第38話 山で野営
ダンジョン内に残ったモンスターを倒しながら地上に出る。
外は真っ赤な空。もうすぐ日が暮れそうな時間。
「野営のため設営せよ」
ダンジョンは討伐したが野営する。
討伐後に野営するのは学園のダンジョン実習にはなかった。学園の生徒が帰った後はギルドがダンジョンの崩壊を待ち、モンスターが残っているかを確認していたためだ。
ダンジョンの核を破壊後に全体を探し回っているため、ダンジョン崩壊の際に出てくるモンスターはいても数体。
ギルド員でも低層のモンスター数体ならば袋叩きにして倒せる。しかし、中層のモンスターになってくると話が違う。中層のモンスターはギルド員が袋叩きにしても倒せない。
中層以降は騎士がダンジョンの崩壊を待ち、モンスターが残っているかを確認せねばならない。
「しかし、木が生えないほど標高の高い山で野営するとは思っていなかったな」
「山の上にダンジョンできる場合もあるけど、もう少し低い場所だよね」
木がないため、風が直接あたり張ろうとしているテントがはためいて音を立てる。
普段よりテントを張るのが大変で、パーシー、クロエに従者を含めてテントを張る。
「山の上での設営は大変だな」
「いつもとは勝手が違うね」
力は有り余っているのだが、今の俺だと力を入れすぎるとテントが破れる。力を入れ過ぎないというのは難しい。
苦戦しながらも二つのテントを張り終える。
「食事をもらってきましょう」
「ああ、そうしようか」
クロエに誘われ皆で食事を取りに行く。
食事は新鮮なモンスター肉を使った肉料理。ダンジョン討伐では毎回肉料理であるため慣れたもの。
平たく焼いたパンに煮込まれた肉をもらってテントに戻る。
今日はオークとミノタウロスが出たため、どちらかの肉を使っているかもしれない。オークとミノタウロスを言い換え、豚肉と牛肉だと考えると美味しそうに思えるのは何故だろうか。
いや、さすがに先ほど倒したばかりのモンスターを解体はしていないか。
「いつもとそう変わらない料理でも山の上で食べると美味しい気がする」
「鎧下を着ていれば寒くはないけれど、温まる気分だね」
「そうだな」
煮込まれた肉を食べながらパーシーの言葉に頷く。
鎧下にはモンスターから採取できる温度を調整してくれる素材が使われており、金属製の甲冑を着ていられない状況でも活動するのに問題ない体温を維持できる。
今いる山の上も本来なら甲冑を着ていたら凍えてしまうような寒さがある。
朝食から軽食を食べた程度で食事が少なかったためか、少し話すと皆無言で食事をとる。
大量の料理を食べて腹が満たされた。
気づけば完全に暗くなっている。
明かりをつけて、食後の飲み物を用意して皆に渡す。
「今回は当初想定していたより楽だったな」
「そうだね」
中層のダンジョンボスであるミノタウロスを危なげなく倒しきっている。
ベアトリクス様などダンジョン深層に行ける騎士が揃っていたのもあるだろうが、死にかけたバンパイアに比べれば随分と余裕があった。
「帰還までの時間が思ったより早そうだ。ライナスも連れてくればよかったか」
パーシーとクロエが首を横にふる。
「事前の日程だとライナスを連れてくるのは無理だったと思うよ」
「そうよ。ダンジョンの討伐は結果的に早かったけれど、ダンジョンが深層にまで育っていたらもっと時間がかかったわ」
二人に否定される。
確かに今回のダンジョン探索は何日かかるか分からなかった。
現在のテラパワーからライナスが帰ってくる日数も分からず抜けるのはまずい。今回はダンジョン探索に同行しないで、テラパワーの仕事を優先させた。
ライナスが同行しないのを知っているのはパーシーとクロエだけでなく、ベアトリクス様にも相談済み。
「アイクは新しく従者を雇わないの? ライナス一人では難しくない?」
「確かに長期間ライナスを連れ回すのは良くないんだよな……」
