第41話 退学勧告 side デレク
何を考えているのか、背負う重りは重量が増やされ続け、今では10キロを超えた。一体どこまで増やすつもりなのか。
いまだに一時間しか教えていない授業はダンジョンの話だけ。学園は何がしたいのかと呆れるしかない。王都にいる意味を感じない。
「今日は走る前に武器を振る!」
銃の発達した状況でいまだに剣や斧という野蛮な武器に頼るのは理解し難いが、走るよりはまだ楽か。
少しはまともになったか。
「岩に向けて武器を振れ! 身体強化を使い、岩を切る!」
耳を疑う。
岩を切る?
前言撤回する。まともになっていない、狂ったか。
「ダンジョンのモンスターは岩と同等の硬さを持つ。岩程度切れぬと一体もモンスターを倒せずに死ぬ」
モンスターが岩と同等? そんなわけがないだろう、普段食べている肉は岩ほど硬くはない。
ダンジョンが憎いのは授業を聞けばわかるが、力を入れすぎだ。
「手本を見せる」
教師が高さが1メートルはありそうな岩に向けて剣を振る。
適当に振ったように見えた剣が岩を通り抜ける。すぐに岩が二つに別れ、左右に分かれて倒れていく。
本当に岩を切った。
どこまでダンジョンを憎んでいる? 狂っているな。
「最初から岩を切れるわけではない。しかし、2年目になる頃には皆が切れるようになっている」
岩を切れるわけがないだろう。
しかし、私以外の生徒はそうは思わなかったようで、教師の指示通りに岩へと武器を振り始めた。
「はあ……」
小さくため息をついて、武器を振る。
真面目に振ってはいないが、手を保護するように身体強化は使っている。
手を痛めてしまうとペンを握れず仕事ができなくなる。
怪我のないように努める。
学園を今すぐ辞めたいが、卒業しなければ貴族として認められない。
領地を繁栄させるのに学園が何の役に立つというのか。
学園だけではなく、王宮を含めた国に対して苛立ちが増えていく。
スカーレットドラゴン王国は狂っている。
学園のくだらない授業を終え、帰ろうとしたところで教師に呼び止められる。
「デレク、少し話をしたい」
「分かりました」
ようやく学園を短期で卒業する許可が出たか?
教師が案内する部屋へと入る。
物の少ない小汚い部屋。伯爵の私を相手するに相応しいとはいえない。
「デレク、このまま2年に進めば君は死ぬ。退学を進める」
「退学?」
は?
卒業でなく退学?
「そうだ。態度の改善を期待していたが、一向に態度が改善しない。むしろ悪化している。やる気がないのであれば自主的に退学すべきだ」
「退学では貴族として認められません」
「実力を抜きにしても、デレクの態度ではスカーレットドラゴン王国を守る貴族として認められん。死にたくないのであれば早々に学園を去るべきだ」
勝手な言い分を述べる教師に苛立ちを覚える。
拳を強く握り込む。
「私が学園を辞めればアックスオッターは断絶します。誰がアックスオッターを統治するというのですか」
「ダンジョンから国を守るため断絶する貴族家は時折発生する。領地を治める貴族は改めて王家が選定する」
「伯爵である私がいるのに代わりを用意する!?」
「学園を卒業していないデレクは伯爵ではない。伯爵とは学園を卒業した上で王家に認められたものが名乗れる爵位である」
「なっ」
教師を睨みつける。
「私を睨んだところで何も変わらん」
私の睨みを何とも思っていないのか教師は無表情。
「私はすでにアックスオッターを治めている」
「アックスオッター伯爵が死後、領地を取り上げられていないのは王家の温情でしかない。勘違いするな」
「私は伯爵だ!」
怒りに全身が震える。
教師が眉を寄せ、目を細める。
「…………デレク、自主的に退学できないのであれば、態度を直し真面目に授業を受けろ。態度が改善しないのであれば学園から除名処分を通達する。このままであれば死ぬ。今後の進路を含め、よく考えておくように」
教師は話すだけ話すと部屋を後にする。
私が伯爵ではない? 領地を取り上げられていないのは王家の温情?
