第50話 危機管理
ダンジョンは侵略者であり人類の敵。
なぜデレクはダンジョンが敵であるのを理解できないのか。
「現実を受け止められぬか。もう一度ジャイアントラビットに弾き飛ばされれば少しはまともになるか?」
「私はまともだ!」
デレクが叫びながらベアトリクス様に近づく。
すぐに騎士が動き、デレクを拘束してベアトリクス様に近づけないよう止める。
「まともではないから、其方でもわかるようにアックスオッターが滅びかけているのを教えている」
「アックスオッターは滅ばない。私の統治により発展している」
発展しているというが、アックスオッターの街並みは以前と変わっていない。生まれてから育った街を見間違えるはずはない。
そもそも、たった一年で目に見えるほど発展するわけもない。
「発展している? 其方の中では屋敷を宝石や貴金属で飾るのが発展というのか?」
「外観でしか判断ができないのか」
「では何をした?」
「魔石の購入量と生産量を増やし、流通を握っている。現在の価格で売却した場合でも1割以上の利益が出る」
魔石の価格が上昇していたのはデレクが買い占めていたからか……。
「ダンジョンに使う予算を流用して行うのが、魔石の買い占めとはな。なんと意味のない」
「意味がない? 王家も魔石を独占しているではないか」
「わかっているではないか。王家が魔石の在庫を放出すれば魔石の価格など元の値段に戻る」
アックスオッターの予算で買い占められる魔石の量などしれており、多少価格が上昇する程度でしかない。貴金属なら資産として保有するならわからなくもないが、なぜ魔石を選んだのか理解に苦しむ。
「生み出される魔石には上限がある」
「スカーレットドラゴン王国全体でどれだけダンジョンが発生していると思っている? 魔石に上限などあるわけがなかろう」
毎日のように討伐されるダンジョンのモンスターから魔石は生産されている。
魔石の消費量も増えてはいるが、今のところは生産量を上回るような量は消費されていない。
王家の倉庫には大量の魔石が眠っている。
「アックスオッターもダンジョンを管理して魔石を増やしていた。価格が下がったとしても乗り切れる」
「そのような考えでは魔石を適当に積み上げているだけか。コアより安定しているとはいえ、魔石も適当に積み上げていれば大爆発を起こす」
「爆発など起こしはしない」
モンスターのコアは危険な爆発物ゆえに処理すら大変だった。それが魔石になっても多少安全になった程度で、危険物であるのは変わりない。
テラパワーは直接王家から魔石を買えるようになって、王家の倉庫に錬金術師を派遣して直接持ち出しているため、ただみたいな値段で魔石を購入できるようになっている。
流通している魔石の価格は危険物を取り扱うための費用が大半なのだ。
「其方、領地の経営以前に、商売が下手だな。利益ばかりで危機管理が一切できていない」
「商売が下手!?」
デレクはベアトリクス様に再び近づこうとするが騎士に阻まれる。
今まで見た中で一番怒っているように見える。
商売に対する誇りがあったようだ。
確かに祖父が商人であるためもう少し商売が上手いと思っていた。しかし、話を聞いた限り、商売が下手としか言いようがない。
「騎士としての能力だけでなく、商売ですらアイザックの方がうまいのか」
「私が錬金術師のアイザック以下だと!?」
「アイザックは商品の開発から売り込みまで完璧である」
売り込みたかったわけではないのだが、開発したもの全てが売れているのは事実。クロエが友人であったのがうまくいった要因の一つではある。しかし、学園での出会いという意味では俺とデレクは同等であり、出会いに差はさほどない。
知識という点でも、俺は前世の知識はあるが成果になるまで研究するのが難しい。むしろデレクは知識と予算どちらもあり、お金を儲けるだけで考えるとデレクの方が優位であるように思える。
「手先を動かすだけの錬金術師に何ができる!」
「何ができるとは、其方が買い漁った魔石は錬金術師が開発したものであるがな?」
「物を作るだけでまともに商売もできない、卑しい錬金術師とは違う」
よくわからない理論をデレクが展開している。
「錬金術師は卑しい存在ではない。貴族は国を守るのを責務としているが、錬金術師もまた国を守るのに貢献している。貢献しているのはどの職でも同じであり上下は存在しない」
「上下はある」
ベアトリクス様とデレクの会話が噛み合わなくなってきた。
いや、元々噛み合っていないのかもしれないが、デレクの強い思い込みが商売に関連すると強くなっているように思える。
「そんなに上下をつけるのが重要か」
「私は誰よりも利益を出し上に立つ」
上、抽象的な表現だな。
王にでもなりたいのだろうか? ……当たっている気もする。アックスオッターを独立でもさせる気だったのかもしれない。
「商人の価値観か? くだらん」
「くだらなくはない」
「それではアイザックのテラパワーは下手な領地よりも利益を上げられる。デレクの価値観ではアイザックの下ではないか」
王家のダンジョンに対するお金の使い方は半端ではない。
ガトリングや装甲車はトレーニング器具を売っていた時とは違い、一度に入る注文の数も桁違いであれば、一度に入ってくる桁も違う。
今は利益をほぼ全て設備投資に回しているが、設備の投資が終わればとんでもない利益となる。下手な領地よりも利益が出るというのは間違いではない。
「嘘だ」
「嘘ではない。アイザックは商売が上手いと言ったであろう」
「嘘だ!」
デレクが叫ぶ。
よほど俺に商売で負けたのが悔しいようだ。
俺としては儲けよりも錬金術で物を作る時間が欲しいのだが、デレクはお金を儲けるのが目的になっているようだ。
しかし、デレクはお金を儲けた後の目的が随分と曖昧に思える。
数字を追い求めるのは確かに面白いのだが、デレクの場合は自己がないようにすら思えるほどにお金に執着している。
「アイザックにも負けるのだ、デレクの父や兄よりも商売が下手なのではないか?」
「領地をまともに発展させられず、戦うだけしか脳がない愚図より下手なわけがない!」
デレクの自尊心を大きく刺激したのか、目を見開いて血走っている。
「随分ないいようだ。気に入らぬから毒を盛って殺したと?」
「そうだ!」
ここにきて毒殺を否定すらしない。
俺はデレクが殺したと疑っていなかったため、驚きはさほどない。それでも怒りと悲しみは覚える。
「国を守る騎士を殺した報いは受けてもらおう」
ベアトリクス様がハルバートをデレクに突きつける。
デレクは今までベアトリクス様に近づこうとしていたが、ハルバートから逃げるように後ずさる。しかし、騎士に捕まれたデレクは後ろに下がれない。
「や、やめろ!」
デレクは武器を向けられただけで腰が抜けたのか、騎士に腕を持たれた状態で地面にへたり込んでしまった。
いや、ベアトリクス様がデレクを睨みつけて威圧している。
まともに鍛えていないデレクはベアトリクス様の威圧に耐えられなかったようだ。
「騎士を二人も殺した上にまだ騎士を殺そうとする。それだけではなく、ダンジョンに核を与えまでした。デレクが犯した罪をダンジョンの最奥で見てもらおう。ダンジョンの奥がデレクの処刑場となる」
デレクの顔面が蒼白になる。
ベアトリクス様がハルバートを引いて、デレク以外のダンジョンに核を与えた者たちを見る。
「この場にいるデレクの関係者は同罪である。明日のダンジョン討伐に招待しよう」
ベアトリクス様がわざとらしく思い出したかのように手を叩く。
「ああ、そうだ。我々騎士は其方らが犯した罪の後始末で忙しい、各々自分の身は自分で守るようにな」
デレクを含めた者たちが顔を白くさせる。
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