第33話 新人騎士
第二騎士団に所属して新兵訓練が始まった。
大変かと思われていた騎士の生活は意外に余裕がある。
もちろん新兵訓練は厳しいが、耐えられないほどの訓練ではない。ダンジョン討伐の休息が多く取られているのも、余裕がある一因かもしれない。
「今日の訓練は終わりか。この後はテラパワーの仕事を片付けるか」
「アイクは余裕だね……」
甲冑を着たパーシーが荒い息で話しかけてくる。
「パーシーはまだ成長途中で体が出来上がっていないからな」
「アイクもだ身長伸びているだろ? というか周りを見てごらんよ」
第二騎士団所有の訓練場には新人騎士が倒れている。
俺と同年代から年上の新人騎士は立ち上がれもしない様子。荒い息ではありながら、立ち上がって話しかけてこられるパーシーの方がまだ余裕がある。
「死屍累々といったところだな」
「死んではいないけれどね……。余裕があるアイクがおかしいんだよ」
「なるほど」
同じように学園から卒業したばかりというのに、何がそんなに違うのだろうか。
「鍛え方は皆とそこまで変わらないと思うのだが……」
思い当たる節がなく首をひねる。
「アイクは獣化して筋力だけでなく持久力も伸びているのよ」
パーシーからではなく、クロエから理由を教えられる。
クロエはパーシー同様に息は上がっているが、まだ余裕がありそうな顔色。
「余裕があるのは獣化が理由だったのか」
「私も獣化したいわ」
「俺のように死にかけるか?」
他にも獣化するきっかけはあるようだが、死にかけるのが一番多いようだ。
「それは嫌ね。見ているのも冷や冷やしたのよ」
クロエが顔をしかめる。
「その節はご心配をおかけしました」
「助けられたのは私よ」
「パーティーの盾持ちは俺。前に出るのは当然だな」
今でも魔力が一番少ないのは俺で、相手によっては致命傷を与えるのに苦労する。クロエとパーシーが獣化するとさらに強くなるだろう。
しかし、クロエとパーシーが獣化するなら死にかける以外のきっかけで獣化して欲しいものだ。
「息が整ってきた」
俺とクロエが話している間にパーシーが元気になったようだ。
同僚の新人騎士たちも上体を起こし始めた。
「そろそろ片付けていくか」
「そうね」
訓練場から第二騎士団の建物に移動する。
「俺はテラパワーに行くが、パーシーとクロエはどうする?」
「今日は竜騎士学院に行くつもりはないから、僕もテラパワーに行こうかな」
竜騎士が所属する竜騎士学院に義務はない。
「俺も竜騎士学院いかないとな」
「座学が大半の竜騎士学院に無理していく必要はないと思うけどね」
竜騎士学院は竜騎士同士が高め合う場所かと思っていたが、実際はどちらかというと研究機関に近い。ダンジョンとモンスターの調査を行なっており、竜騎士が倒したモンスターの文献を取り扱っている。
学園で教える範囲は低層から中層までの知識が大半で、深層の知識は少ない。竜騎士学院が集めているのは全ての知識のため、深層の知識も多く文献が残っている。
「個人的には体を動かすより座学の方が好きなのだけどな」
「アイクが座学の方が好きなのは知っているけど、さっきの訓練を見るとそうは思えないよ……」
「好き嫌いは出来る出来ないじゃないからな。それに、俺たちは深層連れて行かれそうじゃないか」
「それは否定できないね」
知識のない状態でダンジョンの深層に行きたくはない。
最近死にかけた回数が多いため、出来る限り準備を整えておきたい。
「とりあえず、パーシーがテラパワーに行くのはわかった。クロエはどうする?」
「私も装備を見てもらいにいくわ」
「了解」
集合する場所を決めて、甲冑から制服に着替えに向かう。
テラパワーに着くとライナスの部屋に向かう。
「ライナス」
「アイク様、訓練は終わったのですか?」
「ああ。今日の訓練は全て終わった。テラパワーの仕事を片付けにきた」
「無理はなさらないようお願いします」
「問題ない。獣化で体力が増えているようで訓練が楽なんだ」
先ほどクロエと話した内容をライナスに伝える。
「それでは遠慮なく仕事を振らせていただきます」
「お手柔らかに頼む」
片付けても増えていく書類は訓練より恐ろしい。
ライナスが俺からクロエとパーシーに視線を移す。
「クロエ様とパーシヴァル様はどうされますか?」
「私は装備を見てもらうために来たわ」
「装備ですか。ああ、そういえばバンパイアの素材が届いたようですよ」
バンパイアの素材!
