第37話 中層のボス
ミノタウロスを倒しながら迷路のようなダンジョンを奥へと進む。
4つ目の部屋も下の階層に行く通路はない。
5つ目の部屋にたどり着くと部屋の大きさが違う。
多少の誤差はあるが、ダンジョンの部屋はそう大きさが変わらない。一見しただけで大きいというのは違和感がある。
「18層で終わりか。意外に成長していないダンジョンだったな」
ベアトリクス様の呟きで気づく。
「ここがダンジョンの核があるボス部屋か」
ダンジョンにはダンジョンの核を内包したモンスターがいる。低層であれば核を内包したモンスターは他のモンスターと変わらない。しかし、中層以降は他のモンスターとは明らかに違う。
千体以上いるであろうミノタウロスの奥から、一際大きなミノタウロスが起き上がるようにして姿を表す。
ダンジョンの核を内包しているミノタウロスだ。
「総員、全力でミノタウロスを討伐せよ」
騎士たちの魔力が活性化する。
今まで帰還するために魔力を節約していたが、もうその必要はない。
俺も魔力で体を強化する。
「ガアアア」
一番近くにいたミノタウロスにバトルアックスを叩きつける。
切り捨てたミノタウロスを確認せず、次のミノタウロスへと向かう。
壁のように密集したミノタウロスをかき分けるように前へ進む。
狙うはダンジョンの核を内包した巨大なミノタウロス。
ミノタウロスの壁が消える。
4メートル近いミノタウロスが猫背気味に佇む。手には身丈同様に大きな両刃斧を持っている。
「おらああ!」
同僚の騎士が剣を手に飛び上がり、ミノタウロスに切り掛かる。
ミノタウロスが斧を振り、剣ごと騎士を吹き飛ばす。
騎士は吹き飛ばされながらも体勢を整え、飛ばされた先にいたミノタウロスを切り捨て着地する。
空中で体勢を整え、ミノタウロスを切るとは器用だ。
「ブゥモオオオ」
飛ばされた騎士を視線で追っていると、巨大なミノタウロスが叫び声を上げる。
猫背だった姿勢から胸を張って上体を反らし、腕を曲げて力むように叫び声をあげている。脱力していた筋肉が張り、ミノタウロスの大きさがさらに大きくなったようにみる。
「行くわよ」
クロエが飛び出す。
ミノタウロスの動きが変わったというのに、気にせず真っ先に飛び出すのはクロエらしい。
クロエは自分の身長以上に飛び上がって大剣を振るう。
ミノタウロスが斧を振るうと、クロエは先ほどの騎士同様に吹き飛ばされる。
クロエといえども、地に足がついていない状態では力がないらないか。
クロエの着地点にいるミノタウロスを倒してクロエを受け止める。
「ありがとう」
「どういたしまして」
クロエに続くように次々と騎士がミノタウロスに飛びかかる。
ミノタウロスは騎士からの攻撃を捌きつつも、徐々に傷を負っていくが致命傷には至らない。
強さはさほどではないように思えるが、頑丈だな。
俺も攻撃に参加しようとするが、周囲のミノタウロスが襲いかかってくる。ミノタウロスはまるで巨大なミノタウロスを守ろうとするかのように立ち塞がる。
続け様にくるミノタウロスを切り捨て、一人が抜けられそうな隙間を作る。
隙間に近いパーシーがミノタウロスの足元まで駆け抜けていく。
「サンダーインパクト」
パーシーは魔法を唱えながらメイスを足に振り抜く。
ミノタウロスの脛に当たったメイスから雷鳴が響く。
うわ、痛そう……。殴られたのはミノタウロスだというのに思わず顔を顰める。
「モオォォ」
脛にメイスが当たったミノタウロスはのぞけり、悲鳴のような叫びを上げる。
ミノタウロスは足元にいるパーシーを睨みつける。
脛を殴られて怒らないわけないよな。
「ブモオオオ」
ミノタウロスが上体を捻り、斧を振り上げる。
初めての下向きの攻撃。しかも相当に力を込めている。
俺は襲いかかってくるミノタウロスをシールドバッシュで押し飛ばし、パーシーの前に盾を掲げて滑り込む。
