第29話 死にかけの獣化
やはり俺の記憶が曖昧な部分があって、話がわかりにくかったか。
「ベアトリクス様はどのあたりに違和感を感じましたでしょうか?」
「アイザックはバンパイアのレイピアに貫かれたあたりで獣化したのだな?」
「獣化については、獣化したのを自分では気づきませんでしたので、おそらくはそうだと思いますとしか……」
俺も獣化については違和感というか、そもそも獣化したのに気づいていなかったため自信がない。
ベアトリクス様がクロエを見る。
「クロエはアイザックが獣化するところを見ていたのだろう?」
「ええ」
「クロエから見た視点を教えてくれるか」
「わかったわ」
クロエが俺の脇腹あたりに視線を送る。
「私を庇ってレイピアに貫かれたアイクは最初のうちは抵抗していたけれど、すぐに脱力して行ったの。アイクが刺されると同時にバンパイアは傷が治っていったため、血を吸っているのだとわかったわ」
今更ながらにクロエがつけた傷がバンパイアになかったのに気づく。
攻撃のために血を吸っているだけかと思ったが、攻撃以外にも意味があったのか。
「バンパイアを騎士が攻撃したけど効かず、アイクの手が完全に脱力状態になってしまった。私は慌ててバンパイアではなくレイピアを抜こうとしたら、急に甲冑が弾け飛んで尻尾が生えてきたの」
聞いた限り獣化する前、死にかけというか、ほぼ死んでないか?
医者から獣化を解いたら死ぬと言われるわけだ。
「鱗が生えて完全に獣化したアイクは叫ぶとレイピアを抜いて、盾を放り出してバンパイアを殴ったわ。完全に力でバンパイアを圧倒していき、レイピアごとバンパイアを切り捨てたわ」
クロエの話が終わるとベアトリクス様がクロエにお礼を伝えた。
「アイザックは獣化して生きながらえたのか」
ベアトリクス様が腕を組んで頷いている。
自分でもよく獣化が間に合ったなとは思う。
「死にかけで獣化が間に合うんですね」
「うむ……初めて獣化する者の中には、死にかけて獣化する者は多い。しかし、アイザックより獣化するのが早く、レイピアに刺されたと同時に獣化していないと間に合わない状況に思えた」
やはり間に合わないと思うような状況なのか。
「獣化を解いたら死ぬと医者に言われましたが」
「そこまで血がない状態だったとすれば、獣化を解けば死んでいただろう」
医者の判断は間違っていなかったか。
「自分としてはそこまでひどい状態になる前に、獣化したかったです」
「アイザックからすると、そうであろうな」
「はい」
死にかけたのは自分の責任であるため、誰かを責められるものではないがもう少し早くに獣化したかった。
「クロエの話を聞いてもう一つ違和感があるのは、獣化したところで一人ではバンパイアを圧倒するのは難しい」
「パーシーとクロエの魔法で弱っていたのでは?」
「いや、アイザックから血を吸って、回復どころか強化されている。血を吸ったバンパイアはユニークモンスターの中でも治癒能力が特に高い」
俺は吸血して強くなったバンパイア以上に獣化で強くなったというわけか。
「魔力を全力で使っていたため圧倒できたのでしょうか」
ベアトリクス様が顎に手を添える。
「覚醒者の魔力であれば後先考えなければ圧倒できなくもない」
「後先は全く考えていませんでした」
「魔力量の問題かもしれんか……」
ベアトリクス様は完全に納得はいっていない様子。
「アイザック、獣化してみろ」
「今ですか?」
「そうだ」
獣化すると服が破れる。
服が破れてしまうと獣化から戻れなくなる。
しかもベアトリクス様に呼ばれたため、高い服を着てきている。やれと言われればやるが、せめて着替えが欲しい。
「服が破れてしまうため、服を用意していただけると嬉しいのですが……」
「分かった。用意した服に着替えて獣化して欲しい」
「承りました」
