第19話 タウンハウス side デレク
お祖父様と共に、魔石列車から王都の駅へ降りる。
複数の列車から吐き出される蒸気で駅はうっすらと白い
王都の駅は足早に歩く多くの人で溢れている。男性はスリーピースのスーツを身に纏い、女性はドレスやジャケットを身につけている。
田舎のアックスオッターと違い、皆が洗練された服を着てどこかを目指している。
「ふん」
以前と違い王都が気に食わない。
本来アックスオッターも王都に負けない都市になっていた。
領地の立地はとてもいいというのに、父は少額の予算しか領地の発展に使おうとしなかった。大半の予算は騎士団やダンジョンに回され、残った予算で道や上下水道の整備をすれば、残るのは雀の涙ほどの予算。
雀の涙ほどの予算で領地が発展するわけもない。
予算の使い方として道の整備はまだいい。しかし、騎士団やダンジョンに回す予算が多すぎる。
昔と違い銃が急速に発達しており、ダンジョンに割く予算はもっと減らしても問題ない。
予算さえあれば、アックスオッターは王都を超えた都市にさせられる。
私がアックスオッター家に迎え入れられる前、会社を経営する祖父様から教わった経営方法を領地の経営に使えば、すぐにでも領地を発展させて王都を超えられる。
領地の発展のため、予算を変更するよう父と兄に説いた。
父や兄からの返事はとりつく島もないほどの拒否。
しかも父は私を引き取ったのは騎士にするためだと、毎日何時間も走らされ筋力を鍛えさせられた。しかも訓練には身体強化を禁じられ、魔力の多い竜人の特徴を無駄にしていた。
貴族と認められるため王立魔法学園に行かなければならないのはわかる。貴族になるためになぜ何時間も走らされ、筋力を鍛えなければならない?
父や兄に聞いてもダンジョンでの危険を話して、死なないようにとしか言わない。
——アックスオッターのために無能を殺した。
スカーレットドラゴン王国の貴族は生ぬるい。
何が一族のため、人類のためだ。
会社を発展させるためなら身内であろうと殺す。私のお祖父様は身内を殺して会社を奪い発展させた。小さな会社しか経営できない者たちは陰でお祖父様を親殺しと呼ぶが、考えが甘いから会社を大きくできない。
「お祖父様は私がアックスオッターを発展させるため、行動に移すのをすぐに認めてくださいましたね」
「儂の知識はデレクに全て教えておる。その判断に間違いはない」
コウモリ人のお祖父様はスリーピースのスーツを着て、ステッキを握っている。
昔は自分と同じ灰色の髪だったが、今は真っ白になっている。
私もお祖父様と同じような服装を好む。お祖父様は私の姿を見て、昔の自分にそっくりだとお祖父様は喜んでくれる。
信頼するお祖父様に王都を超えるアックスオッターを見せる。
「お祖父様の知識でアックスオッターを発展させて見せます」
お祖父様が私を見て笑う。
「楽しみじゃ」
本当に楽しみで仕方がない。
私の知識でアックスオッターを世界で一番発展した都市にする。
「まずは最短で学園を卒業し、爵位を継承します」
学園を卒業しなければ爵位が手に入らないのは面倒でしかない。
貴族は非効率な決まりが多すぎる。
「王都で暮らす家を用意せねばならんな」
「まずはアックスオッターのタウンハウスへ向かいます」
弟のアイザックはおそらく王都にいる。
「弟に会いに行くのか?」
「ええ。アイザックに顔を見せて、食事に誘いましょう」
「それはいい。友好を深めねばな」
お祖父様は意図を理解した上で自然に笑う。
アイザックは私から食事に誘われれば、以前のように顔を白くするだろう。
楽しみだ。
食事に致死量の毒を混ぜてなぜか生き残ったアイザックは錬金術師になりたいという馬鹿だった。馬鹿ではあるが、ひたすら鍛えるのを強要した父と兄に比べれば話が通じる相手ではあった。
貴族にならないのなら使い道はある。
それに、もし邪魔になっても、錬金術師であれば消しようなどいくらでもある。
用意された車に乗りアックスオッターが所有するタウンハウスへと向かう。
王都に走る車の数や建物の高さを見ながら、すぐに追い越して見せると心の中で誓う。
初めて訪れるタウンハウスはアックスオッター家にしては大きい。
レンガ作りで四階建といったところか。
父と兄の様子から小さな家をタウンハウスにして満足しているのかと思っていたが、周囲にある他家のタウンハウスと遜色ない大きさ。
「思ったよりも立派です」
「アックスオッター家が昔から所有しているのであろう」
「そうかもしれません」
アックスオッターにも普通の感性を持った当主が昔はいたのだろう。
「外見は良くとも、中はひどいものかもしれないな」
「ありえます」
手入れを丁寧にしているとは思えない。
確認するため、タウンハウスの扉を開け放つ。
アックスオッター家の資産は全て私のもの。ノックなどしない。
「出迎えもなしか」
扉を開けてしばらく待っても人が出てこない。
アイザックが留守にしているとしても使用人はタウンハウスの中にいるはず。
使用人の躾もできていないのか。
「誰かいないか」
仕方なく声を張って使用人を呼び出す。
「どなた様でしょうか」
出てきたのは老人。
王都のタウンハウスに来たのは初めてであるため、使用人が私の顔を知らないのは不思議ではない。
しかし、主人が名乗らねばいけないとは……。
「私はデレク・オブ・アックスオッター。アックスオッター家の資産を引き継いだ私が現在タウンハウスを所有している」
「デレク様、失礼いたしました」
使用人が深々と頭をさげる。
出迎えはなかったが、頭をさげる程度の躾はできているか。
「これよりタウンハウスは私が管理する。アイザックはどこにいる?」
「アイザック様はタウンハウスからお引越しになられました」
「引っ越した?」
「貴族を辞めるので、アックスオッター家とは関係のない場所で生活すると出ていかれました」
そこまで錬金術師になりたかったとはな。
アイザックを管理するため、王都のタウンハウスに閉じ込めるつもりだったのがだな。
アイザックとともに暮らしたくなどないため、私が王都で暮らすタウンハウスは別で用意するつもりで計画していた。
「引越し先は?」
「申し訳ありません。私はアイザック様のお住まいを存じ上げません」
連絡先すら残していない?
錬金術師になろうとしたわけではなく、私から逃げたか?
アイザックは私の意図をよく理解しているな。このまま放置してもいいが、王都であろうと探して探せないわけではない。
「そうか。アイザックの引越し先が分かり次第教えろ」
「承りました」
アイザックに釘を刺してタウンハウスを出ていくつもりだったが、気が変わった。
誰も住んでいないのであれば、住む家の選択肢として悪くはない。
「タウンハウスの中を案内しろ」
「承知いたしました」
使用人に案内されタウンハウスを見て回る。
予想通りに調度品は素質。趣味が悪いというか古臭いものが多い。
しかし、タウンハウスの作りはそう悪いものではない。改築すれば私が住んでも問題ない程度の作り。古臭い調度品も新しく買い換えればいい。
「お祖父様、タウンハウスを新しく用意するつもりでしたが、アックスオッター家所有のタウンハウスを改築しようと思います」
「いいのではないか」
伯爵が住むような格のタウンハウスの売りは少ない上に、すぐに売ってもらえるかが怪しい。アックスオッターを発展させるため忙しいのに、王都に来たのは物件を見て回るため。
手間をかけて買えるかもわからない物件を回るのは手間でしかない。
時間は有限。
アックスオッターのタウンハウスに住むと決めたのなら改築する。
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