第31話 黒竜勲章
王宮の謁見の間に通じる扉は大きい。
スカーレットドラゴンが掘り込まれた扉は国を象徴している。
立派な扉が開く。
「クロエ・オブ・セレストドラゴン殿下」
白を基調としたドレスを着たクロエが謁見の間に入っていく。
「アイザック・オブ・アックスオッター」
俺も名前を呼ばれたため、謁見の間に入る。
いくつもある大きな窓から差し込む光は室内を明るく照らす。スカーレットドラゴン王国の色である緋色と黒で彩られた室内は、やはりどこか魔王城のような雰囲気がある。
「パーシヴァル・オブ・ウォールナットスクワロー」
竜騎士の称号である黒竜が授与されるのが決まった。
俺だけではなく、クロエとパーシーも黒竜を授与される。
ベアトリクス様から黒竜の称号をもらっておわりかと思っていたら、国王陛下から称号に付属する勲章を直接渡されると言われパーシーと二人震えた。
今日は授与式が行われる当日。
俺は黒と緋色を基調としたスカーレットドラゴン王国の正装を着て参列している。
あまりの緊張に手と足が同時に出ていないだろうか。
指定された位置に立って式典が始まるのを待つ。
俺たち以外にも名前を呼ばれ次々に人が入ってくる。
勲章を授与されるのは俺たちだけではなく、深層ダンジョンを討伐した騎士の何人かも竜騎士の称号である赤竜の勲章を授与される。
ベアトリクス様は赤竜をすでに持っているため、今回は出席しないと教わった。
「ルーファス・オブ・スカーレットドラゴン国王陛下、ご入場」
頭を下げてルーファス国王陛下の入場を待つ。
「表をあげよ」
低く声が謁見の間に響く。
俺が頭を上げると、緋色の龍が彫られた椅子にルーファス国王陛下が座っている。
高い身長に彩られた黒地の服。服を盛り上げる大きな筋肉。大きな椅子が小さく見えるほどの体格は見ているだけで圧倒される。
国王陛下は50歳を超えたはずだがそうは見えない。
「勲章の授与を執り行う」
赤竜の勲章から授与されていく。
竜騎士の称号に上下があるわけではないが、赤竜の方が授与する条件が厳しいため上に見られる。
国王陛下が勲章を胸元につけ、言葉を送っている。
「クロエ・オブ・セレストドラゴン殿下」
クロエがセーファス国王陛下の元に行って勲章を授与される。
セレストドラゴン王国の王族であるクロエだが、騎士の称号はスカーレットドラゴン王国でもらっても問題ない。逆にスカーレットドラゴン王国の王族や貴族がセレストドラゴン王国で称号をもらう場合もある。
騎士の称号の中にはスカーレットドラゴン王国とセレストドラゴン王国の両国で称号を貰わなければ授与できない称号がある。
「パーシヴァル・オブ・ウォールナットスクワロー」
パーシーが国王陛下の元に行く。
クロエと違ってパーシーは動きにぎこちがない。次に順番が来そうな俺を見ているかのような気分。
パーシーが元の位置に戻ってくる。
順番からして次は俺か。
「アイザック・オブ・アックスオッター」
名前を呼ばれて前に出る。
緊張しないのは無理だと、転んだりして大失敗しないようにだけ気をつける。
クロエやベアトリクス様との付き合いから王族はかなり寛容だと認識している。それにスカーレットドラゴン王国は優秀な騎士を粗末には扱わない。
「黒竜勲章を授ける」
ルーファス国王陛下が俺の胸元に黒い竜の勲章をつける。
緊張しているのもありそうだが、国王陛下は近くに来ると倍以上に大きく見える。のまれそうなほどの迫力が凄まじい。
「アックスオッター家についてはベアトリクスから聞いている。通常であれば勲章の授与はアックスオッターに連絡を入れるが、今回はアイザックの現状に鑑みて連絡を入れないよう指示した。知るのが多少遅くなる程度ではあろうが、無策よりは良かろう」
「感謝いたします」
家に連絡が行くのをすっかり失念していた。
