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脳筋騎士のダンジョン討伐 〜毒を盛られた伯爵家の三男は脳筋貴族をやめて錬金術師になりたい〜  作者: Ruqu Shimosaka


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第53話 ダンジョン深層

 50層を超えて深層に到達すると一向に進まなくなる。

 深層は中層と比べて明らかにモンスターの強さが違う。怪我を負って戦線を離脱する騎士が増えた。

 1日で3層を超えられるかどうかにまで速度が落ちる。


「このまま1日3層進める仮定だと、10日で30層か」

「50層から17日で100層だね」

「50層までかかった時間はおおよそ3日。全体で20日間か。しかし、今後どう考えても魔力の回復量が落ちて探索速度が落ちる」

「怪我人も増えている。あまり深いと一ヶ月を超えてしまいそうだよ」


 モンスターの復活はおおよそ一ヶ月。モンスターが復活を始めると、下の層で取り残されてしまう。モンスターが復活する前に、探索を切り上げる必要が出てくる。

 ダンジョンの最終層がどの辺りにあるかが問題になってくる。


 ダンジョンの最終層にたどり着けない場合、アックスオッターはモンスターに飲まれる。

 50層までは想像よりも随分早く進んだが、50層を超えてからの遅さは焦りを生む。本当にダンジョンを討伐できるのだろうか……。


「アイク、交代みたいよ」

「もうか」


 クロエは命令が出る前に大隊の動きを感じ取ったようだ。

 バトルアックスと盾の調子を確認する。盾は焦げ、傷ついているがまだ使える。バトルアックスは一部欠けているが今回は使えそう。今回の戦いが終わったら予備のバトルアックスに変えた方が良さそうだ。

 武器や防具にはバンパイアの素材を使っているというのに消耗が激しい。


「大隊交代せよ」


 戦っている騎士と変わるように前に出る。

 50層を超えると草と木に加えて地面から鍾乳石のような岩が生えているようになった。当然鍾乳石の色は濃い緑色。しかもうっすらと発光している。

 気味が悪い。


 クロエが大剣を抜き放つ。


「さあ、暴れるわよ」


 57層のモンスターはマンティコア。

 老いた人面にも見えるライオンのような顔に猛獣の胴体。大量の鋭い針がついた尻尾。尻尾に生えた針は毒液に塗れており、刺されれば猛毒を喰らう。また大きな牙を持ち、噛まれればタダでは済まない。


「増えているのは尻尾か」

「厄介ね」


 まだ巨大化していた方が良かった。


「クロエとパーシーは俺の後ろに」

「分かったわ」


 マンティコアに近づくと、しわがれた声で威嚇してくる。

 威嚇と同時に尻尾がうねり、しなるように振るわれる。まだ尻尾が届く距離ではないが、マンティコアが尻尾を振るった意味はある。尻尾の先についた針だけが外れ、鋭い勢いで針が俺の方に飛んでくる。

