第46話 デレク・オブ・アックスオッター
廊下を進むと執務室がある方向が騒がしい。
「伯爵である私に無礼だぞ!」
デレクであろう声が目的の部屋である執務室の中から響いてくる。
毒を盛られたのを思い出し、心臓の鼓動が一瞬速くなる。
一瞬立ち止まってしまうが、すぐに歩く速度を上げる。
大きな両開きの扉は開け放たれており、部屋の中には騎士と警察が集まっている。
ベアトリクス様が近づくと人垣が割れ部屋の中が見通せるようになる。
部屋の中ではデレクが縛り上げられている。
「もっと丁重に扱え、私を誰だと思っている」
デレクが椅子に無理やり座らせられる。
デレクのスリーピースの黒いスーツと灰色の髪が乱れている。
「デレク・オブ・アックスオッターであろう」
ベアトリクス様がデレクに問いかける。
「わかっているなら縄を解け!」
デレクは正直に自分が誰かを認めた。
ヘルムをつけたままのベアトリクス様が誰かわからないのはわかるが、今がどのような状況なのかはわかりそうなもの。いまだに騒ぎ立てられるのはすごいな。
「王都からわざわざ其方を捕まえに来たのだ、逃すわけがなかろう?」
「なんの権限があって私を捕まえる」
「妾はベアトリクス・オブ・スカーレットドラゴン。第三王女にして第二騎士団副団長、権限は十分にある」
ベアトリクス様がヘルムを取る。
黒い角に、緋色の髪があらわになる。
「第三王女」
初めてデレクが叫ぶのをやめる。
「デレク・オブ・アックスオッター、其方にはアイザック・オブ・アックスオッターの殺害を指示したな」
「それがどうした」
はぐらかすかと思っていたが、認めた。
「素直に殺害の指示を認めるか」
「錬金術師を殺したところで何が悪い」
「何が悪い? 錬金術師であろうとなんであろうと、人を殺していいわけがあるまい」
ベアトリクス様の言葉にデレクがあざけるように笑う。
「貴族の私が平民を殺したところでなんだというのだ」
「そもそも勘違いをしているな。アイザックは第二騎士団所属の竜騎士であり、平民ではない」
「は?」
デレクが口を開けて固まる。
「スカーレットドラゴン王国の守護者である竜騎士の命を狙いただで済むと思うな」
「嘘をつくな。アイザックは錬金術師で騎士ではない」
「アイザックは騎士であり、錬金術師でもある」
ベアトリクス様が俺を見る。
「アイザック」
「はい」
ヘルムを取る。
「アイザック! なぜ生きている!」
なぜ生きている。なんとも悲しい響きの言葉だ。
俺が目の前に現れても、デレクは俺を殺そうとしたのを隠そうともしない。
「以前のように毒を盛られているわけでもない。あの程度の襲撃であれば切り抜けられる」
「無能な平民どもめ」
デレクが俺を睨みつける。
「無能はデレクであろう」
デレクに返事をしたのは俺ではなくベアトリクス様。
「なんだと?」
無能と言われて怒ったのか、デレクの顔が真っ赤に染まる。
「真面目に鍛えていれば、アイザック相手に銃で襲撃など考えはしなかった」
「私が鍛えてなんの意味がある」
「少なくとも銃で襲う意味がないのはわかった」
警察が手に持っているライフル銃。
俺を襲った者たちが持っていた銃と見た目が同じ。以前にテラパワーで作っていたライフル銃を劣化させた性能しかなかった銃だ。
襲撃者と同じ銃を使うとは隠す気が一切ないな。
「銃で襲う意味がない?」
「先ほど銃を撃ってみにしみたのではないか?」
「化け物どもめ」
銃弾の効かぬ化け物と戦うのが騎士の役目、多少強い程度ではモンスターと戦えない。
デレクが騎士の強さを見誤ったのは、学園で教わるモンスターの強さを真面目に聞いていなかったのだろう。
真面目に聞いていれば騎士がどれほど鍛えているかわかっていたはず。
「なぜ、アイザックを殺害しようとした」
「私がアックスオッターを治めるのを王家が認めさえすれば、殺害を依頼する必要はなかった。全ての責任は王家にある」
