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脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜  作者: Ruqu Shimosaka


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第56話 死力を尽くす

 盾とバトルアックスをにぎり、再び戦いの場に進む。

 数を減らしたヘカトンケイルの間を抜けるように進み、クロエが倒そうとしているダンジョンボスのヘカトンケイルに近づく。

 上ばかり気にしているヘカトンケイルの足元では騎士が足を攻撃している。

 俺が足を切った時とは違い、ヘカトンケイルはクロエを追いかけて動き回っているため、足が一定の場所になく攻撃を当てるのが難しそうだ。


「最初に倒した動きが少ないヘカトンケイルに比べるとやりにくいか」

「止めればいいわけだね」


 パーシーに何か考えがあるようだ。


「できるのか?」

「やってみよう」


 パーシーがメイスに大量の魔力を流す。


「サンダーインパクト」


 帯電したメイスがヘカトンケイルの足に当たる。

 軽く触れたように見えたが、ヘカトンケイルが痙攣しながら直立する。凄まじい電流がヘカトンケイルの体を巡っているのが想像できる。


 ヘカトンケイルが痙攣している間に、騎士たちと共にヘカトンケイルの足に切り掛かる。

 やはり金属を切っているような感覚に陥るが、皆で斬りかかれば足はズタボロになる。パーシーの魔法が効いているのもあるだろうが、両足をズタボロにされたヘカトンケイルが仰向けに倒れる。


「首を狙う」


 倒れたヘカトンケイルの胴体を駆ける。

 ヘカトンケイルの腕が跳ね除けるような動きで振り回され、盾で防ぎバトルアックスを叩きつけて道を作る。騎士たちがかわるがわるに進み、ヘカトンケイルの首元までたどり着く。

 頭部を切り落とそうとバトルアックスを振り下ろす。


 やはり足同様に首も硬い。

 首の近くまで腕があり、地面と首の間に隙間が少ない。ヘカトンケイルの体を足場にして武器を振っているのもあって力が入れにく。

 しかも先程回復に魔力を大量に使ったため、強化に使う魔力が足りなくなってきた。ヘカトンケイルに致命傷を与えられない。


「アイク、バトルアックスを強化してヘカトンケイルの首に叩きつけて」


 パーシーの指示に従う。


「ガアアア」


 全力でバトルアックスを叩きつける。

 ヘカトンケイルの首にほんの少し刺さる。


「グラアアア」


 パーシーが叫びながらメイスを振るう。

 メイスはバトルアックスにあたり、バトルアックスへと力が伝わっていく。

 ヘカトンケイルの首にバトルアックスが深く刺さる。

 周囲の騎士も俺とパーシーの攻撃方法に気付き、俺のバトルアックスに武器を振り下ろす。

 慌ててバトルアックスが壊れないように武器を魔力で強化する。


 杭が打たれるように、バトルアックスがヘカトンケイルの首に突き刺さる。

 ヘカトンケイルは腕を振り回して抵抗するが、盾を持った騎士が全ての攻撃を防ぐ。俺は他の騎士に防御は任せ、首を断ち切るのに専念する。


「グラアアア」


 パーシーのメイスが最後の一撃となり、ヘカトンケイルの首が落ちる。

 騎士たちとまた一体のダンジョンボスを倒したのだと叫ぶ。


「アイク」


 叫んでいるとクロエが隣に降り立つ。


「クロエ、もう無茶はしない」


 クロエが俺を見つめる。


「今のアイクならいいわ」


 先ほどの俺はよほど焦っていたようだ。


「すまない。焦りすぎていた」

「パーティーだもの。焦ったアイクを止めるのは私たちの役目よ」

「ありがとう」


 お礼を伝えるとクロエが笑う。

 しかし、クロエは防具がほぼ意味をなしていない。俺より危ういのでは……。


「クロエも無茶しないんだよ」


 パーシーがクロエを諌める。


「魔力が少なくなってきたから大人しくするわ」

「僕も魔力が足りなくなってきた」


 クロエとパーシーは魔力を大量に使った魔法を使い、続け様に魔法を連続で使っている。獣化で魔力が増えたといっても足りなくなるだろう。


「あとは死力を尽くした戦ね」


 クロエが手に持っていた剣を新しいものに取り替える。以前に予備の武器すら壊した教訓から武器は数を用意している。


 ふと、バトルアックスを見ると両刃だったはずのバトルアックスは片方の刃が潰れて変形している。バトルアックス自体を強化していたとはいえ、騎士に杭がわりに殴られれば耐えられない。

