第42話 襲撃
早朝、慌ただしく家を出るため玄関へと向かう。
「ライナス、騎士団の訓練が終わり次第テラパワーに向かう」
「お待ちしております」
ライナスと今日の予定を確認しながら、玄関の扉をくぐる。
家を出た瞬間、違和感を感じ立ち止まる。
「どうされました?」
「…………」
自分の感じた違和感に周囲を見回すように視線を移動させる。
家の前には馬車がすれ違っても余裕のある石畳の道路があり、四階から五階建てのレンガ作りのビルが立ち並ぶ。
道の反対側、銃を持った男が俺を狙っている。
即座に身体強化を発動する。
「襲撃だ!」
俺の叫びと同時に発砲音。
弾丸が俺に向かって飛んでくる。
飛んできた弾丸を掴み取る。
「こんな小さな弾薬で騎士がどうにかなると思うなよ」
二発目の発射が遅い。
銃の連射速度が随分と遅い。正規品ではなく、模造品でも使っているのか? 何にせよ、こちらとしては都合がいい。
ようやく発射された二発目の弾丸も回収してから、銃を発砲した男に近づく。
通りの反対側に一瞬で移動して、銃を捨てて逃げようとする男を取り押さえる。
「ばけもんかよ」
「騎士に銃が効くわけないだろう」
「騎士!? 依頼とちげえ!」
随分と口が軽いな。
本物の殺し屋ではなく素人か?
服装はつぎはぎだらけのズボンによれたシャツ。食い詰めたスラムの住人といった風貌。俺が住んでいる場所は立地がよく金持ちが集まっている場所で、男の服装は完全に浮いている。
「俺は何者だと言われた?」
「錬金術師だよ! クソ!」
錬金術師。
俺はテラパワーの共同代表になっているため、会社の代表ならまだわかる。しかし、会社の代表ではなく、錬金術師。
デレクか? 最悪だ。
「逃げようとするなよ。騎士相手に襲撃したんだ、殺されても文句は言えない」
「これまでかよ」
襲撃者は顔色を真っ白にしている。
「依頼者を証言すれば助かる可能性はある。何かしらの刑罰は避けられないがな」
「嘘を教えた依頼者を教えて刑罰が軽くなるなら何でもしゃべる」
「助かりたければ喋るといい」
デレクが襲撃したのか知りたくて、喋るようにそそのかしておく。
実際喋れば男の罪は多少軽くなるだろう。狙われた俺としては刑が軽くなるのは嬉しくないが、依頼者について知りたい。
しかし、下調べすらろくにしない間抜けな男で助かった。
相手が騎士だと知っている場合、もっと用意周到に準備していたはず。身体強化が間に合わず、即死するような場所に銃弾が当たっていれば最悪死んでいた。
今更ながらに冷や汗が出てくる。
「アイク様」
「ライナス、皆は?」
「全員を屋敷に下がらせました。怪我人はいません」
「良かった」
騎士の俺と従者のライナスはどうにかなる。
他の皆は一般的な身体強化しかできず、毒や銃弾を受ければ致命傷になり得る。襲撃を受けた場合、直ちに逃げるように伝えてあった。
「アイク様、取り押さえるのを代わります」
「頼む」
ライナスと襲撃者を取り押さえるのを代わり、周囲を警戒する。
襲撃者は一人とは限らない。
近づこうとする不審者がいないか注意深く観察する。
遠巻きに逃げる人はいるが、銃などの武器を構える人はいない。建物の中からこちらを覗いている人もいるが、一般人なのか襲撃者の仲間なのかは区別がつかない。
俺の住所を突き止めたのだ、何かしら見張りはおいていそうだ。
引っ越しをして1年も経っていないのだが、また引っ越しになりそうだ。しかも次は引っ越し先を知られないように引っ越す必要がある。前回より難易度が高すぎるな。
「今の家、結構気に入っていたのだがな」
「アイク様は大きな屋敷が苦手ですね」
「今でも十分に大きくないか? 無駄に部屋が余っているのが落ち着かない」
ライナスと話しながら周囲を警戒していると、銃を持った男たちが大量に現れ始めた。
「襲撃者君、良かったな仲間が来たぞ」
「仲間なんていねえ!」
銃を持った男たちを見ると最初の襲撃者と違って服がきれい。
確かに仲間ではなさそうだな。となると最初の襲撃は囮か。随分と出てくるのが遅いのは、俺が囮を制圧するのが早すぎたからか?
