第51話 ダンジョンへの侵攻
ダンジョンの前に多くの騎士が集まる。
今回の総指揮を取るベアトリクス様が前に出てくる。他の騎士団から団長クラスもきているが、ベアトリクス様が最初に指揮をとっていたため、そのまま指揮を取る。
「諸君、これよりダンジョンの討伐に向かう。このままアックスオッターに発生したダンジョンを放置すれば深層を超えるダンジョンに成長する。ダンジョンの核が効果を発している間はダンジョンが深層を超えていないと判断し、ダンジョンの討伐を決行する」
まだアックスオッターが残る可能性はある。
「我らスカーレットドラゴンの子、決してダンジョンの侵略を許しはしない。死力を尽くせ」
自分を鼓舞するように叫ぶ。
周囲の騎士たちも叫び大気が震える。
決してダンジョンにアックスオッターを潰させはしない。
「進め!」
三千を超える騎士と従者がダンジョンに進む。
騎士と従者に混じり、ろくな装備もつけていないダンジョンに核を与えた者たちが連れられている。護衛がいるわけではないため、行きたくないと本気で嫌がっている。
騎士に掴まれて逃げられるわけもなくダンジョンの中に連れて行かれる。
「本気で嫌がるくらいならダンジョンに核など与えなければよかっただろうに」
「そうだね。救い難いよ」
心優しいパーシーに救い難いと言われるのはよほどだ。
無理やり連れられている人の中にはデレクの祖父も含まれている。白髪でスリーピースのスーツを着て手には杖を持っている。杖はついているわけではないようだが、高齢なのは間違いない。
どう考えてもダンジョンの最奥にはたどり着けない。
哀れみは感じない。
むしろアックスオッターが滅亡する原因を作ったのは者たちに怒りすら感じている。自らの手で——。
「アイク、パーシー、少し手間のかかった死刑囚など気にしていないのよ」
「死刑囚……そうだな」
俺が手を下す必要はない。
先ほどの考えを捨てる。
「私たちの出番は随分と後になる予定だけれど、気は抜けないわよ」
「ああ」
今回は魔力が徹底的に管理されており、戦う順番が決まっている。三千人を6大隊に分け、一大隊が五百人で構成されている。魔力がなくなった場合は後退して回復する。
ダンジョンの規模が大きいと予想されるため、二、三度戦う順番が回ってくる前提で動いている。また戦闘能力が優れていると判断された者は、ダンジョンの核を討伐するための大隊に所属する。
今回は俺たちはダンジョンの核を討伐する大隊に回されている。
新人の騎士であるのに随分と評価されている。
「アイク様、我々の順番が来たようです」
「ライナス、無茶はするなよ」
「アイク様こそ無茶はなさないでください」
「分かった」
ライナスやクロエとパーシーの従者も戦いの頭数に含まれており、戦う順番が決められている。
今回は戦う順番が隊列の位置に関連するため、ライナスと完全に別行動になる。
俺たちとは離れるが、ライナスを含めた4人の従者は行動を共にする。
お互いの無事を祈り、4人の従者は隊列に加わっていく。
4人とも騎士と変わらない実力がある。きっと無事に帰ってくる。
半日以上待ったところで、俺たちの順番が回ってくる。
切り開いた道を進む。
1層は昨日の時点でジャイアントラビットを掃討しているため、2層への入り口まで安全に進める。
1層から2層に降りる通路は地面に掘られた大穴。5メートルほどもある大穴は近づくとわかりやすいが、遠目だと草に隠れてどこに穴があるのかわからない。
「大きな口に飲み込まれるような不気味さがある」
「奥が光っている分、得体の知れない怖さはないけど……気持ち悪いね」
見慣れているダンジョンと違うのは不気味さが増す。
先をゆく騎士の後ろを追って、大きな穴を降りる。
1層同様に2層もまた巨大な空間が広がっている。
1層のジャイアントラビットは戦い始めると一定距離にいるジャイアントラビットが反応したため、連続で戦う必要があった。おそらく2層も同じようにモンスターが連鎖しそうだ。
ほぼすべてのモンスターを倒す必要がありそうだな……。
2層のモンスターはすでに掃討されているようで、先に進み続ける。
歩いていると倒したモンスターを回収しているのが見える。
「2層はブラックウルフのようだが……双頭か」
「見た目は深層に出るオルトロスのようだけど、他のモンスターと混在していない。まだ他の層からモンスターが移動しているとは思えないよ」
「おそらくオルトロスではないんだろうな」
核を与えたダンジョンはどの程度成長すればモンスターが移動するのかはわからないが、今のところは層ごとに一種類しかモンスターが存在していない。下の層からモンスターが移動しているわけではないと予想できる。
深層にしかいないオルトロスが低層にいるのは変で、おそらくブラックウルフが双頭になっただけなのだろう。
「深層のオルトロスほど強いとは思えないけど、相当強そうだ」
「そもそも深層のモンスターと俺たちは戦っていないから強さがわからないな」
「初めての戦闘が核を与えたダンジョンになりそうだね」
「そうだな……」
深層のモンスターは武器を持った中層のモンスターとはまた違う。
武器を持っている場合もあるが、大半のモンスターは魔法を使ってくる。魔法とは言ってもバンパイアが俺の血を吸って回復したような、人が使う魔法とは違う。
オルトロスの場合は火を吹くとされるが、2層には焦げ臭い匂いを感じない。
倒された双頭のブラックウルフを横目に2層を抜け、3、4、5と順番に階層を抜けていく。
11層にまで到達すると、風景が変わる。
「木?」
「色が変なのを除けば木だな」
木は葉っぱだけでなく、幹まで濃い緑色。
まるでモンスターのコアが木になったかのように見える。今更だが、地面に生えている草もモンスターのコアに似た黒っぽい緑色をしている。
「木と草の色、コアに似てるんだ……」
「パーシーも気づいたか」
「うん」
モンスターは地面から霧が出てきて復活する。
地面い生えた草や木はモンスターになれなかった過剰なエネルギーの一部だったりしないだろうか。
「爆発しないでしょうね?」
「多分な」
クロエが嫌そうな声を出す。
草を何度も踏んでいるため爆発しないのは分かっているが、コアに似ていると認識すると地面が爆発しそうに見えてくる。
なるべく木に近づかないように歩く。
木はまばらにしか生えていないため、避けて歩くのは不可能ではない。隊列も木を避けて歩いている。
11層に入ると地上に戻っていく騎士の数が増える。魔力がなくなり地上で休憩して回復させるのだろう。
11層であれば戻ってくるまでそう時間がかからないため、地上に戻って緊張が少ない状態で魔力を回復させるのだろう。ダンジョンの中で休憩するより、外で休憩した方が魔力の回復量が増える。
25層まで来ると前方で戦闘しているのがわかるようになる。
ダンジョンの進行速度は順調で、普通のダンジョンより早いペースで移動している。
戦う騎士の数が多いのもあるだろうが、各層が一部屋しかないため探索の手間が省けているからかも知れない。その代わりに各層のモンスターをすべて倒す状態で進んでおり、騎士の消耗もかなり激しい。
「中層で戦う必要がありそうだな」
「ダンジョンの成長が中層で終わっていればいいけど、そんな都合のいい話はないよね」
「ないだろうな。そもそも名前付きのダンジョンは100層を超える。深層である50層は余裕で超えていると考えた方がいい」
「1年でここまで成長するとはね」
「核をダンジョンに与えすぎだな」
通常なら一年で中層に達した程度の11層から14層までしか成長しない。ダンジョンに核を与えると、1年で25層を超えて成長している。
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