デレクが悪いというのに責任転嫁がひどい。
しかし、俺の命が狙われた理由はデレクが爵位を継げなかったからか……。
爵位を継げなかった理由はデレクが学園から退学勧告を受けたためで、俺にはなんの関係もない。しかも俺はデレクに毒を盛られた結果とはいえ家督を破棄している。俺の命を狙うのは意味がわからない。
「真面目に鍛えて学園を卒業すれば認めた可能性はある」
「私が鍛える必要などない」
「鍛える気がない状態では、伯爵を継ぐのは無理だとしか言えない」
「私は伯爵だ」
「いいや、伯爵ではない」
デレクは立ちあがろうとするが、周囲の騎士が椅子に押さえつける。それでもデレクは体を捻って抜け出そうとするが、騎士の力が強いのか動けてすらいない。
家督の放棄を迫られた時から分かっていたが、伯爵という爵位に対する妙なこだわりがあるようだ。それほどいいものだとは思えないのだがな。
しかし、デレクは学園の除名嘆願書に書かれていたが、本当に身体能力が低いな。一般人でももう少し力が強いのではないだろうか。
「国を発展させられぬ無能どもめ!」
十分にスカーレットドラゴン王国は発展していると思うのだが、デレクには満足できていないようだ。
「其方は国を発展させる以前に国を守れない」
「私が国を守る必要などどこにある」
「ダンジョンをどうするつもりだ?」
「ダンジョンは国を発展させるため、魔石を生み出す場所ではないか」
デレクは随分とひどいダンジョン軽視な上に、目先の利益に囚われている。
魔石は命懸けで行うダンジョン討伐の副産物であり、利益として考えるのは間違っている。あまりにも現実が見えていない。
「ダンジョンが深層に達すれば発展させた街が消え去るとしても、魔石を生み出す場所だと言うか?」
「王家ですら新しい知識を得ようとしないのか」
「知識とは?」
「バンブータイガー共和国よりもたらされた、ダンジョンの管理方法を使えばいい」
ダンジョンの管理と聞いて俺は固まる。
ベアトリクス様がデレクに近寄り、胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「ダンジョンを管理するだと!? まさかダンジョンの核を使っていないだろうな!」
「やはり王家はダンジョンの管理方法を知っていたか。王家が魔石の流通を握っていたのは、ダンジョンを管理していたからだな」
「そんなわけがあろうものか!」
ベアトリクス様が大声で否定する。
デレクの言葉からダンジョンの核をダンジョンに使っているのがわかる。
核を与えたダンジョンは禁止区域に指定される名前付きのダンジョンになると最近聞いたばかり。
血の気が引く。最悪としか言いようがない。
このままではダンジョンよりモンスターが溢れ、アックスオッターが消える。
「ダンジョンにどれだけの核を使った!」
「なぜ言う必要がある」
「言わねばこの場で叩き切る」
ベアトリクス様の言葉は嘘ではないとわかるほど殺気を放っている。
デレクは殺気に当てられたのか顔を青くしている。
「20」
デレクが苦しそうに呟く。
ベアトリクス様がデレクの胸ぐらを離す。
「一年という短期間で20も核を使っただと!?」
「ダンジョンに核を与えるほどモンスターのコアが増える。魔石を増やすためにはダンジョンに核を与える必要がある」
「コアが増えたモンスターは強くなる!」
大爆発を起こすモンスターのコアは、どう考えてもモンスターのエネルギーとなっている。コアが増えればモンスターが強くなるのは当然。
「ろくに動かぬモンスターが強いわけがない」
「ダンジョンでモンスターを一度も倒していないのに何がわかる」
「銃さえあればなんとでもなる」
「ではやってもらおうか」
「私は戦わない」
「いや、やってもらう。其方がしでかしたことの重大さを理解してもらう」
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