第209話 メイソンの師匠
俺の師匠と違ってメイソンの師匠は随分と厳しい人のようだ。
錬金術師の師匠に殺されるか……。ああ、もしかして錬金術と戦闘の両方を極めているというのはメイソンの師匠なのか。
予想通りであるならそら怖いか。
「は、そうだ! フラワーオウルと連絡を取り合っているのだな?」
メイソンが少し離れていた距離を詰めてくる。
「教えられない」
「連絡を取り合っていると言っているも同然ではないか。私がエリクサー・ラボラトリーと関わっているなどと報告は決してするな。まかり間違って師匠に疑われるわけにはいかない!」
メイソンは俺の肩を掴んで必死な様子。
肩を掴んでいる力の強さは一般的な人と変わらない。攻撃する意図はないようだ。
「申し訳ないが何も教えられない」
関わっている可能性は低いと思っているが、報告内容を他者に教えるわけにもいかない。
「どうする、どうする」
メイソンはよほど師匠が怖いようだ。
師匠が怖くて潜りの錬金術師なんかよくできるな。
「メイソン、肩から手を離してもらえるか?」
メイソンが素早く肩から手を離す。
「興奮しすぎた。すまない」
「構わない。ところで俺に協力する気はあるか?」
「協力?」
「エリクサー・ラボラトリーを探す協力だ」
チェスターのギャングが怪しいと思っていたが、実際のところは関係がないように思えてきた。
今は興奮剤を売買している組織が怪しいように思えている。
怪しい組織を調べたいが、部外者である俺が調べ回っては警戒されて情報が集められないのが想像できる。
「なるほど、協力すれば疑いが減る」
「待て、メイソン。組織の方針を一人で決めるな」
今まで話を聞いているだけだったチェスターがメイソンを止める。
今更ながらチェスターが大人しく聞いていたのが驚きである。
「私は組織が動くべきだと思っている。もし組織が動かないのであれば私一人でも協力する」
「メイソンが手伝えば組織が動いていると認識されかねない。なぜそこまでこだわる?」
メイソンの危機感がチェスターと共有できていないようだ。
エリクサー・ラボラトリーについて詳しくないのだろうか?
「メイソンは私の師匠を知っていたはず」
「それはもちろん」
「師匠は好き勝手やらせてくれる方ではあるが、エリクサー・ラボラトリーに関しては本気で怒る。弟子がいようと組織を潰す」
メイソンの話を聞いたチェスターの顔色が青くなる。
ギャングを潰せるとは、メイソンの師匠は何者なんだ……?
「メイソン、アイザックを完全に信用できない。協力してはまずい相手の可能性はないのか?」
「それは……」
チェスターから視線を向けられる。
「俺もメイソンとチェスターを完全に信用できていない。お互い様だな」
「身分を証明できるものはないのか?」
「持ってはいるが、出したところで意味がわからないだろう」
国が違えば身分を証明する物が違う。
それに持っているのは騎士や貴族の身分証で出すわけにもいかない。
「師匠からエリクサー・ラボラトリーの関係者か見分ける方法は教えられた」
「メイソン、どのような方法だ?」
「獣化すればわかる」
「いや、普通は獣化できないだろうが」
チェスターがすぐに突っ込む。
獣化か。
確かにエルモアとディランが獣化した時は独特の雰囲気だったな。
獣化が証明のなるのならば、見せてもいい気がする。
「獣化できるぞ」
「だろ……う?」
チェスターがゆっくりと俺を見る。
「…………聞き間違えたか? できると聞こえた」
「できるぞ」
「はあ!?」
「身分の証明になるのなら獣化して見せよう。代わりに獣化については秘密で頼む」
チェスターは口を大きく開けて固まっている。
仕方がないのでメイソンを見ると頷いた。
「この場にいる3人の秘密にする」
相談もなくチェスターが含まれている。
メイソンは客に対する対応はできるようだが、どこかハーバートを思い出す自由さ。
