第47話 アックスオッターの存亡
ベアトリクス様は宣言すると、いまだに行かないとデレクが騒いでいる部屋から出ていく。
動かねばと思いつつもデレクを睨みつける。
「アイザック、こちらにくるのだ」
ベアトリクス様から呼ばれてデレクから視線を外す。
「はい」
ベアトリクス様に続いて部屋を出る。
怒りに任せてデレクを殴ってしまいたかった。
「駅で待機している人員を含め全ての人員を集めよ。予定を変更する」
ベアトリクス様が歩きながら近くの騎士に指示を出す。
指示を聞いた騎士が指示を実行するために移動していく。
「アイザック、非常にまずい状況なのは分かっているな」
「はい」
ベアトリクス様の声が硬い。
中層ダンジョンがアックスオッターに複数ある程度であれば想定していたが、まさかダンジョンの核をダンジョンに与えているとは……。
「被害を最小限に抑える必要がある。最悪アックスオッターは放棄する」
「理解しております」
理解していても思わずため息が出る。
どこまでアックスオッターを破棄する必要があるかはわからない。
アックスオッターに住む何万人という住人が街から住めなくなるのは確実。
しかも港があり駅があるアックスオッターは物流の拠点である。スカーレットドラゴン王国が大きな国とはいえ、一つの大きな街が潰れれば影響は大きい。
「ダンジョンに与えた核の数は多いが、まだ一年しか経っていない。ダンジョンを討伐できるかもしれない」
「まだダンジョンが成長しきっていない可能性があるのですか?」
「通常ダンジョンが育ち切るには50年以上かかると言われている。核がどの程度ダンジョンを育てるかはわからぬが、まだ可能性は残っている」
まだアックスオッターが助かる可能性はあるのか。
「まずは我々が調査に入る。アイザック、決して無理するな」
ベアトリクス様は俺が無茶するのを止めたいようだ。
「死ぬつもりはありません」
「それならいい」
一人でどうこうなる状況でないのは分かっている。
俺はデレクに知識を与えた、バンブータイガー共和国も気になっている。余計な知識を与えなければアックスオッターは危機に瀕死なかった。
「ベアトリクス様はデレクが話したバンブータイガー共和国についてはどう思われましたか?」
アックスオッターとも交易がある国だとはうっすら覚えている。
国の規模はアックスオッターとさほど変わらず、元老院から代表を選ぶ共和制だったはず。
「バンブータイガー共和国がダンジョンの核がどう言うものか知らぬまま、ダンジョンに与えているのであれば国が消えるであろうな」
「国が消える」
「スカーレットドラゴン王国での活動に合わせダンジョンについて警告する。しかし、今から対応したところで間に合わぬ可能性が高い」
ダンジョンという侵略者がいる世界では人同士の戦争は滅多に起きない。戦争を起こそうとしている可能性は完全に否定できないが、本当にダンジョンを管理している可能性が高い。
アックスオッターより先にダンジョンの管理を始めていた場合、ダンジョンがアックスオッターより育っている。ダンジョンが育ちきれば、バンブータイガー共和国は地図から消えるかもしれない。
「バンブータイガー共和国はスカーレットドラゴン王国と陸続きだったと記憶しています」
「一部のモンスターが国内に流れ込んでくる可能性はある」
火種があるのはアックスオッターだけではない。最悪の状況。
ベアトリクス様と話しながら屋敷の中から庭に出る。
整えられた庭が踏み荒らされ、芝生がめくれて土が露出していく。以前と同じような庭に変わっていく。
やはりアックスオッターの庭は訓練場のような見た目が似合う。
庭の一角に捕まえられた者たちが集められていく。
俺が見たかぎり以前に支えていた者たちは少なく、随分と新しい人員を雇い入れたようだ。中には随分と歳をとった人もいる。歳がいっているのに俺が知らない人なのが不思議で、警察に誰か尋ねるとデレクの祖父と教えられる。
アックスオッターの屋敷にいたのか。
駅で待機していた非戦闘員も合わさり、千人ほどの人員がアックスオッターの屋敷に集まる。
ベアトリクス様が集まった騎士団の前に立つ。
「諸君、当初の予定は破棄する。これよりダンジョンの調査に向かう。調査するダンジョンにはダンジョンの核が与えられ、新しく名前付きのダンジョンができるかどうかの状況に陥っている。状況は考えられる中で最悪と言っていい」
ベアトリクス様が捕まえたものたちがいる方向を睨む。
「名前付きのダンジョンであろうが、ダンジョンの討伐方法は他のダンジョンと変わりない。しかし、モンスターの強さが違う。一年でどの程度成長しているかにもよるが、現状でも深層ダンジョンを討伐するよりも難しいだろう」
前回の深層ダンジョンでは戦闘員と非戦闘員合わせて一万人近い人員を投入された。今回は千人程度の人員しか動いておらず、今後人数が増えるにしても現状では数が少なすぎる。
ダンジョンの討伐は絶望的。
「ダンジョンからモンスターが溢れ出るのは今この時であるかもしれない。ダンジョンの調査には心して挑め。ダンジョンの調査に同行しない団員は、街の破棄を前提に国民を逃すように動け」
戦闘員と非戦闘員に分かれ、慌ただしく動き出す。
俺は装甲車に乗り込む。
四輪駆動の装甲車はアックスオッター全体を調査するため、わざわざ持ち込まれた。まさかダンジョンの核を与えたダンジョンを探しに行くのに使われるとは思ってもいなかった。
ダンジョン周辺が現在どのような状況にあるかもわからず、装甲車を持ってきたのは結果的に功を奏した。
警察が聞き出したダンジョンの場所は街から近い。
モンスターが活動する範囲はダンジョンが広くなると徐々に広がっていく。深層ダンジョンよりも大きくなる場合、街までモンスターが寄ってくる可能性が十分にある。
装甲車はアックスオッターの街を抜け、小高い丘にある森の中をゆっくりと進む。
人の出入りがあるようで道らしきものができている。
普段は人の出入りがない森で道ができたのは最近だろう。
道の先に開けた場所が見えてきた。
「ダンジョンの位置は正確だったか」
ダンジョンがあるであろう地点は木が刈られている。
アックスオッターには多くの川が流れているというのに、水が少ない場所のダンジョン。最悪ダンジョンに水を流し込めるかと思っていたが、水を流し込むのも難しそうな位置。
ダンジョンの周囲には人がおり、全ての人を拘束する。
おそらくはダンジョンを研究者なのであろう。ろくに抵抗する様子もなく、おとなしく捕まっている。何が起きているのかも分かっていなさそうだ。
「ダンジョンの外にモンスターは出ていないか」
確かに普通はいるモンスターがいない。
戦闘が苦手そうな研究者がいるのを見てもモンスターがいないのがわかる。
モンスターはどこに?
「モンスターは?」
「ダンジョンの中にいるのだろう。入ればわかる」
薄暗いダンジョンの入り口がいつも以上に不気味に見える。
ベアトリクス様はダンジョンの入り口を封じるように人と装甲車を配置する。
装甲車の天井にはマシンガンを取り付けられるように台があり、装甲車からダンジョンの入り口を狙った状態になっている。
全ての人員が配置につくとベアトリクス様が前に立つ。
「これよりダンジョン内部の調査に入る。名前付きのダンジョンは内部に罠がある。今から入るダンジョンにも罠があると想定し、低層であっても決して油断するな。行くぞ」
先頭の騎士がダンジョンに入っていく。
どのような状況であれ騎士は前へ進む。
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