第30話 魔力ではなく力
なぜスクワットかと思うが、おそらく重量を上げる種目であればなんでも良かったのだろう。
バーベルが用意され、重りをつけてバーベルスクワット。
徐々に重量を上げていき、以前は限界だった350キロで試すと軽く上がる。獣化すると力が上がるため、あげられて当然とベアトリクス様が言う。
50キロ単位でプレートを次々と追加していき、最終的に1トンの重量にまで達する。
「そろそろ重量を小刻みにあげないと潰れそうで怖いです」
「今日は試しであるため、この程度で問題ない」
1トンのスクワットは大腿四頭筋やハムストリングに効いた。1トンを持ち上げられるのにそもそも驚きなのだが、獣化した体に慣れればまだ持ち上げられそう。
竜人は地球の人間とは別物なのだとよく分かった。
「これほど筋力が伸びるとは……
「角が大きくなると、力が強くなるという噂は嘘ではなかったか。身体強化しないで1トンを持ち上げられるのであれば、身体強化すればバンパイアを圧倒できる」
以前にベアトリクス様はベンチプレスで1トン上げていました。
スクワットより重量が上がらないベンチプレスで1トンと上げられるのであれば、スクワットは1トン以上上げられるのだと予想できる。
「ベアトリクス様も一人でバンパイアに勝てるのでは?」
「できなくはない。あえて挑もうとは思わないがな」
「一人で挑む意味はありませんか」
ベアトリクス様が頷く。
俺は最終的には一人で倒したようになってしまったが、獣化する前は集団で戦っていた。
ダンジョンの脅威からかスカーレットドラゴン王国の騎士は現実的で、命の危険はなるべく排除しよとする。一人で倒せるかどうか挑むなど何の意味もない。
ベアトリクス様が再び俺の周りを回る。
先ほどの変化した部位を見る視線とは若干違い、骨格や筋肉を見て回っているように思える。
「覚醒者であろうアイザックの魔力が想定よりも増えなかったのは角にあるかもしれない」
ベアトリクス様が予測した意味を理解する。
「自分は魔力ではなく力が増えた……?」
「確証はないが、おそらくそうではないだろうか」
力ではなく魔力が良かった……。
使い勝手がいいのはわかるのだが、魔法を使いたかったな……。いや、一度は使えるかもしれない、以前とは違うか。
一回は魔法を使えると自分を慰める。
「アイザック、獣化を解いて構わない」
言われた通りに獣化を解くため、固まった魔力を解放する。
服の背中側が裸のような状態でないか確認する。
用意された服には切れ目が入っていたため、獣化を解いても悲惨な見た目になっていない。背中に切れ目があって不思議だったが、翼と尻尾用の切れ目だったのか。
「獣化を解きました」
ベアトリクス様が頷き、再び椅子に座るのを勧められる。
「さて、アイザック」
「はい」
改めて名前を呼ばれ緊張する。
「ユニークモンスター討伐に最も尽力したとして、黒竜を与えられるか審査する」
「黒竜……? もしや竜騎士の?」
「その通り」
黒竜はユニークモンスターの討伐に対する勲章である。
あ……ユニークモンスターの討伐。
バンパイアはユニークモンスターじゃないか。
「バンパイアを倒したアイザックは称号を授与するかの審査に値する」
「学園の生徒でも竜騎士になれるのですか」
「妾は学園の生徒で授与されたとは聞かないため、授与が決定すると現在最年少の竜騎士になるであろうな」
ユニークモンスターは中層以降にしか出現しないため、低層でしか戦わない学園の生徒が竜騎士の称号を獲る機会はない。
「審査されるのは俺一人なのですか?」
「いや、クロエ、パーシヴァル、戦った騎士全てを審査する。審査のため、戦ったもの全てに聞き取りしている」
今日の呼び出しは審査するための聞き取りだと今更ながらに気づく。
聞かれたために違和感なく答えていたが、まだ学生の俺がどう戦ったかなどベアトリクス様が聞く必要はないよな。
