第40話 ダンジョンの核
騎士団に行くと、ベアトリクス様から呼び出しを受ける。
山の上にあったダンジョンの討伐後、数日休日が与えられていたがテラパワーで仕事をしていた。体力が余っているのもいいものだ。
王宮のベアトリクス様の部屋へと、パーシーとクロエを連れて向かう。
「3人とも座って楽にしてくれ」
「はい」
部屋の片隅に追いやられた来客用のソファーに座る。
「大変なダンジョン探索であったが体調は?」
「問題ありません」
「それは良かった。新人騎士を連れていくには過酷なダンジョンだったので心配していた」
「自分は獣化で力と体力が有り余っていますので、一般的な新人とは言えません……」
俺に比べればまだ一般的なパーシーを見る。
パーシーが俺の視線の意味を察したのか口をひらく。
「疲れは残っていますが、次のダンジョン討伐までに十分取れる範囲です」
「そうか、疲れが残っているか……しばらく訓練を少し軽くするよう指示しておく。パーシヴァルも無理はしないようにせよ」
「了解しました」
やはり俺は一般的な範囲ではなかったようだ。
俺基準で新人騎士の訓練が調整されなくて良かった。
「3人は随分とダンジョンボスの討伐で活躍していた。白竜勲章を贈るには功績が足りないが、白竜に近づいたのを伝えておく」
「白竜勲章……」
黒竜がユニークモンスターの討伐により送られるように、白竜は中層ダンジョンのボスを討伐した時に送られる。
ユニークモンスターが出現する確率はそこまで高くないため、一般的には白竜勲章を持った竜騎士が多い。
俺たちのように白竜勲章を持たずに、黒竜勲章を持った騎士は珍しい。
「ベアトリクス様、自分は黒竜勲章をいただいたばかりですが」
「白竜の場合は一体のダンジョンボスを討伐しただけでは授与されない。数年功績を貯める必要がある」
「数年」
想像以上に授与まで時間がかかる。
「そう数年かかる。中層に現れるボスは弱い場合がある。弱いボスを偶然倒した状態で竜騎士に命じてしまうと死にかねないのでな」
「竜騎士は深層ダンジョンに行く可能性が高いからですか」
「その通り。竜騎士に命じられたアイザックもできれば行きたくないのではないか?」
ベアトリクス様に心を読まれている。
そもそもダンジョンに行きたくないのを考慮しないとしても、深層に行くのはもう少し後にしたい。
「おっしゃる通りです。今の自分は獣化した能力を使いこなせていません、もう少し修練を積みたいと思っています」
「妾もアイザックの状況は理解している。よほどの事態が起きねば深層につれていく気はない」
「ありがとうございます」
よほどの事態が怖いが、強者の揃っている騎士団。そうそうよほどの事態など起きないだろう……起きないよな?
無駄に心配しているとベアトリクス様と視線が合う、まだ話は続いていたようだ。
「アイザック、国からテラパワーへの依頼ある」
「テラパワーへの依頼でしたらライナスを連れてくるべきでしたか」
「いや、喫緊な依頼ではない」
ベアトリクス様が二つの箱を机に乗せた。
「片方はミノタウロスから取り出したダンジョンの核。もう一つがユニークモンスターから取り出した核」
箱の中には拳よりも少し小さい球が入っている。
ダンジョンの核は無色の球の中に輝く何かが舞っている。ユニークモンスターから取り出した核は質の悪いガラスのように気泡と歪みが見える。
どちらも使い道のない困った存在。
「この二つ核がどうされましたか?」
「テラパワーで研究してほしい」
「ベアトリクス様はダンジョンの核とユニークモンスターの核に使い道がないのはご存知ですか?」
ダンジョンの核は飾ればきれい程度にはまだ意味があるが、ユニークモンスターの核は見た目も悪く価値がつけられない。
二つの核は水晶かガラスのように見えるが、ガラスでもない上に壊すのがとても大変。モンスターのコアと違って爆発しないのだけが良い点だろうか。
「無論知っている。それゆえに研究を頼む。何、短期間での成果は期待していない。長期的な依頼だと思ってくれれば良い」
モンスターのコアと同じように錬金術で使えるように変えて欲しいのか。モンスターのコアに比べれば産出する数は少ないが、スカーレットドラゴン王国のダンジョン討伐数を考えると何かしら利用方法が欲しくなるか。
「歴代の錬金術師が悩んだ品です。長期間としても成果が出るとは限りませんが、よろしいでしょうか?」
「構わない。核の利用法を探すよう依頼しているのはテラパワーだけではない。気負う必要はない」
研究を依頼されているのはテラパワーだけではないか。期待されていないというわけではなく、ダンジョンの核とユニークモンスターの核を研究するのは難しいと考えているからだろう。
使い道のない核は錬金術師として取り扱ってみたい素材ではある。
「研究依頼をお受けします」
「感謝する。核はテラパワーで保管して構わない」
「はい」
核の入った箱が蓋をされ、鞄に入れられて渡される。
そう簡単に壊れないため、気を使わなくていいのは楽である。
「ダンジョンの核は流出しないよう注意してほしい」
「ダンジョンの核ですか?」
ダンジョンの核は中層と低層に違いはなく、同じものだと聞いている。中層以降にしか現れないユニークモンスターは年間でもそう倒されていないと予想される。
数が多く余っているであろうダンジョンの核を流出させないようにと注意されるのは違和感がある。
「ダンジョンの核には悪用方法がある」
「悪用? 何かに使えるのですか?」
ベアトリクス様は悪用というが、悪用でも使い道があると初めて聞いた。
破棄するしかないと今まで教わってきた。
「ダンジョンに核を与えるとダンジョンが成長する」
ダンジョンが成長!?
まさに悪用……。
顔が引き攣る。
「試したのですか?」
「数百年以上前にな。試した結果残ったのが、深層を超える名前付きのダンジョン」
名前付きのダンジョンとは昔からあるが討伐できず、周囲を立入禁止区域に指定して人が立ち入らないようにしたダンジョン。
深層を超えるダンジョンは人工的に発生させたのか。
負の遺産だな……。
「名前付きのダンジョンは一つだけではありません。何度も試したのですか?」
「ああ。ダンジョンの核を使うと、最初だけはダンジョンを管理しやすくなる」
「管理ですか」
「そう、管理だ。ダンジョンを討伐するのではなく、管理しても意味はない」
そもそも最後には名前付きの深層を超えるダンジョンができる。
意味がないどころの話ではないな。
「アイザック、ダンジョンの核については他言無用、知ると試してみたくなる者が意外に多い」
「了解しました」
世の中には倫理観が壊れていて、興味本位でやろうとする者がいそうだ。
テラパワーでもダンジョンの核は管理を厳重にするよう伝えておかねばならないな。
錬金術で扱う素材にはモンスターのコアのように爆発するような危険物が多い、テラパワーなら事前に伝えておけば管理に関してはそう心配はいらない。
「ダンジョンの核とは違い、ユニークモンスターの核については悪用方法がない。必要であれば追加分を用意できる」
「了解しました」
取り扱いを厳重にしなくて良いのは楽だ。
取り扱いの楽さから、研究はユニークモンスターの核を中心になりそうだ。
「どちらも核を壊してしまった場合は連絡が欲しい」
「指示しておきます」
「活用方法ではないが、簡単に壊せるような方法が見つかった場合も研究成果に加える。報告せよ」
「了解しました」
忘れぬように指示を書き留めておく。
「呼び出してすまなかったな。話は以上となる」
「失礼いたします」
ベアトリクス様の部屋を退出する。
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