俺がどうしているかなどデレクは興味がないかもしれないが、たどれる痕跡は極力減らしておきたい。
「アイザックは面白いものを作っているようだな」
「急ぎ生産体制を整えておりますが、トレーニング器具以外はまだ量産できておりません」
「そうか。ライフル銃もアイザックが作り出したらしいな。トレーニング器具を含め、今後も期待している」
「はっ」
ライフル銃についても調べられていたのか。
ライフル銃はテラパワーで売っていた時期が短く生産数も少なかったため、最初に作ったのがテラパワーだと知られていない。
「若き竜よ、今後を楽しみにしている」
「身に余るお言葉、恐悦至極にございます」
俺は元の位置へと戻る。
思った以上に長い会話をしたような気がする。
「諸君の長き活躍を期待している」
ルーファス国王陛下が最後に一言述べると退出していく。
俺たちも順番に謁見の間から出る。
王宮の廊下に出ると思わず息を吐く。
どうにか大きな失敗もなく、無事に授与式を終えられた。
式は終わったが勲章に関する付属品の受け取りがまだあり、応急に勤める人から付属品を受け取って竜騎士について説明を受ける。黒龍の勲章を授与した時点で王立竜騎士学院に所属した状態になるらしい。
竜騎士学院の説明は竜騎士学院で受けるようにと言われる。
説明が全て終わるとようやく解放される。
「緊張した」
「緊張したね」
一緒に付属品を受け取っていたパーシーが同意してくれる。
「そう?」
同じく一緒にいたクロエは不思議そうに聞き返してくる。
「クロエは式典に慣れていて、ルーファス国王陛下にもよく会っているんじゃ?」
「そうね」
「俺は式典に慣れていない上に、ルーファス国王陛下に会ったのは数回しかない。会ったのも俺が主役ではなく、付き添いだったからな。直接話したのは初めてだった」
ルーファス国王陛下にあったのは初めてではない。
貴族は数年に一度、国王陛下に挨拶する習慣があり、俺も父に連れられて挨拶だけはしている。
「そういうものなのね」
「そういうものだよ」
俺が深く頷くと、パーシーも同じように頷いていた。
パーシーが俺を見る。
「ところで、アイクは国王陛下と話している時間長かったね」
「ああ、やはりそうなのか。自分でも長いかもとは思っていた」
パーシーとルーファス国王陛下と話した内容を話す。
「アイク、パーシー、話していないでトリスの元に行くわよ」
「ああ」
ベアトリクス様から授与式の後に来るようにと言われていた。
王宮の中を移動する。
「3人とも竜騎士になったか。おめでとう」
「ありがとうございます」
ベアトリクス様から祝福される。
「学園の卒業前に授与ができてよかった」
「もしかして王宮は俺たちのために急いでくれたのですか?」
「学生で竜騎士は箔がつくだろうと、少し急かしはした」
「ありがとうございます」
俺たちはお礼を述べる。
ベアトリクス様が笑顔で頷いた後、真面目な表情になる。
「アイザック・オブ・アックスオッター、パーシヴァル・オブ・ウォールナットスクワローに第二騎士団への勤務をベアトリクス・オブ・スカーレットドラゴンが命じる」
「了解しました」
俺とパーシーが声を合わせて返事する。
「今後よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
俺は名前の呼ばれなかったクロエを見る。
スカーレットドラゴン王国に残ると聞いていたのだが、ベアトリクス様に名前を呼ばれなかった。
「私はセレストドラゴン王国からスカーレットドラゴン王国の第二騎士団に派遣されるから、トリスに任命権はないの」
「以前に騎士団に所属できるか聞いた時、派遣されたという形になると言っていたな」
「ええ。学園を卒業後も一緒よ」
学園の卒業は間近。
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