第43話 襲撃を指示したのは誰か
俺が竜騎士であると名乗り、破れた騎士の制服についた階級章を示すと警察は警戒をすぐに解いた。
俺もまた本物の警察であるのを確認して、敵でないのがわかると緊張を解く。
お互いに緊張が解ける。
騎士団と警察は別の組織ではあるが、付き合いが全くないわけではない。
騎士団はダンジョンに特化した治安を維持する組織で、警察は街の治安を維持する組織。どちらも治安を維持するという意味では同じ。
警察に襲撃者と銃を渡す。
襲撃者が警察の車両に積み込まれていく。
「事情聴取をお願いしたいのですが」
警察が申し訳なさそうにお願いをしてくる。
俺は騎士という身分ではあるが、銃弾がばら撒かれた状況で話もせずに解放はされないか。
「所属の騎士団に連絡を入れるのを許していただけるのであれば構いません」
「こちらから連絡を入れるのでよければ」
「警察からで構いません」
むしろ手間が減って助かる。
警察から状況を聞かれる。
「——事情聴取は以上です。ご協力ありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
事情聴取はされたがしばらく巡回を増やしてもらうのに成功する。しかも事情聴取の時間は想像よりも随分と短かった。襲撃者の身元に心当たりはなく、襲撃されるような心当たりも一つしかない。意外に話す内容がなかった。
後の処理は警察に任せる。
この後どうするか。
騎士団に行ってから王宮に行くか、王宮に直接いくか迷う。
連絡入れてもらったが、何の報告もなしに王宮に行くのはまずいか。
「ライナス、俺は騎士団に向かう」
ライナスも事情聴取されていたが、すでに自由になっている。
「私は家の警備を雇い、テラパワーの社員に警戒を促します」
「家の警備がいるか」
「はい」
俺とライナスはいいが、使用人は戦えない。
警察が巡回してくれるが、ずっと家の前にいるわけではない。テラパワーには社屋を警備する者がいるが、家には雇っていない。
「では別々に移動しよう」
「心得ました」
車は二台ある。
普段は一台しか使っていないが、師匠が常に整備して走る状態を維持している。
車に乗り込もうとするとライナスに止められる。
「アイク様、移動の前にお着替えをなさってください」
そういえば獣化したままで、完全に忘れていた。
一度家の中に戻り、獣化を解く。服を脱ぐと、尻尾の周りから完全に壊れてしまっている。
予備の制服に着替え、屋敷を出る。
自らがハンドルを握り、車を運転する。
師匠に運転させるわけにはいかない。師匠は銃の開発に携わったのもあり一般人よりは闘い慣れているが、俺やライナスほど強いわけではない。
第二騎士団が所有する訓練場に普段より随分と遅れてたどり着く。
車を止め、訓練場の中を早足に移動する。
同僚たちが訓練場に集まっている。
集まっている同僚の中からクロエとパーシーが近づいてくる。
「アイク、襲撃されたと聞いたけれど?」
警察の連絡は騎士団の訓練場にまで届いていたようだ。
「ああ、銃で武装した者たちに襲われた」
「トリスに相談しましょう」
「この後王宮に向かう予定だった」
「早速行きましょう」
クロエもついてくる気のようだ。
俺との付き合いを考えると、狙われる可能性は否定できない。
俺が訓練をまとめる先輩の騎士を見る。
「自分が判断できる問題ではない。副団長に判断を仰げ」
クロエとパーシーを連れて再び車に乗る。
王都郊外にある騎士団の訓練場から王都の中心地にある王宮へ向かう。
俺の車にクロエとパーシーが乗る。
「アイク、怪我は?」
「俺も家のものも一切怪我を負っていない」
「よく無事だったわね」
「運が良かった」
家を出た瞬間に違和感があって周囲を見回したのが良かった。