 直して使えるという破損ではなく、屑鉄いき。

 鞄から新しいバトルアックスを取り出し、古いバトルアックスを収納しておく。


「後5体」


 パーシーの声に周囲を見回す。

 気づけばダンジョンボスのヘカトンケイルは数えられるほどに減っている。


「次のヘカトンケイルに向かう」


 クロエのパーシーが頷く。

 俺とパーシーは地上を駆け、クロエは再び空に飛び上がる。

 一番近くにいるヘカトンケイルに接近する。




 残り5体からが長い。

 魔力がなくなりかけているのは俺たちだけではなく、他の騎士も魔力の残りが少ないようでヘカトンケイルに致命傷をなかなか与えられない。

 それでもダンジョンボスのヘカトンケイルを最後の一体まで倒し切る。


「最後……」

「……うん」


 息が上がってまともに会話もできない。

 それでも俺が最後の一体だと言いたいのがパーシーに伝わっているようだ。

 体全体がヘカトンケイルの血に塗れ、甲冑が破損している。

 俺だけでなく誰も彼も装備がひどい状態で、破損して血に塗れている。それでも武器を手に最後のヘカトンケイルに皆が向かっていく。


「近づけない」


 騎士の数が多すぎてヘカトンケイルに近づけない。


「足元は任せたほうが良さそう」


 息を整え、考える。

 クロエが時々やっている曲芸じみた動きを思い出す。


「腕をつたって頭に一撃を入れる」

「できる?」

「わからん」


 だが他に良い方法が思いつかない。


「面白い。やって見せようではないか」

「ベアトリクス様」


 気づかなかった。ベアトリクス様が近くにいたようだ。

 ベアトリクス様も多分に漏れず装備が破損して血に塗れている。それでも戦意は衰えていないようで、獰猛な笑みを浮かべている。

 ベアトリクス様が周囲の騎士に腕をつたうと作戦を伝える。


 ヘカトンケイルが剣を振り下ろすのを待つ。

 時はきた。

 剣が振り下ろされた。


 鉄塊のような剣を避け、騎士の背中を台にヘカトンケイルの腕に飛び乗る。

 急斜面で不安定な腕の上を駆け上がる。

 ヘカトンケイルの腕を払うような動作を気合いで耐える。

 さらには別の腕が伸ばされ手が迫ってくる。


「注意が逸れたわよ!」


 クロエを含めた飛んでいた騎士がヘカトンケイルに襲いかかった。

 ヘカトンケイルの目や手への攻撃で俺から気が逸れる。

 顔まで後、もう少し。

 肩を走りながら、顎を狙ってバトルアックスを振るう。

 ヘカトンケイルの頭部がこちらを見て狙いがずれる。


「くそ!」


 もうやり直しはできない。

 顎ではなく頬にある目にあたり、顔が逸れる程度に終わる。

 体がヘカトンケイルから滑り落ちる。


「任せよ」


 落下中に上を見上げると、ベアトリクス様のハルバートがヘカトンケイルの顎を捉えたのが見えた。

 ヘカトンケイルが頭を大きくそらす。


「アイク」


 落下していく俺をクロエが掴む。

 落下という速度ではなくなり、ゆっくりと降下していく。

 地面に着地したと同時にヘカトンケイルが倒れ込む。

 騎士がヘカトンケイルに群がっていく。


「うまくいったな」


 ベアトリクス様が俺と同じように翼を持つ騎士に抱えられ降りてきた。


「ベアトリクス様のおかげです」

「いや、妾だけの成果ではない。アイザックが一撃入れたため狙いが定まった」

「でしたら皆の成果です」

「その通りであるな」


 騎士の叫び声が響く。

 ダンジョンボスのヘカトンケイルが倒された。

 普通のヘカトンケイルが徐々に黒く侵されていき、全体が黒くなると黒い煤となって消えていく。

 モンスターのコアに似た草や木もまた黒い煤となり消えていく。

 ダンジョンは討伐された。


「グラァァアア!」


 叫びと共に涙が溢れる。

 魔力が枯渇しかけた状態で戦い、死力を尽くした。

 やり切った。

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