第34話 入学 side デレク
王立魔法学園を最短で卒業しても3年がかかる。
お祖父様には最短で卒業するとは言ったが、アックスオッター伯爵である私が長期間領地を離れるわけにはいかない。できる限り学園に通う期間を減らしたい。
学園へ短期間で卒業を認めるように手紙を送るが、学園からの答えは否。
伯爵である私の命令が聞けないとは学園の程度がしれる。
話の通じない学園ではなく、王宮に学園を卒業しなくとも爵位が継承できるよう手紙で願う。
これもまた拒否された。
王家は伯爵のいない状態でどう領地を経営させるつもりなのか。何度も王宮や学園へ手紙を送ったが、答えは変わらない。
手紙のやり取りをしている間も時間は経過していく。
もう王都に向かわねば入学に間に合わない。
私は渋々、アックスオッターをお祖父様に任せ、王都のタウンハウスに移動する。
数ヶ月ぶりのタウンハウスは古臭い家具が、貴金属を使った家具に置き換わっている。伯爵である私が住むにふさわしい美しい内装に満足する。
住むにふさわしい家になったが、3年もの時間を王都で浪費しなければならないのには苛立ちを隠せない。
自分より年齢の低い子供に混じって学園の入学式に参加する。
学園の敷地は広いが、校舎の作りが粗末。伯爵の私が通うのにふさわしいとは言えない作り。
入学時に教えられる教育課程に、ダンジョン実習があると聞かされる。
伯爵である私がダンジョン? 馬鹿馬鹿しい。ダンジョンなどギルドに任せ、都市の発展を優先する。
「ダンジョンから溢れ出てくるモンスターは人を襲う。人の領域を犯すダンジョンやモンスターは忌むべき存在であり、放置すればダンジョンは増え続け人類の住む場所はなくなってしまう。我々はモンスターから人類を守る盾である」
最初の授業から教師は古臭い知識を教えている。
ダンジョンにいるモンスターは資源になる。
右肩上がりに需要が増え続けている魔石を流通させているのはギルド、貴族、王家。その中でも王家が魔石の流通を占める割合が多く、利益の大半を王家が吸い上げている。
魔石の流通量を増やせば莫大な利益がアックスオッターに転がり込んでくる。
教師が間違いだらけの知識を話し続けている。
経済を理解できないものに間違いを指摘しても意味はない。父と兄で十分に理解した。
退屈な授業を聞き流す。
「本日の授業は以上。次は訓練のため校庭に集合」
一時間で授業が終わった。
座学が一時間? ダンジョンについての話しかしていない上、間違いしか教えていない。何のために学園があるのかと愕然とする。
こんな学園を卒業せねば貴族として認められないとは常軌を逸する。
私が唖然としていると、同級生の生徒たちが教室から移動を始める。
学園を卒業するため、指示通りに動くしかない。
渋々席から立って動きやすい格好に着替えるため、教室から更衣室へと移動する。
「今日はまず仮でパーティーを組む。年齢が近いものと組むように」
私は適当でいいだろうと、近くにいた年齢が近そうな生徒とパーティーを組む。
「全員パーティーを組めたな。では昼食のある正午まで身体強化を使わずに校庭を走る」
は? なぜ、身体強化を使わない?
