第59話 ダンジョン side デレク
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!
なぜモンスターが銃弾を弾く! 銃でモンスターは倒せるのではなかったのか!? 核を与えるとモンスターが強くなる? だったらダンジョンに核を与えれば弱くなる。
私が錬金術師のアイザックより商売が下手であるはずがない。
私は、私は間違っていない。
強くなったというモンスターを騎士が蹂躙していく。
目にも留まらぬ速さで剣を振ると、モンスターの首が飛ぶ。
十分に倒せているではないか! なぜ私がモンスターが蹂躙される様を見なければならない!
なぜ私がダンジョンにいる必要がある。私は家に帰る。
「デレク、離れるではない」
お祖父様に袖を掴まれて冷静になる。
「お祖父様」
私の共犯だとお祖父様までダンジョンの中に連れて来られてしまった。
ダンジョンに核を与えていたのはバンブータイガー共和国から来た研究者であり、私とお祖父様ではないと言うのに。しかもバンブータイガー共和国から来た研究者の一部はいなくなっていた。
「私がついている心配するな」
「はい」
お祖父様が耐えている。
走って逃げ出そうそうとする体を押さえ込む。
周囲はモンスターで溢れており、下手に動けばモンスターに食い殺される。
緊張で暑くもないのに汗をかき、息が浅くなる。頭がくらくらとする。
深層だという階層に入ってから5人が死んだ。
モンスターに近づかなければ死にはしないと油断したところで1人目が死に、立て続けに5人が死んだ。
幸いにもお祖父様と私は怪我を負っていない。
「お祖父様、体調はよろしいですか?」
「デレク、私は問題ない。むしろダンジョンの中に入ってから体調がいい」
「お祖父様……」
私に心配をかけないようにとお祖父様が無理をなさっている。ここで私が挫けてはいけない。しかし、食事がまともに喉を通らず、体が思うように動かずふらつく。
お祖父様も食事量が減っており、食事の内容を変えろと命令しても無視される。
食事は肉、肉、肉。
モンスターが倒される時、気持ちが悪いほどの血が舞う。
人の死をまじかに見たのが致命的だった、水を飲む程度で固形物をまともに取れていない。
肉を見ると気持ちが悪くなる。
血に塗れながら平気で肉を食べている騎士が信じられない。
「進め」
モンスターの討伐が終わったのか騎士にせき立てられてダンジョンを進む。
終わりはいつやってくるというのか。
何層かもわからぬままにふらつく足でダンジョンを進む。
次の層は今までと違った。
天井が見上げるほどにも高く、高い天井に迫るほどの巨大なモンスター。
「ヘカトンケイル」
「ダンジョンボス」
騎士たちが呟く。
巨大なモンスターがダンジョンボス。
「諸君! ダンジョンを討伐する!」
誰かの指示により騎士が駆け出していく。
騎士は大きなヘカトンケイルを倒しながら巨大なヘカトンケイルに群がっていく。
無謀にもビルほどもある巨大なヘカトンケイルを倒そうとしている。先ほどまでのモンスターとは格が違う、倒せるわけがない。
巨大なヘカトンケイルの一体が急に燃え上がる。
ヘカトンケイルが悶え苦しみながら火を消そうと大量の手を振るうが火は消えない。ヘカトンケイルが倒れ込むと騎士が群がっていく。
燃えているヘカトンケイル以外もヘカトンケイルが倒れ、騎士に群がっていく。
なぜ普通に戦える? なぜ化け物を倒せる?
化け物を倒せる騎士は同じ人ではない。人の皮を被った何か。
「デレク」
「お祖父様、どうされました?」
「私は少々用事がある。デレクはこの場にとどまりなさい」
「用事? このような場所で用事?」
「すぐに終わる。そう難しい用事ではない」
お祖父様は要領の得ない返事で歩き出す。
先ほどまで杖の代わりにしていたステッキを使いもせず、軽い足取りでダンジョンの中を悠然と歩んでいく。
追いかけようとしても足が前に出ない。
お祖父様はヘカトンケイルの脇を通って歩き続け、次第にヘカトンケイルの姿に隠れ見えなくなってしまう。
なぜ、行ってしまう?