ベアトリクス様が人を呼んで服が準備される。
俺は急遽用意された服に着替え、ベアトリクス様の前に立つ。
準備ができたので、獣化しようとしてやり方がわからないのに気づく。
「ベアトリクス様、獣化はどうすれば変わるのか教えていただいてもいいですか?」
「いくつか方法があるが、最初に獣化した時の感覚を思い出せば獣化する場合が多い」
「やってみます」
血が足りなくなり、血の代わりに魔力が循環するのを想像する。
魔力は循環するが獣化は起こらない。
「獣化しません」
「獣化しない場合は最初の感覚に合わせて、皮膚を固める想像、身体強化を固める想像、竜人であればドラゴンになる想像などで獣化する場合がある」
ベアトリクス様から聞いた方法を順番に試していくと、ドラゴンになる想像で体が作り変わるような感覚に襲われる。
手を見ると黒曜石のような鱗が生えている。
背中を見ると尻尾。
獣化に成功したようだ。
「成功したようだな」
「はい。助言通りに試したところ成功しました」
獣化した俺の周囲をベアトリクス様が回る。
「見える範囲は全て黒い鱗か。顔は人に近いが鱗はあるな」
「口の中は八重歯が伸びて牙のようになっています」
ベアトリクス様に牙を見せる。
「アイザックだとわかる程度で、顔はそこまで変化していないな」
「顔が誰かわからないほど変わるのですか?」
「ドラゴンの顔に変わる場合もある」
「獣化は個人差があるのですか」
「ああ。アイザックは尻尾のようだが、翼が生える者もいる」
尻尾は皆が生えるわけではないのか。
翼が生える人もいるとは。
尻尾も面白いが、翼が生えればさらに面白そう。
「翼があれば飛べるのですか?」
「人によるな、飛べる場合もある。ダンジョンで空を飛んでもあまり役に立たないがな」
「ダンジョンは天井が高いとはいえ、飛んで戦闘は難しそうです」
ダンジョンで戦う前提のベアトリクス様の考えはわからなくもないが、単純に飛んで楽しそうだというのが個人的には強い。
翼生えないかな。
「アイク、以前は気づかなかったけれど、角が大きくなっていない?」
翼が生えないかと背中に集中しているとクロエが話しかけてきた。
クロエの視線は俺の頭にある角の方向に向いている。
「角?」
全く気にしていなかった部位が大きくなったと言われて戸惑う。
上を見ても見えないため、角を手で触ってみる。
前頭部と側頭部の間くらいから生えている角は、緩やかに反っている。質感はガラスのように滑らかで、以前は手のひらより少々長い20センチほどだった。
獣化した角は手のひら二つ分を超えており、倍近い40センチほどにまで大きくなっていそうだ。
「自分では見えないが、触った感じは大きいな」
ベアトリクス様をみると頷いている。
「角が大きくなるのは珍しいな。あまり見ない」
珍しいのであれば翼が良かった。
翼から意識が離れない。
角が大きくなっても意味は何もなさそうだが一応尋ねてみる。
「角が大きいと何か利点があるのですか?」
「事例が少ないために確証はないが、力が強くなると言われている」
「力?」
「力」
ベアトリクス様が右腕を曲げ、上腕二頭筋を膨らませる。服の上からでもわかるほど筋肉が盛り上がる。凄まじい筋肉。
「力といえば、獣化すると筋肉が増えると聞きましたが」
「筋肉が増えるという認識に間違いはない。妾も獣化して筋肉は増えた」
「獣化で筋肉が増えるのとは別に力が強くなるという意味ですか?」
「その認識で間違いない」
普通の獣化は筋肉が増えて筋力が増えるが、角が大きいとより力が強くなるのか。
「もしかしてバンパイアを倒せた理由は角にあるんですか?」
「可能性がある。スクワットで試そうではないか」
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