風切り音と共に、盾に凄まじい衝撃を受ける。
このまま受けきってもいいが、ミノタウロスの上体を崩すために斧を受け流す。
狙い通りに俺の左側に斧が突き刺さり、ダンジョンの地面が壊れて石が飛ぶ。
地面に突き刺さった斧の柄を握り込む。
これで斧を手放さなければ、上体を起き上がらせられない。
盾を横に避けると、ミノタウロスの荒い息が頭上から聞こえてくる。上体が下がった状態でも俺より高い位置に頭がある。
ミノタウロスとヘルム越しに睨み合う。
「アイザック、そのまま止めておけ」
ベアトリクス様の声と共に風切り音が聞こえる。
ハルバートがミノタウロスの体を抜ける。
一瞬の間を置いて、切れていたのを思い出したかのようにミノタウロスの首が落ちる。一呼吸おいて、体も崩れ落ちる。
ミノタウロスが倒れた衝撃で小石が飛び、甲冑に当たって軽い金属音を発する。
飛び散った小石を踏み締める音がする。
音の方向を見るとハルバートを持ったベアトリクス様がいた。
「核の分離に成功したな」
あたりを見回すと、生きていたミノタウロスが彫像のように固まっている。固まったミノタウロスは徐々に黒く侵されていき、全体が黒くなると黒い煤となって散っていく。
コアすら残らずに虚空へとミノタウロスは消えた。
残るは息絶えたミノタウロスの亡骸のみ。
「終わりましたか」
「ああ」
ベアトリクス様がミノタウロスの角を持ち、頭部を持ち上げる。
「ダンジョンの討伐は成就した」
ベアトリクス様が宣言する。
皆で叫び武器を鳴らしてダンジョンへの勝利を祝う。
音が反響して痛いほどの声が響く。
「傷を確認せよ」
お互いに怪我の確認をして怪我の有無を確認する。
戦闘後は興奮しているため大怪我でも気づかない場合がある。
パーシーとクロエに怪我はなく、俺もミノタウロスの斧を受け止めた左手も問題は見られない。
他の騎士から軽傷の報告が数人上がる。
身体強化で治せる範囲のようで、命に関わる大怪我を負った騎士はいないようだ。
怪我人がいなくなるとベアトリクス様が頷く。
「ミノタウロスの亡骸を回収して帰還する」
指示に従ってミノタウロスの亡骸を拾い集める。
亡骸を拾い集めるのには理由がある。
ダンジョンの討伐後、ダンジョンは崩壊する。
モンスターのように即消えはしないが、ダンジョン内にある全ての異物は外へと排出される。排出されるのは騎士であろうとモンスターの亡骸であろうと変わりはない。
モンスターの亡骸を放置すると、爆発物であるコアを内包した状態で外に山積みとなる。そのまま放置すれば大爆発が起きてしまうのは誰にでも予想ができる。
「なぜ倒したモンスターは残って、生きていたモンスターは消えるのか」
「仮説は色々とあるけど、よくわからないよね。しかも全部が消えるわけではなく、一部は生き残っているのも不思議だよ」
俺の独り言にパーシーが律儀に答えてくれる。
そう。かなり確率は低いが一部のモンスターは消えずに生き残る。生き残ったモンスターもダンジョンが崩壊すると外に排出されるため、帰りはモンスターが生き残っていないか見て回る必要がある。
生き残ったモンスターを討伐するのは次のダンジョンになると言われているからだ。ダンジョンの発生については色々と仮説が多く、真相はよくわかっていないのだが。
「片付いたね」
気づけば部屋の中にあったミノタウロスの亡骸は全て消えている。
ミノタウロスが密集していた時は大きさがよくわからなかったが、体育館二つ分以上ありそうな広い空間。通常が体育館一つ分ほどであるため、倍程度の大きさの部屋か。
「帰還する!」
ベアトリクス様の合図で地上に向けて進む。
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