第35話 山の上にあるダンジョン
俺を含めた騎士は甲冑を着た状態で山の急斜面を移動する。
近くに住む住人が山でモンスターを見かけた。近くのギルドが先行して周辺を探していたが、いまだにダンジョンは見つかっていない。第二騎士団もギルドと連携して山の中でダンジョンを探し回っている。
第二騎士団は標高の高い場所にダンジョンがあるのではないかと予想して、甲冑を着込んで登山中。
「小休憩する!」
ベアトリクス様の合図に従って休憩するために止まる。
今いる位置を確認する。周囲には森林限界で木の生えていないため、晴天なのもあって随分と遠くまで景色を見渡せる。
景色を見ながらヘルムを取り、鞄から水筒を取り出して飲み物を飲む。
「しみる」
飲み物を飲むと落ち着く。
「学園の実習は楽な場所を選んでいたんだな」
騎士になってから行くダンジョンは全て僻地。
列車での遠征ならまだよく、山だったり森の中だったりと移動すら大変。そこからダンジョン討伐となれば体力が持たない。
「そうだね……」
パーシーの返事は息が切れており苦しそう。
装備が重いのもあるだろうが、標高が高いために酸素が不足しているのも一因だろう。
俺と同じように余裕があるのはごく一部で、苦しそうにしている騎士は多い。
鍛えているからか体の作りが違うのか、高山病になるような騎士はいない。
しかし、ダンジョンを討伐するだけではなく、探すところから始めるのは大変だ。
「終わらないダンジョン探しは、学園に入学した時に永遠と走らされたのを思い出す」
「アイクは昔から少し手を抜いていたよね」
「……なんで知っている?」
俺は卒業を遅らせるため、わからないようにに手を抜いているつもりだった。
隣で飲み物を飲んでいたクロエが反応する。
「知られていないと思っていたの? 見ればわかるわよ」
クロエにまで知られていたようだ。
「初日から1日中走れたんじゃない?」
息の整ってきたパーシーが尋ねてきた。
「流石に初日から1日は無理だ。限界を迎えた人数を数えながら休んでいたが、真面目に走っても途中で止まっている」
「数えてる余裕があるだけすごいと思うけどね」
俺は肩をすくめる。
「早めに休んではいたが、余裕があったわけではない。むしろアックスオッターで鍛えていたのに、まだ足りなかったのかと驚愕していた」
「僕も鍛えていたのに、鍛え方が足りなくて驚いたよ」
「余裕が出てくると、重りを背負って走らされたのには絶望した」
「うん。少し走るのが楽になってくると、重りを追加され続けたのはいつ終わるのかと絶望したよ」
パーシーと卒業したばかりの学園生活を振り返って笑う。
重りを背負わせるのは、魔力を極力使わぬようにダンジョン内を移動するため。
体力作りという重要な基礎訓練ではあったが、絶望するほど大変なのは変わらない。
「昔は重りで倒れそうになっていたのに、今は100キロ以上の装備を着た状態で、山を登っても余裕がある。人の成長はすごいな」
「新人の騎士で余裕があるのはアイクだけだよ」
見回すとパーシーの言う通り、新米騎士は全て苦しそうにしている。
俺に余裕があったのは学園の訓練が理由ではなかったか。
「獣化は偉大だな」
個人的には増えるなら持久力でなく魔力が良かったが、使い勝手からすると力と持久力が強くなったのも悪くはないと思える。
「アイクのように余裕は出ないと思うけど、僕も獣化したいよ」
「獣化か。パーシーに翼が生えれば、木がない山なら空からダンジョンを確認できるんじゃないか?」
「ああ、翼があれば山でも空から探せるのか」
晴天の空を仰ぐ。
空を見上げていると、周りの騎士たちが静かになった。
空から視線を下げると、なぜか騎士たちが俺の方を見ている。
「どうされました……?」
騎士から注目されると圧を感じる。
思わず小声で尋ねる。