「全員に聞き取りをした上で審査するため、時間がかかる。審査結果は数ヶ月後だと思っていて欲しい」
「分かりました」
竜騎士の称号を手に入れたくてバンパイアに挑んだわけではないので、称号がもらえずとも気にならない。
「この話は以上で終わる」
ベアトリクス様が後ろに控えていた者たちを労う。
従者だと思っていた人たちが筆記用具を持って部屋を退出していく。
俺はベアトリクス様の従者だと思っていたが、俺たちが話した内容を書き留めていたのか。
「しかし、竜騎士の審査がこうも早いとは、妾の推薦は間違っていなかったな」
そういえばベアトリクス様から竜騎士学院に推薦されて進学許可が出ていた。
「お手間をかけました」
「学生のうちに竜騎士の称号をもらえたとしても、アイザックが気にする必要はない」
俺は感謝の言葉とともに頭を軽く下げる。
ベアトリクス様が頷いて飲み物を手に取る。
「思ったよりも時間が余ったな。ガトリングと装甲車についても少し話しておくか」
ベアトリクス様が時計を見てつぶやいた。
「アイザック、ガトリングと装甲車を量産できそうか?」
「以前にも申し上げましたが、テラパワーの会社規模では無理です。開発はできても生産能力が足りません」
ここで生産能力が不足しているのを隠しても仕方がない。
「生産能力、人か」
「テラパワーは人員を急速に増やしておりますが、装甲車の量産となりますと人だけでなく土地も足りません」
テラパワーの社屋は王都郊外に大きく建てたのだが、装甲車を作るとなれば小さすぎる。
最近作った社屋だが工場だけ別で新しく作る必要がありそうだ。
「土地は王家から融通しても良いが、人は難しい」
「地方からの出てきた者たちの中から雇って教育するしかなさそうです」
「出稼ぎ労働者か。鉄道の範囲が増え続けているためか、地方からの労働者が年々増えている」
地方で就きたい職にあぶれたものは、王都なら仕事があるだろうと列車に無理してのってやってくる。
実際のところはむしろ王都の方が仕事は少ない。
しかも地方であればギルド員になってダンジョンの周りにいるモンスターを狩れば生きていけるのだが、王都ではダンジョンの討伐が速いために素人では食べていくのが難しい。
仕事にあぶれたものが集まり、王都の一部がスラム化して問題になっている。
「量産する体制にするとはいえ、教育して量産となりますと時間がかかります」
「労働者の教育には時間がかかるな。テラパワーの事情は理解した」
ダンジョンの脅威を考えると急ぐ理由もわかるため、ベアトリクス様が強硬に進めようとするわけではなく安堵する。
「可能な限り早く量産に取り掛かります」
「それでいい。欲しい土地があれば相談しなさい。兄上も期待していたため、多少の無理は通るであろう」
「ベアトリクス様のお兄様ですか?」
第3王女の兄……?
「深層ダンジョン討伐の指揮をとっていたフランク兄上が、ガトリングと装甲車は役に立つと言っていてな」
フランクといえば王太子殿下の名前。
前線に出て戦っていたであろう王太子殿下がガトリングと装甲車を見たのか。量産失敗しましたとはいえない状況に血の気が引く。
「量産を急ぎます」
「いや、無理をしろとは言っていない。アックスオッターとの縁が切れたアイザックは大変であろう、妾や兄上を気軽に頼ってくれて問題ない」
「感謝いたします」
ベアトリクス様でもすごいというのに、頼れる相手が時期国王まで増えてしまった。これ以上は国王陛下しかいない。
「今後もテラパワーの活躍に期待している」
「はい」
期待が重い。
気晴らしの錬金術がしたいな。
今気晴らしの錬金術で苦しんでいるのだが……。人生は思い通りにかない。
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