 針を飛ばす精度は正確で、何もしなければ俺に直撃する。

 盾を掲げてマンティコアの毒針を防ぐ。


 金属同士がぶつかったような甲高い音を立てて盾に針がぶつかる。

 針は盾を貫いておらず、このまま進めると判断。

 マンティコアに近づき、バトルアックスを全力で頭部に振るう。マンティコアはバトルアックスを素早く避けながら尻尾をこちらに振るう。

 左手にもつ盾と反対側からくる尻尾の攻撃は防げない。


「やらせないわよ」


 後ろにいたクロエが前に出て、迫り来る尻尾を2本切り取る。


「ぎゃあああ」


 人間のような叫び声をマンティコアが上げる。

 マンティコアの注意がクロエに向いた瞬間、マンティコアの視覚外からパーシーが近づいてメイスを振るう。

 メイスは見事に頭部を捉え、マンティコアの頭部が陥没する。


「アイク、焦りすぎよ」


 マンティコアが動かなくなった後、クロエが俺に注意してくる。


「すまない」


 自分でも今の攻防は危うかったと自覚している。

 マンティコアを攻撃する時、全力で攻撃しないで防御を優先すべきだった。攻撃はクロエとパーシーに任せるべきで、俺は守りに専念していれば良かった。


「今の状況はアイクが焦りたくなるのもわかるけど、深層のモンスターは一人で相手するのは難しい。しっかり連携して倒そう」


 パーシーからも注意される。


「分かった。防御に集中する」


 深層での焦りは死を招く。落ち着かねば。

 焦りは俺だけではなくクロエとパーシーをも巻き込んでしまう。


「僕とクロエだと、マンティコアの針は甲冑を貫いてしまいそうだよ」


 地面に落ちたマンティコアの針は20センチ近く、ナイフのように鋭い。


「マンティコアの針は想像以上に大きいな」


 盾を見ると針が当たったであろう場所が大きく削れている。アダマンタイトの分厚い盾を魔法で強化しているため貫通はしていないが、魔法での強化が弱ければ貫通していただろう。

 甲冑の場合、場所によっては薄い装甲もある。薄い装甲にあたれば針が貫通してしまう。


「アイク、頼りにしているよ」

「任せてくれ」


 次のマンティコアに向かう。




 67層。

 ダンジョン討伐10日目。

 長時間睡眠をとってだるい体を起こす。戦線を離脱するものが増えた。

 代わりの交代要員も王都から来てはいるが、深層で問題なく戦闘ができる騎士をすべてアックスオッターに集めるわけにもいかない。ダンジョンは今もどこかで発生している。


「魔力の回復が悪いな……」


 同じように長時間寝たのにまだ眠そうなパーシーがため息をつく。


「俺もだ」


 魔力の回復速度が随分と落ちた。

 今は長時間の睡眠で回復させているが、疲れが抜けていない。このままだと完全に回復しなくなりそうだ。


「3層進むのも厳しくなってくるかも」

「普通の深層ダンジョンであれば100層に到達していてもおかしくないんだがな」

「モンスターが多すぎるよ」


 ダンジョン内のモンスターを全て倒しながら進んでいる弊害が大きい。

 通路と部屋に区切られていれば、下の層まで最短の道順であればモンスターを全て倒す必要はない。ダンジョンの核を持ったモンスターを倒しさえすれば、倒していないモンスターも消滅する。

 しかし、核を与えたダンジョンは通路という概念がないため、各層のモンスターをほぼ全て倒す必要がある。


「早く最奥にたどり着けるといいのだが……このままでは体力が持たない」

「うん。モンスターが復活するであろう一ヶ月という期限はまだあるけど、疲れから怪我人が増えている」

「一度戦闘を完全に止め、一週間ほど休憩を入れるという案も出ているらしいがどうするのか」

「休憩を挟めばダンジョンの攻略は当然止まってしまう。核を与えたダンジョンは休んでいる間にダンジョンが成長しないとも限らないのがね……」


 核を与えたダンジョンは情報が少なく先が読めない。

 一ヶ月でモンスターが復活するというのも通常ダンジョンでの話。今、1層のモンスターが復活してもおかしくはない。

 ダンジョンの討伐に失敗すればアックスオッターが破棄される。


「今は前に進むしかないか」

「それしかないね」


 少しでも回復するように大量の食事をとってエネルギーを補給する。

 通常であればあまり食べないほうが戦いやすいが、今は今後も戦闘を継続する前提で食事をとる。


 所属する大隊が前線へと向かう。

 休んでいた67層の下、68層を現在は攻略している。

 68層のモンスターは大半が討伐されているようで、68層の広い空間が遠くまで見渡せる。


「69層に進む!」


 ベアトリクス様の指示に従い68層から69層へと降りる。

 69層は天井が見上げるほどに高く、遠くが見渡せないほど広い。

 先ほどまでの階層とは明らかに違う。


「ヘカトンケイル」


 誰かが呟く。

 4階から5階のビルと変わらない大きさの人型が動く。

 巨人と呼ぶしかないほどの大きさに、大量の腕を体から生やしている。手には複数の剣を持っており、剣もまた体に見合った巨大な大きさ。

 巨大なヘカトンケイルの周りには、半分ほどの大きさのヘカトンケイルが群れている。


「ダンジョンボス」

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