第3話 学園を辞めれない
成長してから家に入れることはかなり珍しい、普通は生まれると同時に子供を家に引き取る。父は貴族の定めであるダンジョン攻略を重要視はしていたが、脳筋すぎて常識はいまいちだったからな……。
パーシーが引いている理由がよくわかる。
「兄は学園に入学する前年に家に入っている」
「4年前か。当然アイクより年齢が高いんだよね?」
「ああ、3歳上なので今年18歳だったか?」
「ええ? 15歳で家に入れたの……?」
「そうだ」
父の行動があまりにも常識はずれすぎてパーシーが引いている。
貴族の子弟で15歳というと、王立魔法学園に入学している年齢。
パーシーのように幼い時から入学している場合は、すでに卒業して騎士になっている場合もある。
「でも学園の先輩にアイクの異母兄弟がいたって聞いたことないよ?」
「まだ学園に入学していないからな」
「18歳だともうすぐ20歳じゃ?」
「来年には学園に入学することになるだろうな」
貴族の子弟は遅くとも20歳までに学園に入学するのが普通で、デレクは年齢的にすぐにでも学園に入学しないとまずい。
20歳を超えてから学園に入学するのはダンジョンで地道に実力を伸ばしてきた人たちであり、すでに騎士相当の実力があると騎士団や冒険者ギルドから推薦されてきた人々。そんな中に混じるのは魔力が多かったとしても難しいだろう。
「異母兄弟のお兄さんがアックスオッター伯爵になるの?」
「うん、まあ、そうなるんじゃないかな?」
「歯切れが悪いね」
パーシーが鋭く突っ込んでくる。
「ここだけの話にして欲しいのだが……」
「いいけど、何?」
「異母兄弟の次男が父と長男である兄を殺している」
「は?」
パーシーが口を大きく開けて固まる。
転生した世界の貴族は爵位を求めて骨肉の争いをしない。なぜなら母がそうだったように、貴族はダンジョンで簡単に死んでいく。母のように若くしてダンジョンで散る貴族が多いため、逆に一族の繋がりがとても強い。
普通は当主の座を求めて争いなど起こさない。
「俺も毒を盛られた」
「毒!?」
一族の繋がりの強さから、まさか毒を盛るとは思ってもおらず、警戒しているわけもない。
王都から帰還したのが昼頃だったこともあり、昼食を済ませてから話し合いになった。デレクがやけに時間をかけて話すので、変だと思った時には毒が回っていた。
「調子が悪いなと思った時には完全に毒が回っていた。デレクだけではなく兵士に囲まれており、魔法を使う素振りを見せれば殺されるのは目に見えていた」
パーシーがデレクの行動に完全に引いているのがわかる。
結構な時間がたった後に、パーシーが復活した。
「いや……アレク、その状態でどうやって生き延びたの?」
「家督を破棄することで家から出られたが、殺されていても不思議ではなかった」
「よく無事だったね……」
「本当にな」
俺はとても深く頷く。
まさか転生前より早く死ぬ可能性があるとは思いもしない。ダンジョンで死ぬならまだしも、異母兄弟とはいえ兄から殺されそうになるとは思わないだろう。
「それでアレクは今後どうするの?」
「元々貴族であることに興味はなかった。この際、学園を辞めて騎士にならずに錬金術師として暮らそうと思う」
俺は夢だった錬金術師になるのだ。
デレクとダンジョン怖い。
「え? それは無理だよ」
即座にパーシーから否定される。
「え、無理? なんでだ?」
「なんでだって、僕たちダンジョンの低層を攻略しているから卒業資格をすでに持っているじゃないか。今更学校を辞めさせてもらえるわけないだろ?」
「…………」
少しだけ辞めさせてはもらえないかもと心のどこかで思ってはいた。
それでも夢を追いたかったのだが、夢は一瞬で崩れ去った……。
儚すぎる。
「アレクの夢は知っているけど、僕たちとパーティーを組んだ時点で辞めるのは無理だよ」