人より優れているお祖父様は品格を重要視している。もしかしてお祖父様は覚悟を決め、死に様を私に見せないようにした……?
子供のように「おいていかないで」と口に出そうになる。
お祖父様は覚悟を見せた。
甘えてはいられない。
お祖父様が去っていった後も巨大なヘカトンケイルは倒され続ける。
雷が落ち、人が飛んでヘカトンケイルの首をきる。
化け物と化け物の戦いは続く。
ヘカトンケイルの残りの数が一桁になると、次第に倒す速度が落ちてきた。だが残りのヘカトンケイルは少ない。もしかしたら生き残れるかもしれない。
「モンタギューしっかりしろ!」
女性の声が響く。
甲冑が歪んだ騎士が近くに運ばれてきた。
騎士のヘルムを外されると血を吐く。
「まだやれる」
「全力で魔力を治療に使え! 死ぬぞ!」
「まだ、まだ死ぬわけにはいかない。私は誰にも負けぬ牛人になるのだ!」
騎士が叫ぶと、消えかけた炎が再び燃え上がるように魔力が動く。
歪んだ甲冑が弾け飛び、騎士の体が大きくなる。
人の姿からミノタウロスのような姿に変わった。
「モォォオオ!!」
腹の底まで響く声を牛人があげる。
恐ろしい。
暴力的で野生を感じさせる姿は私には決してないもの。
「あ、あああ」
ダンジョンに核を与えた研究者が牛人に恐れをなしたのか震える声をあげる。
研究者を見ると視線は牛人を見ておらず、騎士たちが走ってきた方向を見ている。何があるのかと視線を移すと、ヘカトンケイルがこちらに走ってきている。
なぜヘカトンケイルがこちらに走ってくる!
ヘカトンケイルの視線は牛人を見ていた。
連れてきたのか!
「モンタギュー、ヘカトンケイルが来たぞ!」
「ヴァネッサ、いくぞ!」
牛人がバトルアックスを取り出すと走り出す。
先ほどまで死にかけであったのに、なぜ普通に走りヘカトンケイルに立ち向かえる?
私には理解のできない行動。
呆然とヘカトンケイルと牛人の戦いを見ていると、ヘカトンケイルが剣を振り下ろす。巨大な剣は目前まで迫り、凄まじい風圧が襲い掛かり目を開けてられない。
戦いを見ていてはいけない、逃げなければ。
後ろに下がって逃げようとするが足を取られる。
なぜこんなところに穴がある!
「助けよ!」
研究者は私を助けず逃げていく。
剣が迫る。
声を出さず自力で逃げるべきだった。
必死に動こうとするが動かない。
「ああああ!」
目の前に剣が落ちてくる。胸から下が潰れる音がする。
痛い、痛い、痛い!
嘘だ、嘘だ、嘘だ……。
「ぐっ」
口から血が溢れる。
「なんで、なんで」
私はアックスオッターを繁栄させたかっただけなのに。
とても痛かった痛みが消えていく。
どれほど経っただろうか、雄叫びが聞こえる。モンスターが黒い煤になって消えていく。
「なんで、なんで」
もう何も見えない。
何も聞こえない。
「私は間違っていない……」
————。
「お祖父様……」
————。
感覚がなかった体に感覚が戻ってくる。
「デレク、デレク」
「お祖父様?」
幻覚だろうかお祖父様の声が聞こえる。
「魔力で体を治しなさい」
幻覚であろうとお祖父様の声に従う。
牛人の姿を思い出し、魔力で体を治療していく。
「痛い、痛い、痛い、痛い!」
凄まじい痛みが体全身を襲う。
体の中に異物があるかのような感覚があり、異物が凄まじい痛みを発する。
目の見えないというのに光が高速で点滅している。
「ああああ!」
頭が焼ける!
あまりの痛みに意識が混濁してくる。
「デレク、寝なさい。起きれば元通りになっている」
幻覚であろうお祖父様の声を聞いて意識が遠のいていく。
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