第32話 卒業
今年度、卒業するものたちがホールに集まる。
卒業式の行われる学園内にあるホールは緋色と黒の垂れ幕が交互に飾り付けられ、正面にはスカーレットドラゴンの描かれた国旗が形容されている。
国旗の前で卒業証書の授与が始まる。
「アイザック・オブ・アックスオッター」
卒業証書を受け取って卒業式は終わる。
国王陛下から勲章をもらったからか、緊張は一切しなかった。
学園の卒業式は結構あっさりしている。
全員が一度に卒業するわけではないため、学園に残るクラスメイトの方が多いのも関係しているだろう。俺のように3年で卒業できるのは1割から2割と少なく、今年は3割近いため優秀と言える。
代わりに学園から卒業の祝いとして祝賀会が開かれる。
王都で騎士になる俺とは違い、卒業生の中には地元に戻って騎士になるものもいる。祝賀会は卒業生と来年も学生としてのこる生徒が集まり別れを惜しむ。
仲のいいクラスメイトと少し話した後、飲み物のグラスを手に持って部屋の隅に佇む。
俺も入学当初は卒業生を送り出す側として残るつもりだったのだがな……。
「3年で卒業してしまった」
卒業する気がなく学園に入学したというのに、最短で卒業してしまうとは……。
「すでに騎士の僕たちが卒業できなかったら問題だよ」
「そうなんだが、な……」
俺と同じような黒地に緋色の飾りがついた騎士団の制服を着たパーシーに突っ込まれる。
俺とパーシーは学園の制服ではなく、騎士団の制服を着て卒業式に参加している。学園の制服で出るつもりだったが、教師から騎士団の制服を勧められた。
騎士団の制服と学園の制服は似ており、そこまで目立ってはいない。
「アイクが騎士になるのに乗り気ではなかったのは知っているけど、アイクの能力で卒業しないのは無理だよ」
「せめてもう数年は学生生活を送るつもりだった」
「それは僕と組んだ時点で無理だね」
以前にも同じ会話をした気がするな。
「代わりに今は隠さないで錬金術師として活動しているじゃない」
先ほどまでクラスの女性に囲まれていたクロエが話し終わったのか会話に入ってくる。どうやら俺とパーシーの会話が聞こえたいたようだ。
「錬金術師というよりは会社経営しかしていない気がする……」
最近はハーバートと師匠が作った物を売っているだけだ。
俺も錬金術をしたい。
「それは否定できないわね」
「もう少し錬金術師として活動したい」
「騎士団はダンジョン討伐以外は、学園と違って活動時間を好きに調整できると思うわよ」
「学生よりも余裕があるか」
死に直結する日々のトレーニングを怠けるわけにはいかないが、他は自由に時間を使えるか。
ベアトリクス様から卒業するまでは残り少ない学生生活を楽しむようにと言われていたため、騎士にはなったが活動自体はそこまでしていない。
「ところでクロエ、服似合っているな」
「あら、ありがとう」
クロエが満面の笑みを浮かべる。
クロエは俺とパーシーとは違う白地に青い飾りがついた服を着ている。白地の服はセレストドラゴン王国騎士団の制服。
俺とパーシーと違い、黒地の集団に白地の服は目立つ。
目立っているがクロエは気にした様子もなく堂々としている。
「明日からも一緒の3人で喋っていないで、もう少し話してくるか。卒業生は会えなくなるのが多いからな」
「そうね」
クラスメイトに話しかけて祝賀会を楽しむ。
自宅に戻ると制服を脱いで楽な格好に着替える。
祝賀会では食事が出たため、夕食を食べずにリビングの椅子に座ってゆっくりとする。以前なら書斎でくつろいでいたが、最近は書斎を仕事場として使用したりすのでゆっくりとした気分にならない。
「ライナスも座らないか」
「それでは失礼致します」
ライナスが対面に座る。
従者であり、友であるライナスには最近随分と迷惑をかけている。まだ問題は解決しておらず、今後も増えそうなのが申し訳ない。