「当時の常識のなさが憎い」
「僕としては運が良かったけどね」
学園に入学当初、仮でパーティーを組まされた。その時から卒業する気がなかった俺は低年齢で入学したパーシーともう一人をパーティーに誘った。
低年齢の二人を誰も誘わない様子から、お荷物になるとも思い込んでいたのだ。実際のところは低年齢でも入学が認められるほどの魔力量を持った子供二人だったのだが……。
パーティーは気づいた時には固定になっていて、パーティーから抜けることなど不可能な状況に陥っていた。
父から教わった教育には常識が抜け落ちており、一般常識を知らなかった。
気づいてからは色々と聞いて回って多少は改善したが、悲しいことに今でもパーシーの方が常識を知っている……。
年上の威厳はない。
「やはりスカーレットドラゴン王国の騎士団に入るしかないのか」
学園を卒業後は騎士としてどこかの騎士団に所属する。王国の騎士団か、出身地の騎士団を所属先として選ぶのが普通ではある。しかし、俺の場合はアックスオッターの騎士団に所属するというのは現状あり得ない。
王国の騎士団を選ぶしかない。
「どうせなら一緒に王立竜騎士学院に行って竜騎士を目指そうよ」
竜騎士は騎士の称号。
特定の条件を満たせば白竜、黒竜、赤竜、蒼竜、双竜の称号を授与される。称号を授与されたものを竜騎士と呼ぶ。
王立竜騎士学院は竜騎士を養成する学校であり、竜騎士が所属する組織でもある。
「王立竜騎士学院か……パーシーのように魔力量があれば考えたがな……」
魔法は非常に効率が悪い。
魔法は体内にある魔力を使って発動させる。
しかし、体内にある魔力を体の外に放出すると魔力が一気に拡散していき、魔法にするだけの魔力が残らない。仮に10の魔力を放出したとすると9は消えてしまう印象がある。
体内に保有する魔力量が多くなければまともに遠距離魔法が使えないのだ。
効率のいい魔力の使い方は身体強化。
体内で魔力を循環させることで、身体強化は発動する。筋力が増大したり皮膚が硬くなったりと魔力の消費も比較的少なく、セリアンスフィアで生まれた人は誰でも使える。
デレクに盛られた毒を解毒したのも身体強化の効果。
身体強化ほどではないが、魔力の効率がそこまで悪くないのが武具を魔力で強化する方法。
魔力を通しやすい金属から作り出した武具を魔力で強化する。身体強化と似たような魔力の使い方で、身体強化ができる人なら少し訓練すればすぐに使えるようになる。
「アイクの身体強化と武具強化はすごいじゃないか」
「遠距離で魔法を打ちたいんだ」
「僕もダンジョンで遠距離魔法を撃つことは滅多にないけど」
身体強化と武具強化を使ってダンジョンを攻略する。
効率のいい身体強化ですら要所要所で使わなければ魔力切れを起こしてしまう。効率の悪い遠距離魔法を使っていては絶対に魔力が持たない。
魔法は切り札であって常時使うものではないのだ。
魔法を気軽に使えないため、防御を重視した重たい防具を着て、重たい武器を持つ。重たい装備を持ち運ぶのに身体強化を使えないため、筋肉を鍛え上げる。
脳筋な魔法使いができあがりだ。
王立魔法学園で魔法を教えずに筋力を鍛え上げるのは魔法の特性ゆえ。
俺は魔法学園に入学したら魔法が使えると思ったら、ひたすら体を鍛えさせられて唖然とした。
ファンタジー仕事しろ。
「竜騎士になるとダンジョンの中層以降に行く必要があるのがな」
「珍しい素材も手に入るよ?」
「うーん」
錬金術で使える素材は欲しい。
ダンジョンの中層以降で拾える素材はお金があれば買えるものではない。自分で取りに行けるのなら、確実に手に入れられる。しかし、中層以降のダンジョンは生半可な気持ちで進めるほどゆるくはない。常に死と隣り合わせになる。
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