなってしまうのは困るのでな」
俺が不審な死を遂げればデレクは怪しまれるだろう。
アックスオッターに分家がいないわけではないが、それぞれ伯爵領の地方を治めており余裕があるわけではない。
「しかし、王族から推薦をいただくのは恐れ多いのですが……」
「成績に問題があれば推薦は出さない。実力が伴わない状況で竜騎士学院に行けば死んでしまうのでな」
「死ぬ……」
やはり竜騎士学院のダンジョン攻略は辛いのか。
少し行くのが怖くなってきた。
「うむ。まあ、クロエと組めるほどの実力ならば問題はないと思っている」
王族であるクロエの魔力は膨大。
魔力の多いパーシーよりも魔力が多い。
ベアトリクス様が俺を上から下まで見る。
「それにアイザック、そなたは王家の血が覚醒している覚醒者ではないか?」
血の覚醒者。
稀に王家の色が角や髪に現れたものが膨大な魔力を持って産まれる。覚醒者は王家の血が入っている子供に稀に現れる。
パーシーの緋色の髪が覚醒者としての証。片方の色が出ただけのパーシーでも膨大な魔力を持っている。
「私は緋色の角に黒髪ですので、王家の黒色の角に緋色の髪とは違います」
「ん? 覚醒者は髪と角の色が逆になる場合もあるぞ? 黒髪は珍しくもないため判断が難しいところではあるが、緋色の角はとても珍しい。常識であろう?」
「え?」
髪と角の色が逆になるのは初耳である。
俺とベアトリクス様はお互いに首を傾げる。
「……うん? もしや覚醒者である可能性について聞いていないのか?」
「記憶にある限りは覚醒者の可能性について聞いていません」
「それはおかしい。覚醒者の場合は王家から説明のために人が派遣される」
ベアトリクス様がパーシーに同意を求めると、パーシーが「その通りです」と言って頷く。
同じ覚醒者のパーシーには王家から人が派遣されているのか。
「しかし、ベアトリクス様、自分の記憶にある限りは王家から派遣された人に会ったことがありません」
ベアトリクス様の眉間に皺がよる。
「もしやアックスオッターは王家に覚醒者が生まれたと報告していないのか?」
……ああ、父は報告を忘れたのか。
すごく納得できる。
「その可能性が高いのだと思われます」
「さ、さすがアックスオッター……」
ベアトリクス様が手で顔を覆う。
どうやら父は伝えるべき連絡を俺と王家にしていなかったようだ。
だが連絡していなくとも問題はないだろう。パーシーやクロエほど魔力は多くない。
「魔力は貴族の並程度であると自覚しています。覚醒者ではないかと」
「今少ないからといって覚醒者でないとは限らない。獣化で数割魔力が増えるのは有名だが、覚醒者の場合は数倍以上に膨れ上がることがある」
獣化。
この世界、セリアンスフィアの獣人は人に近い姿から、狼男のように元の動物に近い形へと変形できる。狼男が満月の夜に変化するように、何かしらのきっかけで獣化できるようになる。
一度獣化を経験すると以降は好きな時に変化できるのが狼男とは若干違うか。
「まだ覚醒者である可能性が残っているのですか……」
「まだ獣化していないか?」
「はい。獣化した経験はありません」
学園に在学中に獣化するものはいるがかなり珍しい。自分たちの学年では獣化した人はいなかったはずだ。
「それならばまだ可能性は残っている。覚えておくがいい」
「承知しました」
魔力が増えれば遠距離魔法を使えるようになる。
遠距離魔法を使える可能性があるのなら、騎士としてダンジョンに行く意味を見出せる。
「覚醒者の可能性があれば並の成績でも竜騎士学院に入れるだろう」
覚醒者であるパーシーとクロエのおかげで卒業資格を手に入れたところもあるが……学年の中では最速で卒業資格を取っているため並の成績はあると思いたい。
問題があるとすれば錬金術師として活動しているのが問題か。騎士として訓練を怠けているわけではないが、デレクが起こした毒殺騒ぎと合わせると褒められた趣味ではない。
推薦してくれるというベアトリクス様には事前に伝える必要がある。
「ベアトリクス様が自分を推薦していただけるのであれば、事前にお話ししなければならない問題があります」
「どのような?」
「先ほど錬金術師になりたいと言いましたが、すでに錬金術師として活動しているのです」
俺は表に出ないようにしているが、実は学園に入学する以前から錬金術師として活動している。
「アイザックの立場を考えると褒められた活動ではないな」
「はい。売っている物の大半はダンジョン攻略に役立つものが中心なのですが、あまり印象は良くないかもしれません」
「ダンジョンの攻略に? どんな物を売っているのだ?」
俺は部屋に置かれたさまざまなトレーニング器具を見回す。
「貴族向けとしてはトレーニング器具が一番売れております。ベアトリクス様も当社の商品を購入していただいているようです。ありがとうございます」
俺は錬金術師として深々と頭を下げる。
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