「ライナス、最近随分と迷惑をかけている。すまないな」
「いえ、想定外が多々ありましたが、生きていられるだけで十分でしょう」
生きているられるだけで十分。
ライナスの望みの基準値が低い。
……いや、生きていられるだけで十分と考えるのも仕方がないか。デレクに殺されそうになってまだ一年たっていない。その後、バンパイアにも殺されかけているからな。
一年で二度も死にかけたの気づき、思わず黄昏てどこでもない遠くを見てしまう。
ああ、確かに生きていられるだけで十分。真理だな。
「一年で二度も死にそうになったのに、ライナスはよく俺の元にいてくれるな」
「正直何度か出て行こうかと迷いました」
ライナスの考えは当然だと思う。
俺と一緒に殺されそうになったのだ、むしろ今も俺の元に残っているのが驚きである。
「今から従者を辞めても構わない。ライナスは元々父から命じられて俺に使えている。伯爵である父が死んでいる以上、俺に使える義理はない」
「いえ、今は出て行こうとは考えておりません」
「そうか。ありがとう」
とても助かる。
辞めても構わないと言ったが、ライナスに出て行かれたら俺は過労死しそうだ。
「ただ、もう少しテラパワーの仕事は減らして欲しいと思っておりますが……」
「テラパワーに関しては俺も頑張ります……」
最近、ライナスが俺の従者として後ろにいる時間が随分と減った。
テラパワーの経営が忙しすぎて、俺の従者をやている暇がない。社員数は増やしているが、ライナスの余裕はまだできない。
ライナスが遠くを見る。
「テラパワーは私、アイク様、師匠が作った物を売って、錬金術の素材を買おうと思っていただけでしたのに、随分と大きくなってしまいました」
テラパワーが大きくなったのは想定以上に製品が売れたから。
まさかトレーニング器具が大量に売れるとは思わないだろう。しかも売る相手は貴族であるため、少々高くても売れていった。
錬金術師は一般人であり、貴族の生活様式には詳しくない。貴族がどのような生活を送っているかは知らなかったのだろう。
「本当に大きくなった。しかもトレーニング器具を売るだけではなくなったな」
「おかげで大変忙しくしております」
テラパワーが忙しくなったのは開発した製品が元ではあるが、会社を大きくしたそもそものきっかけはデレクが父と兄を毒殺し、俺とライナスが毒を盛られたため。
俺は身を守るために、会社を大きくして力をつける必要があった。
ベアトリクス様からの注文で、会社が想定以上の規模になってしまったが……。
そう、デレクがきっかけ。
「卒業の次は入学か」
「はい」
ライナスが顔をこわばらせて俺を見る。
毒を盛られた恐怖は俺も残っている。
「ライナス、デレクの入学が近い」
「はい。おそらくすでに王都に滞在していると思われます」
「皆に伝えているが、改めてアックスオッターのタウンハウスには近寄らないように周知する」
「心得ました」
俺はライナスに謝る必要がある。
「ライナスが王立魔法学園への入学はデレクが卒業後になる」
俺の影響かライナスは騎士になりたいという気はあまりないように思える。それでも自らが選んで学園へ行かないのではなく、選択肢がそもそもないのでは大きく違う。
「心得ております」
「ライナス、すまない」
俺は頭を下げる。
「アイク様、気にする必要はありません。そもそも私が学園に入学する余裕はありませんよ。アイク様が私の分もテラパワーの経営を頑張るというのなら入学しますが、どうされます?」
ライナスが苦笑しながら軽い調子で話しかけてくる。
「騎士と会社経営同時にしろと? 過労で死んでしまう」
「でしょう?」
俺もまた軽い調子で話す。
戯れに話しているが、本当に忙しいの早く解決してくれないだろうか……。
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