父が私にさせた訓練と全く同じ、身体強化を使わない無駄な運動。生まれながらに魔力が多い、竜人の特性を完全に無駄にしている。
「初日は平らな場所をゆっくり走る。ついてこい」
教師が先頭で走り始める。
教師はゆっくりと言ったが早い速度で、校庭の同じ場所を周回する。
父と兄を毒殺して以来、運動はしておらず、すぐに走れなくなってしまう。
えずくような荒い息で校庭にうずくまる。
なぜ私がこのような目に遭わなければならない。
「息が整い次第、再び走るように」
倒れた私に教師がかけた言葉は心配するのではなく、また走るようにとだけ。
教師は再び走り出す瞬間、独り言のように「少々限界を迎えるのが早いか」と小さく呟いて走り去っていく。
色々と言い返したかったが、息が整っておらず何も言えない。
少し息が整った状態で顔を上げると、止まっているのは私だけ。
私より年齢の低い子供が教師の後ろをついて走っている。
「おかしいだろ」
貴族の子供は大半が同じ竜人。
ここまで体力の差が出るはずがない。
「息が整ったのであれば戻れ」
目の前を通過した教師が私に命令する。
文句を言う暇もなく教師は走り去っていく。
教師の後ろを走る、年下の同級生から視線を感じる。
「クソ」
思わず口から汚い言葉が出る。
卒業のために授業を放棄するわけにはいかない。立ち上がって再び走り出す。
終了の合図が出ると倒れ込む。
何度かの給水を挟み、本当に正午まで走り続けた。
生徒の中で立ち止まった回数は私が一番多い。
「今後、ついていけるか心配しているものもいるだろうが、入学してすぐは体力がそれぞれ違う。毎日走っていればすぐになれる」
なれる訳がないだろ。
「汗を流し、着替えて食堂に集合」
言い返す余裕もなく、足の感覚がない状態で校舎に戻る。
「食事もまた訓練。用意された食事は全て食べ切るように努力せよ」
用意されたのは、山盛りの焼いた肉に少しのパン。
優雅さのかけらもない。
そもそも疲れすぎて食欲が全く湧かない。
大量の食事に何の意味があるのだ。ただの拷問にしか思えない。
「疲れているだろうが、少しでも口に入れろ」
パンと少量の肉を食べて昼食を終える。
食事は詰め込むものではない。食べていられるか。
流石に同級生も食べきれないのか、大量の食事を余らせている。
食べ切るのが無理な量を出す意味が理解できない。
「体を作るため食事量は徐々に増やしていくように。次は仮眠をとり、三時間後に校庭に集合」
学校で仮眠?
意味がわからないと思いながらも、用意された粗末なベッドに横になる。マットが硬いと思った瞬間には気絶するように意識が途絶える。
一瞬意識が落ちたと思ったら、叩き起こされる。
「校庭に集合!」
本当に三時間寝たのか怪しいほどの深い睡眠。
重たい体を引きずるように校庭に向かう。
「日が暮れるまで走り続ける。ついてこい!」
また走る?
理解し難い学園の教育計画に絶句する。
ようやく父と兄が私に課していた体力作りは学園仕込みだと気づいた。
「走れ! 走れ!」
教師に急き立てられ棒のような足を動かす。
学園を卒業するには馬鹿みたいな学園生活を送らねばならないのか? いや、初日だけという可能性もある。
私の希望は打ち砕かれた。
毎日の座学はたったの一時間。あとは全て訓練という走り込みのみ。一日中走らされ、あり合えない量の食事を出される。
3日目で学園の教育計画に呆れ、手を抜く。
私がやるべきはアックスオッターを王都以上の都市へと成長させ、大陸最大の領地に変えるのが使命。
伯爵の私が一日中走れるほどの体力をつける意味はない。
気づかれない程度に身体強化を使う。
一日中身体強化ができるほど魔力がないため、要所で身体強化を使って体力を回復する。
「皆、慣れてきたか。重りを背負って走る」
……重り? 何の意味があるというのだ。
ここまでくると、苛つきから呆れに変わり始めた。
私を巻き込まず、私以外を好きなだけ鍛えてくれ。
「決して基礎訓練の手を抜くな。あとで大きな代償を支払うのは自分だぞ」
教師が私を見ながら言葉を発する。
身体強化を使用して楽をしているのに気づかれているか? いや、気づかれていても問題はない。モンスターを討伐するのは下々の役目、私はダンジョンになどいかない。
ダンジョンに行くというダンジョン実習も銃を使って乗り切ればいい。
学園さえ卒業すれば私は王家からも認められる伯爵。領地で何をしても構わない。
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