思わず会話に割り込んでライナスに尋ねる。
「俺たちの取り分が来たのか」
バンパイアはダンジョンの外で討伐したため、どのような配分にするか国は随分と迷っていたようだ。ユニークモンスターまでなると大半の部位は素材として使えるため、余計に迷ったのだと思う。
「私もまだ見ていませんので、見に行ってみますか」
「そうだな」
仕事は後回しにする。
テラパワーの社屋を歩いて素材が置かれている部屋へと向かう。
「結構な量が貰えたのだな」
バンパイアの素材は想像より多くあった。
何かわかる範囲だと、骨、筋、牙、服の切れ端など。
「アイク様の取り分がかなり多いようです」
「とどめを刺したのが大きかったのだろうな」
死にかけながらもバンパイアを倒した甲斐があった。
素材が欲しいからもう一度やれと言われてもやらないが……。
「素材は我々が欲しがらなかったレイピアが人気のようでした」
事前に欲しい素材を聞かれており、素材ごとに欲しい順位を伝えていた。素材の中で、俺の腹を貫通したレイピアは欲しいとは思えなかった。
「俺たちにレイピアを使う人がいないからな」
「はい。レイピアは素材として考えても他の部位に比べると微妙なようでした」
レイピアは錬金術師からすると微妙な物だった。レイピアをそのまま武器として使うのなら良さそうではあるが、レイピアはモンスター相手の武器として軽すぎた。
「レイピアが騎士に人気なのは意外かもしれないな」
騎士は重量のある武器を好むため、レイピアを武器にしている騎士はそもそも少ない。
「予備の武器として使用するようです」
「なるほど、予備か」
腰に差して予備として携帯するのは便利かもしれない。
バンパイアのレイピアは頑丈そうだ。
「魔石もいらないと申し出たため、素材が中心になったようです」
魔石はどのモンスターから作っても最終的な効果はそう変わらない。
溜め込んでいるエネルギー量の違いはあるが、小さい魔石を大量に使えば効果は同じ。
「狙い通りになったか」
欲しい素材を優先して取れたようだ。
「バンパイアの素材を使って装備を新調するか」
「よろしいかと」
さて、何を作るか……。
俺やクロエの武器が全力で使うと壊れてしまう状態。バンパイアの素材を使えば耐えられる武器を作れるかもしれない。
「金属の特性次第ではあるが武器を作るか。クロエの魔法で壊れない武器が作れるといいのだが」
「薄氷に耐えられる武器が作れるなら嬉しいわ」
クロエの武器が壊れるのは、魔法を使って振るだけで壊れているため、おそらく武器の硬さが足りないわけではない。大量の魔力に金属が耐えらず、武器が崩壊してしまっているのだと思う。
「魔力耐性が強い金属を作るか」
ライナスとある程度の方向性を決めて、仕様書を作り込んでいく。
素材を持って錬金術で錬成を繰り返していると、パーシーに止められる。
「アイクにライナス、錬金術に没頭すると仕事がたまるよ」
「っく」
パーシーの正論は俺によくきく。
「アイク様、あとは社員に任せましょう」
「仕方ない……」
俺とライナスは仕様書を社員に渡して制作を頼む。
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