第28話 ベアトリクスからの呼び出し
列車から駅へ降りる。
駅はすごい混み具合で、邪魔にならないように列車の前から足早で移動する。
約2週間ぶりに王都へ帰還した。
ダンジョン自体は王都を出てから一週間で倒されたが、深層ダンジョン討伐に集まった人の数は多い。皆が一斉に帰還できるわけもない。
拠点に集まった人の中にはダンジョンの後処理のため残る人や、拠点を発展させて街にしていくために残るものもいるが、大半の人は元いた場所に帰る。
騎士団と学園の生徒は帰還を優先されていたが、それでも拠点で数日待った。
「クロエ、パーシーまた」
「またね」
学生は駅で解散。
クロエやパーシーと別れ、夜の王都を徒歩で移動する。
駅が混みすぎており馬車や車を捕まえられなかった。駅から家まで少々遠いが歩けない距離ではない。
王都の街は街頭により明るい。
拠点は夜になれば星の光だけで真っ暗になっていたため、王都に帰ってきたのだと実感する。
ライナスと2人、久しぶりの自宅に戻ってくる。帰宅を出迎えてくれた使用人から手紙を渡される。
俺宛の王家の封蝋で止められた手紙。
開封して内容を確認する。
「ベアトリクス様から呼び出しか」
帰ってきて早々に呼び出し。
学園は4日休みだが、ゆっくりはできないようだ。
もっとも、拠点で散々休んでいたため、ダンジョン実習より疲れていなかったりする。移動疲れ程度で、体調はいい。
「アイク様、呼び出しの日付はいつになっておりますか?」
「いや、日付は書いていない。予定が空いている日を送れと書いてある」
「すぐに返信いたしましょう」
「ああ、今書いてしまうか」
書斎に移動して手紙を書く。
一ヶ月ほどの予定を記入すると手紙を封蝋する。
使用人に手紙を渡して王宮に届けるようお願いする。
手紙を持った使用人が書斎を出ていくのを見て、執務机の椅子に深く腰掛ける。
座り心地の良い椅子が体を包み込む。
もう何もしたくない。
「ライナス、色々と仕事が溜まっているが明日以降にしよう」
「はい」
テラパワーの仕事も溜まっているが、武具を一式作り直さなければならない。
クロエの大剣も作る必要がある。
次のダンジョン実習までに間に合わないかもしれないな。
王都に帰還して2日。
師匠の運転で王宮へと向かう。
もう少し後になると思っていたのだが、ベアトリクス様が指定してきた日は想像以上に早かった。
王宮前で車から降りると、同じように車から降りてくるパーシーとパーシーの従者がいる。
「パーシー?」
「アイク? もしかしてアイクもベアトリクス様に呼ばれたの?」
「ああ、パーシーもか」
「うん」
どうやら呼び出されたのは俺だけではなかったようだ。
行き先は同じであるため、二人でベアトリクス様の部屋へ向かう。
トレーニング器具に埋め尽くされたベアトリクス様の部屋に入ると、ベアトリクス様だけでなくクロエがいた。クロエ以外にもベアトリクス様の従者らしき人が複数いる。今日は部屋に人が多い。
「二人できたのね」
ベアトリクス様より先にクロエが話しかけてきた。
クロエは部屋の隅に追いやられた来客用のソファーに座っている。
「王宮の前で偶然あったんだ。クロエも来ていたのか」
「バンパイアについて話すなら皆が必要でしょう」
「今日呼ばれたのはバンパイアについてだったのか」
てっきりガトリングと装甲車についてかと思っていた。
それならパーシーとクロエがいるのも納得だ。
「バンパイア以外にも、アイザックの獣化について話を聞く必要がある」
ベアトリクス様が今日呼び出した目的を教えてくれる。
「獣化についてですか」
「そうだ。獣化後、何か変わったか?」
獣化後の変化か……。
「すぐに思いつくのは痩せていたのと、筋肉量が増えていた程度でしょうか。体調を回復させるのを優先していため、獣化した後の変化をあまり確認していませんでした」