今更考えるとあの違和感は何だったのかと思う。最初の襲撃者は素人であったため、動きが変だったのだろうか? 道路を挟んでいるとはいえ、真正面に立っていたからな。
クロエとパーシーと会話をしながらも車を飛ばして王宮に着く。
王宮に着くと急ぎベアトリクス様の部屋へ向かう。
あまりに急いでいたため、ベアトリクス様が王宮にいるか確認を忘れた。部屋にいるといいのだが。
部屋の扉をノックする。
「ベアトリクス様、おられますか?」
「アイザックか。入ってかまわない」
良かった。ベアトリクス様は部屋にいた。
「襲われたらしいな」
部屋に入ると早速ベアトリクス様が本題に入った。
「はい。家を出る前に襲撃されました」
「竜騎士を襲うなど舐められたものだ」
ベアトリクス様が片眉をあげ、普段と違う緊張感が漂う。
静かに怒っているのを感じる。
「襲撃者の身柄は警察に預けましたが、襲撃を依頼した人物は別にいると思われます」
「そうか。騎士団とテラパワーを行き来するだけのアイザックが狙われる理由は、アックスオッター関連かテラパワーだけであろうな」
いまだに身辺を探られていたようだ。
隠さねばならない趣味はないので問題ないが、自分がまだ身辺調査されていたのには驚く。第二騎士団に入った時点で問題ないと判断され、身辺調査は終わっていると思っていた。
「テラパワーの主要取引先は貴族と騎士団であるため、他の会社から狙われる可能性は低いと思っております」
テラパワーは銃器を取り扱ってはいるが、今までにない形であり市場を食い合うものではない。それはトレーニング器具や、まだ市場に出していない四輪駆動の車も同じ。
新規事業であるため、恨まれるような相手がいない。
「ベアトリクス様、襲撃者は自分を騎士だと知らず、錬金術師を狙ったと襲撃者の一人が話しました」
「ほう。騎士ではなく、錬金術師か」
「はい」
ベアトリクス様が斜め上を見上げ、顎に手を添える。
「デレク・オブ・アックスオッターの可能性が高いか」
「絶対ではありませんが兄のデレクが指示をしたのではないかと考えております」
ベアトリクス様も同様の考えに至ったようだ。
「警察副長官を呼んできてくれ」
ベアトリクス様が従者に指示を出す。
すぐに従者が老齢の男性を連れて部屋に入ってくる。
老齢の男性は警察副長官と名乗り、挨拶もそこそこにベアトリクス様と話し始める。
「ベアトリクス副団長殿、どのようなご用件でしょうか?」
「デレク・オブ・アックスオッターが竜騎士を襲撃した疑惑がある。デレクを召喚し、直ちに捜査を開始してほしい」
竜騎士を襲撃したとベアトリクス様が言った瞬間、副長官の体がこわばったのがわかった。
「承知しました」
老齢の男性は一礼すると、背筋を伸ばして部屋を出ていく。
「デレクについては一先ずこれで良い」
ベアトリクス様が棚から一つの封筒を取り出す。
「近いうちにアイザックにデレクについて話そうと思っていたが、遅かったか」
「自分にですか?」
デレクに何かあったのか。
父と兄を殺した確証を得たのであれば王家はすぐにでも動く。俺に話す余裕があるのなら、重要性はそこまで高くない話か?
「学園からデレク・オブ・アックスオッターは除名すべきだと嘆願されている」
除名……?
学園で除名という言葉は初めて聞く。予想するに退学に近いのだと思うが……。
「退学ではないのですか?」
「退学勧告はすでにされている。退学勧告に同意しない状態で、教師からの心証が悪い場合、王宮を通して除名が審議される」
ベアトリクス様が封筒を差し出してくる。
中身を見ろと言っているようだ。
封の開けられた封筒から書類を取り出す。中に入っていたのはデレクに対する除名嘆願書。入学してからそう立っていないであろう時期だが、書類が分厚い。
書類を読んでいく。
ブックマーク、評価がありましたらお願いします。