有能な錬金術師はどこかネジが飛んでいる。
「チェスター、いいか?」
「あ、ああ」
チェスターがぎこちなくではあるが、頷く。
動揺しているようだが、頷いたのならいいだろう。
上着を脱いで机の上に置く。
「それでは獣化する」
手に鱗が生え、背中には翼と尻尾が生える。
獣化した瞬間、魔力が溢れてしまう。
「おっと」
慌てて魔力を抑え込む。
「お前、その魔力は……」
チェスターとメイソンが目を見開いている。
誤魔化せないよな。
顔をしかめる。
「失敗したな。獣化すると制御が難しくなるとはな」
「……魔力を押さえ込んでいたのか」
「そうだ」
「騎士、いや、もっと上の魔力量じゃねえか」
正解を答えずに肩をすくめておく。
「驚いた。本業は錬金術師ではなかったのか」
「錬金術師もやっている」
会社経営ばかりしているが、錬金術師であるつもりだ。
「メイソン、それで分かったのか?」
「エリクサー・ラボラトリーの関係者ではない。普通の魔力だったろう?」
「魔力に差があるのか」
「モンスターに近い雰囲気となる。師匠から魔力に混じる呪力量が増えるのだと教わった」
モンスターに近い雰囲気。確かにそうだ。
しかし、メイソンは随分と詳しい。
「……メイソンの師匠には逆らいたくない。組織として協力しよう」
チェスターが頭を下げて項垂れる。
本当にメイソンの師匠は何者なのだろうか。
「聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「メイソンの師匠は何者なんだ?」
チェスターとメイソンが顔を見合わせる。
「メイソンがいうべきだろう」
メイソンが頷く。
「セオドア・オブ・フラワーオウル。王家に連なる錬金術師です」
「王族!? 王族の弟子がギャングにいるのか!?」
「師匠は誓いさえ守れば放任主義です」
放任主義とはいえ、ギャングに所属するか?
好き勝手しすぎだろう。ハーバート以上の逸材かもしれない。
「メイソンについては気にするな」
「いいのか?」
「許可は直接もらった」
チェスターが疲れた笑顔を浮かべている。
許可をもらいに行ったのが誰か想像できる。
「そ、そうか。……それなら、他にも聞きたいのだがいいか?」
メイソンについては触れない方が良さそうだと感じ、話題を逸らす。
「答えられる内容であれば答える」
「フラワーオウル王国側からもらっている情報が少ないと考えていたのだが、理由はわかるか?」
チェスターがメイソンを見る。
「おそらくフラワーオウルはスカーレットドラゴン王国を信じられないのでしょう」
「国に招き入れておいて、信じきれないのか?」
「フラワーオウルとエリクサー・ラボラトリーとの戦いは1000年近い。いつの間にか味方が寝返ってしまったという状況すらあったらしい。年月を重ね、フラワーオウルは他国を信じきれなくなった」
他国との交流をほぼなくしているのは、エリクサー・ラボラトリーとの戦いに疲弊したためか。
重度の人間不信のようなもので、随分と根が深そうな問題だ。
「しかし、協力がなくてはエリクサー・ラボラトリーを倒せない」
「同意しますが、残念ながら私は国の方針に関しては何もできない」
「メイソンの師匠に連絡はつかないのか?」
メイソンの師匠に触れないつもりだったが、聞くしかない。
「連絡はしてみますが、会えるとは限りません。期待しないでほしい」
「もちろん」
王族相手では会えずとも仕方がない。
「それよりもギャングに対して探ってみましょう。チェスター頼めますか?」
「抗争にならん程度に探るか……。しかし、どう探ればいい?」
30もあるギャングを情報もなく探るのは難しいか。
「最近スカーレットドラゴン王国からギャングに合流した人を探してほしい。それとディランという商人が出入りしていたギャングがないかも調べてほしい」
チェスターにディランについての情報を話していく。