「アイクはアックスオッターで従者の追加はできないでしょうし、トリスに従者候補を探してもらう?」
クロエに言われて一瞬迷うが断る。
「いや、俺の従者は危険すぎる。立場に見合わないだろう」
俺と一緒にライナスは毒を盛られた。
デレクの標的は従者にまで及んでおり、下手な実力では殺されかねない。
ダンジョン以外での危険がある状態で従者をお願いするのは憚られる。
「それにライナスほどの従者は見つからない」
「それはそうね」
ライナスはすでに学園卒業と同等の実力がある。つまり騎士としての実力がすでに備わっており、騎士としての実力がある人は当然学園に入学している。代わりがいるはずがない。
「従者は僕も同じ問題は抱えているんだよね」
「パーシーはウォールナットスクワロー子爵が用意するのでは?」
「従者のモーリスほど実力者はなかなか見つからないね……」
覚醒者であるパーシーの従者は王家が用意している。
簡単には見つからないか。
「なるほど」
「僕たちは深層に行く回数も多いだろうし、今日みたいにお互いに手伝ってどうにかしよう」
「そうだな」
竜騎士となってしまったので、深層での戦闘を避けられないだろう。
深層まで従者は連れて行けないからな。俺たちだけでなく、騎士団全体で手伝いあって進むしかない。
「ところでアイクの武器はどうだったの?」
パーシーが飲み物を飲みながら話題を変えた。
言われてみれば武器の確認をしていない。
バトルアックスを取り出して刃が欠けていないか確認する。
「多少欠けているが、今のところは問題なさそうかな?」
潰れて使い物にならないというほどではない。
「少し欠けたんだ」
「戦った量自体は多かったからな。それに全力で身体強化したのもある」
「アイクは普段あまり前に出ないから、普段よりは痛みが早いか」
「ああ、そう考えると許容範囲内ではないかな」
手入れの必要のない武器を作るのは無理。
「武器といえば、パーシーの武器は壊れていないのか? ミノタウロスを殴った時に凄まじい音を立てていたが」
雷鳴のような音は凄まじかった。
「ああ、あれはクロエの魔法を参考にして作った魔法だよ」
「クロエの魔法を参考?」
「そう。クロエが使っていた薄氷を参考にして、メイスを通して雷魔法を発動するんだ。クロエのように切断力はないけど、魔力が少なくても硬直時間は稼げる」
「ミノタウロスがのけ反っていたのは脛への打撃ではなかったのか」
「脛に直撃したメイスが痛かったのもあったとは思うけどね」
脛への打撃と共に電撃。
痛い上に全身痺れれば、ミノタウロスが悲鳴のような叫び声を上げる理由がよくわかる。
「魔力の消費は少ないのか?」
「他の魔法に比べると少ないかな。ただ、魔力を操る難易度が随分と上がるんだよね」
「難易度が上がるのか」
「体から魔力を放出するのではなく、武器を通して魔力を放出するから操りにくいんだ。魔力を増やして使うなら呪文だけではなく詠唱しないと難しいかも」
クロエも大量のモンスターを切り捨てた時、詠唱してから呪文を唱えていたな。
「薄氷は難しいのよね。パーシーはよくすぐに使いこなせたわ」
「まだ全力では使えないから、使いこなせてないよ」
「私も使いこなせているとは言えないわ」
クロエとパーシーの会話が羨ましい。
「魔法いいな」
クロエとパーシーが俺を見る。
「アイクも使えばいいじゃない?」
「そういえば魔法を練習するって言って忙しくてやってなかったね」
今更ながらにまともに魔法の練習ができていなかったのを思い出す。
騎士団とテラパワーの両立は忙しすぎた。
「中層ダンジョンは1日では消えないだろうから、明日僕と魔法を練習してみる?」
「練習する!」
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