「獣化で飛べるものは、飛んで周囲を確認せよ!」
部隊の指揮を取っていたベアトリクス様が叫ぶ。
一部の騎士が獣化すると空に飛び立つ。
空を飛ぶのは楽しそうだ。羨ましい。
「アイザック、考えがあるのなら先に述べよ」
「一般的な探索方法かと思いまして。普通は獣化で探索しないのですか?」
学園でのダンジョン実習はダンジョンの位置がおおよそ特定されており、探して歩き回りはしなかった。
ダンジョンの探し方は学園でも教えられるが、基本は人海戦術で探すと教わっている。
人海戦術の中に、獣化して空からの探索も含まれていると思い込んでいた。
「獣化は魔力で変化するため、魔力を節約するために獣化を控えると教わっているであろう?」
「はい。しかし、魔力の節約は重要ですが、時間の経過を考えますと早期にダンジョンを見つけた方がよろしいかと」
獣化は魔法であるため、魔力を消費する。
覚醒者でない場合は少ない魔力を獣化に取られるため、使い所に困るのだと聞いている。
獣化後は力が強くなるが、俺ほど顕著に力があがりはしない。むしろ獣化を経験すると筋肉が増えるため、獣化しなくともそもそも力が上がっており戦いやすくなっている。
騎士は少しでも魔力の無駄を減らそうと努力している。
しかし、ダンジョンは見つけなければ魔力の節約が無意味になる。
「妾もそう考えた。森のように視認性が悪い場所では飛ぶ意味は薄いが、木のない山肌であればダンジョンを見つけやすい。仮にダンジョンが見つからずとも捜索範囲を絞り込める」
草原のような視認性がよく移動が楽な場所では、騎士団が出る前にギルドの人海戦術でダンジョンを見つけられるか。
翼による探索は、山肌などの特定の条件でしか使えないか。
よく考えてみると、意外に翼の使い所はないかもしれない。
「上空からの調査が終わるまで、しばらく休憩とする」
モンスターに注意しながら本格的に休む。
少しすると、空を飛んでいた騎士が戻ってくる。
どうやらダンジョンの入り口を見つけたようで、地図と照らし合わせて位置を確認している。
「移動する!」
目的地が決まった状態で歩くのは精神的負担が少ない。
それは皆同じなのか、足取り軽くダンジョンの入り口へと進む。
徐々に1層に現れるジャイアントラビットの出現数が増えていく。
「ダンジョンで間違いないな」
ダンジョンの入り口は岩肌の窪みの中にあり、上空からよく見つけたと思うような位置にあった。
「飛行して魔力を消費したものたちはこの場に待機。残りのものたちはダンジョンに向かう」
外に出ているモンスターから、成長が終わった深層ダンジョンではないのは分かっている。このままダンジョンへ突入するようだ。
「20層までであれば本日討伐を完了させる。帰還するため魔力は残せ」
ベアトリクス様の命令が伝えられると、ダンジョンに侵入する。
「低層はガトリングを使え」
ガトリングはまだ試作段階ではあるが徐々に量産を始めており、数が増えてきている。
騎士が銃弾をばら撒く。
ガトリングの数が揃うと銃弾は面攻撃となり、モンスターが次々倒れていく。
魔力を使わないで倒せるというのは大きい。
「今後、低層の戦い方が変わるな」
「楽にはなりますが、魔石の使用量が随分と増えます」
凄まじい銃声の中をベアトリクス様と大声で会話する。
大声だというのに銃声に声がかき消される。
「元々モンスターのコアは捨てるのに困っていた存在。コアから魔石に変えた今も消費量より生産量の方が上回っている。使用量が増える分には問題ない」
モンスターのコアは爆発物であるため、下手に捨てられない危険物。
錬金術でコアから魔石に変換できるようになり、エネルギー源として利用が可能になった。
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