第211話 失敗か、成功か
報告するための資料を書き終える。
書き上げた資料を封筒へとしまう。
封筒に封蝋を押し、顔を上げる。窓から見える街並みが朝日に照らされている。
夜更けに帰ってきてから、徹夜で資料を書き上げた。
確定ではないが身分を知られてしまったため、急いで報告をあげる必要があった。
モンタギュー父さんとヴァネッサ母さんには、帰ってきた直後に報告してある。
書き上げた資料を持ってリビングへ向かう。
リビングにいたモンタギュー父さんがいた。
「アイク、書き終わったのか?」
「なんとか書き上げた」
「では届けてくる」
書き上げた資料が入った封筒を渡す。
モンタギュー父さんが封筒を手にして家から出ていく。
モンタギュー父さんが出ていくと同時にバネッサ母さんが台所から出てくる。
「アイク、モーリスとタッカー様には連絡しておくので少し寝なさい」
飲み物の入ったコップを渡してくる。
「わかった。ありがとう」
まだ活動できるくらいには元気だが、寝られる時に寝ておいた方がいいか。
もらったコップを空にして自室に戻る。
「アイク」
誰かに呼ばれて目をさます。
カーテンを開け、窓から外を見ると太陽が真上にある。
どうやら昼過ぎのようだ。
寝ぼけた頭で部屋の扉を開ける。
部屋の前にはモンタギュー父さんがいた。
「おはよう」
「おはよう。皆が集まった。すまないが報告を聞きたい」
「わかった」
報告の前に顔を洗い、目をさます。
リビングに戻ると皆が集まっている。
「お待たせしました。始めましょう」
俺が椅子に座ると皆が頷く。
「魔力が抑えきれず、魔力が露見したとヴァネッサから聞き及びました」
タッカー様が尋ねてくる。
「はい。元々、自らが手入れしたバトルアックスが元で身分が怪しまれていました。直接聞いてはいませんが、騎士であるのが露見しているでしょう」
「口止めはいたしましたか?」
「口止めはしていますが、絶対に安全とは言い切れません」
相手はギャング。絶対はない。
「絶対でないにしろ、口止めされたのなら話し合っている時間はありますか」
「はい。話し合っている時間はあると思います」
「それでは最初から話をお聞きしたい」
「まずは前回チェスターと会った路地裏に向かい——」
チェスターと会ったところから、国家錬金術師のメイソンに会って起きた出来事を語っていく。
長い話になったが、全てを話し終える。
「——最後にアダマンタイトを曲げて見せ、報酬を約束して屋敷を出た」
俺が話し終えると、タッカー様が頷く。
今更だが、報酬となるアダマンタイトを曲げて見せない方が良かった気がする。曲げられるような金属では報酬として不適当と思われていそうだ。
「報酬の約束は口止めになりそうです」
モーリスが首を横にふる。
「タッカー様、そもそもアイクの隠していない魔力を見て、逆らおうとは思いません」
「そういえば、アイザックの魔力量は記憶にありません」
タッカー様と魔力を抑えないで会ったのは随分と前。
しかもドラゴンになる前であるため、少し魔力が多い程度だった。王族に囲まれれば特段多くはなく、気づかない程度の量でしかなった。
「アイクは王族と同等の魔力量です。確実に貴族関係者であるとは思われているでしょう」
「それは逆らう気にならない。そんなに魔力量が多かったのですか?」
「ドラゴンになって以降増えています。しかも目の前でアダマンタイトを曲げたとなれば逆らう気にはならないでしょう」
「ああ、それは恐ろしかったであろうな」
なぜか化け物みたいな扱いをされている。
魔力量に関してはクロエやパーシーほどではない。それにアダマンタイトを曲げられる人は騎士団にいると思うのだがな。
いや、騎士団基準がいけないのか……。毒されているな。
「失敗したと聞いていましたが、むしろ成功といっていいのではないでしょうか?」
「フラワーオウルの内情を知れたのは大きい」
「はい。王宮におられるフランク王太子殿下が対応してくれるでしょう」
モーリスと喋っていたタッカー様が俺を見る。
「私も成功であると思えます。我々は素人で、全てをうまくこなせるわけではありません。それよりも失敗を恐れ、エリクサー・ラボラトリーを見つけ出せない方が問題だと考えます」
「その通りかもしれません。失敗を恐れすぎていたようです」
失敗を恐れすぎてはいけない。
俺たちが失敗しても他がいる。
「我々は助け合うために複数人で潜入しています、まずは相談いたしましょう」
「はい」
判断を間違った時に正してもらえるというのは助かる。
「今回の情報から次にどう動くか決めましょう」
モンタギュー父さんが頷き、俺を見る。
「動きというか、今後はフラワーオウル王国と本格的な協調がしたいところだ」
「協調に関しては残念ながらフラワーオウル王国次第としかいえない」
「我々が交渉できそうな相手は、メイソンの師匠であるセオドアという人物か」
「メイソンに聞いた限り、セオドアとは会えるかわからない」
会って話をしたいが、相手は王族。
簡単に会える相手ではない。
「今のところは王宮に滞在しているフランク王太子殿下に期待するしかないか」
潜入中はギルド員という立場上、残念ながら貴族や王家とのつながりがない。
「国以外だと、ギャング関連も今は大人しく待っていた方が良さそうだ」
今はチェスターの邪魔をしたくない。
信用しきれないところはあるが、セオドアを怖がっていた様子から調べはするだろう。
「となるとデュロック関連も任せている。情報は増えたが動きようがない」
モンタギュー父さんが腕を組んで唸る。
「そうですね。残念ながら手の出しようがなさそうです」
タッカー様も同意する。
待ちの状態になってしまった。
「また町中を歩き回るしかないのか?」
今のところ街中を歩いて情報拾えたためしがないのだよな。
モンタギュー父さんとタッカー様はギルドで酒を飲めるようなったので、そちらに期待だろうか……。
「スペンサーをこちらに招き入れるというのを試してみませんか?」
ヴァネッサ母さんが案を出してくれる。
「そういえばスペンサーは鍛えながら様子を見るんだったっけ」
ダンジョン討伐では少々やりすぎた。
スペンサーにギルド員かどうか疑われている可能性がある。
「ええ。今は体力作りを中心に鍛えていますが、今のところは何も尋ねて来ません」
「つまり疑われていない?」
「いえ、余裕がないのでしょう。最後は地面に倒れ込んだ状態で終わります」
学園式の体力作りとなれば、一日中走らされる訓練。
最終的には甲冑を着込んだ状態で1日走り切れるまで続けられる。
慣れれば甲冑を着込んで走り回っても楽なものだが、慣れていない状態では地獄。
まだ初めて数日。疑問を感じても聞く余裕もないだろうな。
「スペンサーは訓練を続けそう?」
「今のところは続ける気があるようです。それにギルド員として戦えるのもあって、最初から甲冑を身に付けない状態であれば半日程度なら走れます」
「すごいな」
思った以上に体力があるようだ。
それに自ら進んでやりたい訓練ではない。
「以前にクロエ殿下からアイクは普通に走っていたと聞きましたよ?」
「他より多少余裕があった程度だ」
「手を抜いていたとも聞きました」
色々と聞いているようだ。
ここは話題を逸らすしかない。
「ちなみにスペンサーは今も走ってたりするの?」
「一緒に走っているため、今日は休みにしました」
「まだ一人で走らせるのは不安か」
「そうですね」
走り切れない状態では、倒れた時に不安が残る。
学園でも講師が一緒に走っていたからな。
「それじゃ明日、俺も一緒に走って様子を見てみる」
「分かりました」




