第21話 騎士団からの命令
ダンジョンの中層に行ったダンジョン実習から数ヶ月がたった。
学園に登校するといつもと雰囲気が違う。
見かける教師たちの顔が険しいように思える。何かあったのか?
教室に入るとクラスメイトも戸惑っている様子。
「パーシー、雰囲気が変だが何か知っているか?」
「僕にもわからないよ」
パーシーが知らないとなると……自然に視線がクロエに向く。
「すぐにわかるわ」
クロエの言った内容から事情を知っているのだと察する。
内容については話す気がないのか口を閉じてしまった。教師を待つしかないようだ。
待つといっても最初の授業はもうすぐ始まる。じれったくはあるが待つしかない。
クラスの全員が学園の雰囲気に当てられたのか、席に座って教師が来るのを待っている。会話もまばらにしかしていないためとても静か。
廊下から足音が響いてくる。
教室のドアを開けたのは教師。教師は教壇の前に立つと、全員の顔を確認するように教師を見回す。
「今日から4日間、授業を中止する」
4日も授業を中止?
4日どころか授業の中止を初めて聞く。
仮にダンジョン実習にしても変だ。不規則に発生するダンジョン実習後には休みがあるが、ダンジョン実習前には休みがない。
普段とあまりにもかけ離れた状況に戸惑う。
「4日後、騎士団が深層ダンジョンの討伐に向かう」
深層ダンジョンの討伐。
ダンジョンが人類の土地を奪おうとさまざまな場所で発生して攻撃してくるように、セリアンスフィアの人類は完全に根を下ろした深層ダンジョンを討伐しようと攻撃する。
深層ダンジョンの討伐は人類が攻撃側でダンジョンが防御側になる。
「騎士団より学園は深層ダンジョン討伐の助力を命じられた」
命じられたとは穏やかじゃない。
そもそも、深層ダンジョンに学生を連れて行って役に立つのか?
「学生はダンジョンから外に出たモンスターの討伐を引き受ける。わかっていると思うが、深層ダンジョンから外に出るモンスターは中層以降のモンスターも混じっている」
ダンジョンは成長が終わるとモンスターが違う階層にまで移動する。普段は1層のモンスターが外に出ているだけだが、中層以降のモンスターが地上まで移動する場合もあると教わっている。
深層のモンスターはあまり出てこないと教わっているが、絶対ではない。
正直、ダンジョンの外だとしても行きたくはない。
「ダンジョンの外でモンスターを討伐するのは学園の生徒だけではない。むしろ学園の生徒は討伐の手伝いだと思っていて欲しい」
いつものダンジョン実習より何倍も危険だが、俺が中層で戦った限りは学生が全く役に立たないとは思わない。
騎士団が学園に命令を出すのも理解できる。
理解できても行きたくはないのだが……。
「4日間鍛錬はしても構わないが、4日後に支障が出るような鍛錬はしないように」
教師は質疑応答の時間をとった後、質問がなくなると教室を出て行った。
さすがにクラスが騒がしくなる。
興奮する者や不安そうに話す者など、反応は人それぞれ。
「アイク、移動するわよ」
「クロエ?」
「教室では話しにくいわ」
クロエを先頭に移動する。
移動した先はパーティーで使用している部屋。
「それで何か話があるのか?」
「さっき学園の生徒は討伐の手伝いだといっていたけれど、私たちの場合は前に出る機会が多いわ」
あ、魔力の多いクロエとパーシーがいるからか。
少し考えれば意味を理解できる。
「まさかダンジョンの中に行ったり?」
「それはさすがにないわ。ダンジョンの中に入るのは、騎士団の中でも先鋭だけだそうよ」
「さすがにないか。良かった」
本当に……本当に良かった。
中層のモンスターは学園で少し教わるが、深層のモンスターは触り程度でほとんど教わっていない。
触り程度で教わるのは深層のモンスターが魔法を使うという知識だけ。モンスターごとに固有の魔法らしく、どのような魔法を使うのかまでは教わっていない。
魔法を使う深層のモンスターは俺と同じか、俺以上の魔力を持っているのは間違いないのだろう。中層のモンスターは魔力量で押し切れたが、同じか同等以上の魔力を持っている相手では押し切れない。
技量が生死の差を分けるとしたら、戦いたくない相手だ。
「それとアイク、トリスからガトリングはどうなっているか聞かれたのだけど」
「ああ、テラパワーで試作しているはず」
「使えそうなら持っていくようにと言われたの」
低層のモンスター限定だが、魔力を使わずに倒せるガトリングを持っていかない理由はないか。
「試作とはいえ前回使えたから撃てる状態ではあると思う。テラパワーに行って聞いてみるか」
「あ、それなら私も一緒に行きたい」
「クロエも?」
パーシーならまだしも、クロエがテラパワーに行きたがるのは珍しい。
「武具のメンテナンスをお願いするわ」
「ああ、俺もお願いするか。いつも通りにメンテナンスはしているが、もう一度お願いしておこう」
今度は学園からテラパワーの社屋へと移動する。
テラパワーに着くとハーバートの研究室に向かう。
「ハーバート」
「あれ? 今日お休みでしたか?」
「学園が臨時で休みになっただけで平日だ。……ハーバートもしかして休みとっていないとは言わないよな?」
「ハハハ。トッテマスヨ」
ハーバートがあからさまに目をそらす。
テラパワーは休みを多くしているのに、研究室に住んでないよな……。不安になりつつも今は問い詰めている暇がない。
「まあ、いい。ガトリングどうなっている?」
「評判が良い試作品を10丁作りました。耐久試験を10丁でする予定です」
10丁か。
多いとはいえない数だが、以前は1丁しかなかった。増えているだけよしとする。
「ガトリングを借りたい」
「試作品でよろしいので?」
「ああ、4日後に騎士団が深層ダンジョンの討伐に向かう。学園の学生も参加するようにと命じられた」
ハーバートの目が見開かれる。
「アイザック様も深層ダンジョンに?」
「もちろん」
「それはいけない。全てのガトリングと弾薬をお渡しします。弾薬は百万ほど用意してあります」
「すまないな。今回は使い勝手がどうだったか報告する暇がないかもしれない」
「ガトリングはまた作れば問題ありません。それよりも無事に戻ってきてください。まだアイザック様と一緒に作りたいものがあります」
「わかった」
ハーバートに心配されるとはな。
ダンジョン向けの道具を作っているハーバートは、深層ダンジョンの恐ろしさをよく理解しているのかもしれない。
研究室にあるガトリングと弾薬を鞄にしまい、次は武具のメンテナンスを頼みに行こうとすると、ハーバートに止められる。
「そういえばジェームスさんが装甲車作ってましたよ」
「師匠が?」
「実験棟に置いてあるので多分動くと思いますよ」
「そうか。師匠に聞いてみる」
予定を変更して師匠の研究室へと向かう。
「アイザック、なぜテラパワーに?」
「実は——」
師匠にも騎士団からの命令を伝える。
「ハーバートから装甲車があると聞いたのですが」
「ああ、実験で作った四輪駆動の車両か。動きはするので持って行っても構わないが、鞄に入るものではないぞ?」
「そうですね……」
車が鞄の中に入るわけもない。
「深層ダンジョンの討伐には専用列車を走らせるから、貨物を連結させればいいわ」
話を聞いていたクロエがどうすればいいか教えてくれた。
「なるほど。俺からベアトリクス様にお願いをすればいいかな?」
「私がお願いしておくわ」
「お願いするよ」
装甲車が運べる前提で、装甲車の走らせ方を師匠から教わる。
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