第54話 ヘカトンケイル
ようやくダンジョンの最奥にたどり着いた。
クロエが指をさしてヘカトンケイルを数える。
「ダンジョンボスの数は10以上ね」
巨大なヘカトンケイルが何体も動き回っている。
通常のダンジョンボスは普通一体。
核を与えたダンジョンはボスの数が増える。事前に聞いてはいたが、想像よりもずっと数が多い。
「与えた核の数と同数いるわけじゃないだろな?」
「20個と元の1個だった場合、21体のヘカトンケイルがいるわね」
「大きすぎて数えるのが難しい」
俺も数えてみるが、動き回るヘカトンケイルを数えるのは難しい。10を数えたあたりで数えたヘカトンケイルかどうかがわからなくなってしまう。
「数は関係ないわ。全て倒していくだけよ」
「そうだな」
最終層まで来たのだ、あとはダンジョンを討伐するだけ。
ダンジョンを討伐すればアックスオッターは破棄されずに済む。
「諸君! ダンジョンを討伐する!」
ベアトリクス様の号令でヘカトンケイルを眺めていた騎士が動き出す。
俺も周囲に負けずに前へ出る。
巨大なヘカトンケイルにたどり着く前に普通のヘカトンケイルに阻まれる。
普通のヘカトンケイルでさえ、2階から3階建ての建物に相当する大きさがある。ヘカトンケイルは大量の腕に縦に広がる牙の生えた巨大な口。口の周りに複数の目があり、顔だけでなく腹にまで目が存在している。
腕の数と目の数が異常に多い。
こちらに気づいたヘカトンケイルが、大量に持った武器を振り下ろす。
「受け止める!」
振り下ろされる武器は剣。
剣とはいえ、大きすぎて鉄骨のような見た目をしている。
空気を切り裂く音が響き、盾に剣がぶつかる。爆発音のような音がして、凄まじいとしか言いようがない衝撃が盾から体全体に襲いかかる。
膝をつかずに耐え切る。
「手を一本いただくわよ」
クロエが剣を持っているヘカトンケイルの手を切り捨てる。
支える手がなくなった剣は倒れ、凄まじい音を立てる。
「グオオオ」
ヘカトンケイルが無くなった手を押さえ背中を丸める。
「僕は左の足! アイクは右の足を!」
「ああ」
痛みに悶えているヘカトンケイルに近づき、バトルアックスを振って右の足首から叩き切る。
両足の支えがなくなったヘカトンケイルは膝をついて頭を下げる。
「首をおいていきなさい」
クロエがヘカトンケイルの首を両断する。
「次に行く」
「ええ」
普通のヘカトンケイルを倒しても意味はない。
巨大なヘカトンケイルを倒す必要がある。ダンジョンボスである巨大なヘカトンケイルへ向けて一歩ずつ進んでいく。
何体ものヘカトンケイルを倒し巨大なヘカトンケイルに肉薄する。
真上を向かなければならないほど巨大なヘカトンケイル。
少し動くだけで地響きが鳴り、大気が震える。
巨大な木の幹を思わせる足は大きく太い。
「大きすぎて足元に気づいていないか」
「こちらもヘカトンケイルが大きすぎて致命傷を与えられないわ」
「なら相手から近づいてもらおう」
再びヘカトンケイルの足を狙う。
盾を背中に背負い、両手でバトルアックスを握る。
体を捻ってバトルアックスの勢いをつける。
木こりが木に斧を振るうように、俺はバトルアックスを振るう。
ヘカトンケイルの足にバトルアックスが当たると、金属にでもぶつかったかのような硬さを感じる。
「ガアアアアア!」
硬さなど無視。
全力でバトルアックスを振る。
力に耐えきれずガントレットが吹き飛ぶ。
ガントレットが吹き飛ぼうとも関係なしに力を入れると足が地面にめり込んでいく。目の前が白く染まるほど力を入れると、バトルアックスがヘカトンケイルの足を切り裂いていく。
「アアアア!」
ヘカトンケイルの足からバトルアックスが抜けると、一気に力が解放され体制が崩れる。
バトルアックスが地面に刺さり、体が泳ぐ。
よろけた体制のままにヘカトンケイルから離れる。
「倒れるぞ!」