「ふざけるな! 私が伯爵だ! クソがっ」
怒りと苛立ちを抑え込めず、思いっきり学園の壁を殴る。
激情の中、タウンハウスに帰る。
書斎に入るとアックスオッターからの報告がなされる。今日はいつも定めている日々の作業が煩わしい。
「また騎士が辞めた?」
騎士が伯爵である私に挨拶すらなく辞めた?
苛立ちを増幅させるような報告に怒りの感情が湧いてくる。
「はい。ダンジョンの運用方法に不満があったようです」
まただ。
騎士が辞めたのは一人目ではない。前回も私にあいさつもなく辞め、姿をくらました。
私の命令を聞けないと勝手に辞めていく。
学園から続く苛立ちにより、騎士を殺せと言いかけたところで踏みとどまる。
「命令の聞けない、古い考えの騎士などいらない。出ていくのなら好きにさせろ」
むしろ殺すのは他にいる。
王家が私を伯爵から下すというのであれば、次に伯爵になりそうなものを殺す。それでも私を伯爵だと認めないのであれば領地を独立させる。
私からアックスオッターを奪うというのならば、覚悟してもらおう。
私は王族すら手にかけるぞ。
やると決めれば徹底的にやる。
まず殺すべきは……継承権を破棄したとはいえ、一番爵位に近いのはアイザックか。
家督の破棄を迫った時点で学園に2年間行っていた。どのような成績だったのかは知らないが、一年以上学園に馴染んでいる。卒業できるだけの成績があった可能性が高い。
「辞めた騎士よりも、アイザックの居場所はわかったか?」
「申し訳ありません。錬金術師を営んでいる者を中心に探しておりますが、見つかっておりません」
見つかっていない?
王都で小規模な錬金術師を営んでいる店を中心に調べさせたが、アイザックは王都から出て行ったか?
ならば国中を探すのみ。
「国中を探し出してアイザックを始末しろ」
「承知しました」
使用人が頭を下げる。
私より継承権の低い親戚も全て殺す。
次々に殺すべき人物を使用人に伝えていく。
「徹底的にやれ。スカーレットドラゴン王国にアックスオッターの恐怖を刻み込め」
「はっ」
恐怖で支配するのであれば正規の方法は不要。
「明日以降学園に行くのをやめる」
「承知しました」
祖父が用意してくれた優秀な使用人は私の指示通りに動く。
使用人の従順な様子が私を満足させてくれる。
学園からずっとあった苛立ちを慰めてくれる。
「報告の続きを」
「はい。実験中のダンジョンから魔石の産出量が増えました」
使用人は嬉しい報告を告げる。
「ほう。バンブータイガー共和国で研究されている最先端の技術は素晴らしい。ダンジョンを管理できるとはな」
「はい。現在普通のダンジョンから取れる魔石の3倍近い量が採取されているようです」
「素晴らしい」
魔石は金になり私の力となる。
しかもダンジョンを管理するのに必要な素材は、利用価値のないと言われていたダンジョンの核。ゴミをダンジョンに与えるだけで、モンスターから取れる魔石の量は数倍になる。しかもモンスター自体が温厚になり弱体化する。
ダンジョンを討伐するとしか言わない学園は新しい技術を取り入れようともしない。
「研究者たちがダンジョンの核を追加で与える許可を申し出ています」
「ダンジョンの核はまだ屋敷にあった。好きなだけ持っていくよう伝えろ」
「承りました」
元はゴミ。足りなくなれば買い取ればいい。
今から買い占めておくべきか。
「ダンジョンの核を買い取れ」
「承知いたしました」
核は魔石になり巨万の富を私にもたらす。
富でアックスオッターが王都を超える都市になれば、誰も逆らうものはいない。
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