「アイク様、獣化をなさってください」
「騎士の服が破れてしまうな」
「服くらい買い直します」
高い服なのだが仕方ない。
魔力を血のように循環させて姿を変える。
ボタンが飛んで服が破れていく。
「ライナス、捕まえた男を殺さないようにしろ」
「はい。私は男と家を守っております」
鍛えている俺やライナスは襲われても問題ないが、家の中にいる使用人は違う。
「頼んだ」
再び家に最も近い路地から出てきた男に飛び掛かる。
獣化してさらに身体強化をしている状態での移動は一瞬。相手は急に目の前に俺が現れたように見えただろう。
殺さぬように鳩尾を軽く殴る。
「ぐは」
銃を手放し吹き飛んでいく。
撫でるように殴ったのだが、思いっきり吹き飛んで家の壁にぶつかる。
「手加減難しいな」
手加減を失敗すれば相手は死ぬ。
俺を襲撃してきた相手に手加減する必要があるのは何とも言えない。しかし、手加減しなければ相手は即死する。人を殺したくはないのだよな……。
頭部を殴れば即死してしまいそうだな。
「全力で身体強化をしろ。そうすれば死なないかもしれない」
襲撃者たちが顔を引き攣らせる。
銃口がこちらを向き、弾丸が打ち出される。
弾丸は獣化した上に身体強化した俺の皮膚を貫通するはずもなく、小石が当たったかのような感覚を残していく。
「銃は意味ない。しっかり身体強化しろ」
なぜ俺は襲撃者に助言しているのだろうか?
だんだん面倒になってきて、襲撃者たちの腹部を次々に殴っていく。
騎士を集団で襲撃したのだ、覚悟は決まっているだろう。いや、先ほどの襲撃者は俺が騎士だと知らなかったか……。まあ、いいか。
逃げようとする最後の襲撃者を捕まえる。
「や、やめ!」
腹部を殴って気絶させる。
仲間外れは良くない。それに捕まえておくのが面倒だ。
起きても逃げられないように、家の前に襲撃者を集める。
俺の自宅前に大量の襲撃者が山積みになった。
周囲の建物から覗き見られているのがわかる。窓越しに目が合うとすごい勢いで逸らされ、カーテンが閉められる。
おかしい、襲われたのは俺のはずなのに、恐れられているのは俺ではないか?
「理不尽だ」
「何が理不尽なのですか?」
ライナスが家から出てきた。
「襲われたのは俺なのに、襲ったのが俺のように見られている」
ライナスと話しながら、窓越しにのぞいている人と視線を合わせる。
先ほどと同じようにすごい勢いで目を逸らされ、カーテンが勢いよく閉められる。
ライナスがため息をつく。
「今後の近所付き合いが大変そうです」
「やはり引っ越しか?」
「そうですね」
次の家が見つかるまでいづらいな……。
俺が家について考えていると、ライナスが集めた襲撃者たちの懐を探り始めた。
着ているスーツが赤や青のストライプで、派手な柄が多い。
「スーツが派手だな」
「ギャングかマフィアでしょうか?」
「人を襲撃する依頼をギルドが受けるとは思わない。そこらだろうな」
裏社会に銃が出回っているのだな。
銃も集めて自宅前の道路に山積みにする。
自宅前の通りは普段多くの人や車が通るのだが、今は人や車が一切通らなくなっている。
いい加減、警察が来ないかと道路を見ると遠目にゆっくりと大型車が近づいてくるのが見える。車の後ろに隠れるように人が見える。
隠れている人が警察の制服を着ている。
さらなる襲撃ではなさそう。
「ライナス、警察だと思われる車が近づいてきている」
「注意はしておきましょう」
「ああ」
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