死にかけていたのもあり、必死に食事を食べていたため体の変化まで気が回らなかった。
今は比較的健康な肉体になったが、以前よりまだ痩せている。食事量を増やしているのだが、筋肉量が増えたため代謝が上がってしまったようだ。思ったように体型が変わらず苦労している。
「獣化で筋肉量が増えるのは理解できるが、痩せた?」
「医者からはバンパイアと戦った傷が原因だと言われています」
「ああ、重傷を負って痩せたのか。妾も経験がある」
ベアトリクス様が痩せた理由に納得する様子を見て、ダンジョンだとよくあるのだろうかと想像してしまう。俺は獣化でかなり強くなった気がするのだが、それ以上にダンジョンのモンスターは強いのか。
ダンジョンは恐ろしい場所だ。
「妾が今見た限り、アイザックの魔力が増えているな」
言われて自分の魔力量を確認してみる。
改めて確認すると確かに魔力が増えている。
以前にベアトリクス様から獣化すると魔力が増えると言われたな。今の今まですっかり忘れていた。
「気づきませんでした」
「魔力はそうそう増えないため、魔力の増加は自分では気づきにくい。気にする必要はない」
魔力が増えたのは嬉しい。
遠距離魔法を使えるようになったかと魔力量をパーシーやクロエと比べる。
王族であるクロエに魔力が届かないのは当然だが、パーシーと比べても魔力が随分と少ない。
「思ったより魔力が増えていませんね」
覚醒者であればパーシーと似たような魔力になっているはず。
これは魔法を使えなさそう。残念だ……。
「覚醒者が獣化に成功するともっと増えるはずなのだが……」
「やはり自分は覚醒者ではないようですね」
「いや、覚醒者でない場合はもっと魔力が増える量は少ない」
通常よりは魔力の増加が多く、覚醒者にしては魔力の増加が少ない。
中途半端だな……。
「自分はどちらでもないわけですか」
「…………おそらく覚醒者でいいのだと思う」
ベアトリクス様の返事には随分と間があった。
言い淀むほど微妙な魔力量か……。
「魔力量は魔法が使えるほどまで増えていますでしょうか?」
俺としては覚醒者であるかどうかはどちらでもいい。
魔法が使えるかどうかだ。
「一回使えるかどうかまで増えている。ただ使うと戦闘に支障が出るかもしれない。微妙な魔力量であるな……」
「そうですか……」
またベアトリクス様から微妙な反応が帰ってくる。
話し方からして使わない方が無難だと言いたいように思える。
パーシーやクロエのように魔法を使えないのは残念。
いや、魔法を使えないかもしれないが、練習していざという時に使えるようにしておくべきか。
というか、魔法を使いたい!
ベアトリクス様との話が終わったらパーシーとクロエに相談してみよう。
「次はバンパイアについて聞こう」
獣化後の変化についての話は終わったようだ。
次はバンパイアについてか……。
戦いについて覚えてはいるのだが、なぜ勝てたのかは自分でもいまだによく分かっていない。しかし、今日呼ばれたのはおそらく、なぜ勝てたかは関係ないのだろう。俺が覚えている限りをベアトリクス様に伝える。
バンパイアを見つけた状況から、襲われ戦闘になっていく過程を話し、戦闘中の様子を事細かに話していく。
レイピアに刺されたあたりから血が足りなかったからか、記憶が曖昧な部分があると前置きする。獣化後に力尽くでバンパイアを両断、確実にとどめを刺すため首を落としたと話す。
全てを話し終えると、用意された飲み物を一口飲む。
俺の話を聞いていたベアトリクス様は腕を組んでおり、何かを考え込んでいる様子。
「アイザックの話には違和感を感じる部分が多いな……」
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