周囲の騎士に注意を促すため大声をあげる。
足を切り取ったヘカトンケイルを仰ぎ見ると、体制を崩したヘカトンケイルがゆっくりと倒れていく。
大きすぎて倒れる速度がゆっくりに見える。
倒れた瞬間、凄まじい砂埃と小石が舞う。
通常のヘカトンケイルを巻き込みながら巨大なヘカトンケイルはうつ伏せに倒れた。
「首を落とせ!」
クロエとパーシーがヘカトンケイルの頭部を狙う。
倒れたヘカトンケイルは無数にある腕を動かし、頭部に近づこうとするクロエとパーシーを払おうとするが倒れた状態では動きが鈍い。二人は全ての攻撃を避け、ヘカトンケイルの体を登って頭部にたどり着く。
二人は頭部に武器を振っているが致命傷には至らない。
地面の上で力が入れられた俺とは違い、ヘカトンケイルの上では力が入らないのだろう。
「クロエ、魔法を!」
「まだ一体目なのよ!」
「魔力を温存しても倒せなければ意味がないよ!」
崩れた体勢から起き上がり、ヘカトンケイルの体に登って二人の元に向かう。
「薄氷」
クロエの剣から氷の刃が出現して、ヘカトンケイルの頭部を切り裂く。
首が落ちたヘカトンケイルは痙攣した後、動かなくなる。
「二人とも無事か」
パーシーがこちらを振り返る。
「危ない!」
俺の後ろか!
振り返ると、別の巨大なヘカトンケイルが目からビームのようなものを打ち出しているのが見える。
「二人とも俺の後ろに!」
盾を構えるのがなんとか間に合う。
剣を受けたのとは比べ物にならないほどの圧力に熱されるような高温を盾から感じる。
盾が赤熱していく。
手にまで熱が伝わってくるが、熱された盾を離すわけにはいかない。
火傷を負いながらも攻撃に耐える。
盾に圧力がなくなったところで盾から手を離す。
真っ赤に熱された盾は落とした衝撃で簡単に歪んでしまう。
「アイク!」
「二人とも無事か」
「アイクこそ手が!」
腕から血が出て煙が上がっている。
酷い状態であるのに痛みがない。
ガントレットが残っていたらガントレットも熱されて、腕はもっと酷い状態だったかもしれない。吹き飛んでくれて良かった。
「身体強化すれば問題ない」
「そういう問題じゃないよ!」
魔力を多く使い腕の傷を治癒する。
すぐに血が止まって普通に動かせるようになる。
獣化しているのもあって、治癒速度がはやい。
「もう動ける。二発目を打たれる前に移動する。今の状態でもう一度打たれれば耐えられない」
倒したヘカトンケイルの上から移動する。
壊れずに残っていた腰に下げた鞄から新しいガントレットを取り出す。
「アイク、一度下がるべきだ」
「そうね。怪我がひどすぎる。一度診てもらった方がいいわ」
パーシーとクロエに止められる。
ガントレットを装着して、新しい盾を取り出す。
「いや、ダンジョンの討伐が終わるまで下がらない」
「無茶よ!」
「今引くわけにはいかない」
「慎重なアイクらしくないわ」
「一族がしでかした後始末は俺がつける」
ダンジョンに入ってからずっと考えていた。
小心者の俺が覚悟を決め、相打ちになったとしてもデレクを止めていればアックスオッターは存亡の危機に直面しなかった。
全ては俺の覚悟のなさから始まっている。
「アイクに責任はないよ!」
「あるさ。俺はアックスオッター伯爵の子供。領地を守るのが貴族の役目だろ」
領民を守るのが領地を治める貴族として背負うべき責務。
死にたくないと逃げていたが、故郷が消えると実感して貴族としての責務を自覚した。
「アイク、どうしても下がる気は無いのね?」
二人は俺を必死に止めようとする。
普段であれば忠告を聞いたであろうが、今はできない。
「二人を巻き込むつもりはない。俺を見捨ててくれて構わない」
「私はアイクを見捨てない!」
「僕はアイクを見捨てはしない!」
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