第13話 洞窟の中にあるダンジョン
俺ではなく、クロエとパーシーの魔力が目的か。
騎士団がいて俺たちを主戦力にはしないのは当然。
クロエとパーシーの顔を伺うと頷く。二人は中層に行く気のようだ。
「分かりました。お受けします」
「そうか、助かる」
しかし、騎士団がいて俺たちがいく必要があるのか。
ベアーレイクは領地が小さいとはいえ、騎士団は存在している。当然騎士団に所属する騎士もいるはずで、実践経験の豊富な騎士がいるのに俺たちの魔力を当てにする。
「ベアトリクス様、今回のダンジョンは深いのですか?」
「ああ、今回のダンジョンは深層までは行っていないと思うが、かなり深い可能性がある。随分と発見が遅れてしまったようだ」
深層にまでダンジョンが成長するのは10年単位で放置した場合。開拓された地域で新しく見つかるのは珍しい。中層の場合は一年ほど放置すると中層に達すると言われている。
よほど不便な場所ならまだしも、街の近くで中層にまで成長するのは珍しい。
「それほどまで発見が遅れたのですか」
「明日現地で確認するが、洞窟の中にダンジョンができたと報告を受けている」
洞窟の中にダンジョン?
ダンジョン自体が洞窟のような物なのにな。
特殊なダンジョンの発生方法と授業で習った気もするが、実際に見るのは初めてだ。
「ダンジョンの発生方法として教わりはしましたが、実際にあるのですね……」
「妾も聞いてはいたが実際に遭遇するのは初めてになる」
ベアトリクス様でも初めて遭遇する発生方法のダンジョンなのか。
ダンジョン軽視の考えが広まっているのかと一瞬邪推しまったが、そうではなく分かりにくい場所にできただけか……。
「さて、クロエ、アイザック、パーシヴァル。明日は妾の指揮下に入ってもらう」
「了解しました」
「学園には妾から伝えておく」
「はい」
忙しいベアトリクス様の邪魔しないように部屋を退出する。
テントに戻ると夕食ができていた。薄暗くなってきた中、作られた食事を星空の下でゆっくりと食べる。
日が出る前に起きる。
すでに用意されていた朝食を取って、体調に問題がないか軽く動いて確認する。問題がないとわかったところで持ってきた装備を着ていく。
全ての武具を着て動きに支障がないと確認できたところで準備は完了。
学園の学生は集まって点呼を取られる。
「アイザック、クロエ、パーシヴァルは騎士団に合流」
「はい」
「騎士団はベアーレイク男爵の館に集まっている」
教師から言われた通りに騎士団の元へ向かう。
「ベアトリクス様」
「きたか。すまない、少し待ってくれ」
「はい」
騎士団の準備が終わったところで、ダンジョンに向けて移動が開始される。
先頭をいくのはベアーレイク男爵が率いるベアーレイク騎士団。
湖に近づくと大きな船に乗り始める。歩いていくのだと思っていたが、水の上を移動するのか。重い装備をつけて船に乗るのは怖いが、船は大きくそうそう沈むようには見えない。
いくつかの船に分かれて乗ると出航する。全ての人が乗れていないが、船が何度か往復するのだろう。
海とは違い湖のため波もそうなく、揺れが小さく船は快適。
「洞窟が見えてきた! ベアーレイク騎士団、下船準備!」
ベアーレイク騎士団が大声を出す。
……え? 街の周囲はなだらかな湖畔だったが、今いる場所は崖のようになっている。崖は直角ではなくそう高くはないため、登れなくはないだろう。しかし、崖から水の中に落ちれば溺れて死にそうだ。
「ええ……? 崖を登るのか?」
「アイク、崖に穴が空いている」
隣にいたパーシーが崖の方向を指差している。
指の先を確認すると確かに崖に穴が空いていた。
「洞窟ってそんな場所にあるのか」
船は崖の穴に徐々に近づいていく。穴が先の見えない暗い洞窟であるのがわかる。
船が洞窟に着岸すると、ベアーレイク騎士団が降りると武器を抜いて飛び降りていく。飛び降りると大きな音が洞窟内に響く。
「あかりをつけろ!」
ベアーレイク騎士団が指示を出すと、光が灯り始めて周囲を照らす。
洞窟の奥には猪に似たモンスターが大量にいた。ファングボアだ。
音と光に反応したのかファングボアが凄まじい勢いで船の下に駆け込んでくる。
思わず顔が引き攣る。
「いくぞ!」
ベアトリクス様が叫ぶと船から陸に降りる。
俺も慌てて船から降りる。
いきなりの乱戦に混乱しながらもバトルアックスを抜いて戦う。魔力を節約するため、身体強化は使わないでモンスターを倒していく。
ファングボアはダンジョンの外にいるモンスターでそう強くはない。地球の猪とそう変わらないのではないだろうか。
……いや猪は強いか。感覚が麻痺してきているな。
クロエは大剣を振り回し、パーシーもメイスを手にして戦っている。ライナスを含め従者たちも余裕がありそうだ。
皆に余裕がありそうなため、盾を使わずにバトルアックスのみで倒すのを優先する。
ファングボアの数が減ってくると周囲を見回して現状を確認する。
騎士団の騎士たちも魔力を使っていないようだが、身体能力だけで大量のファングボアを血祭りにあげている。
騎士の動きに無駄がなく、力の差を感じる。
最後であろうファングボアが騎士によって倒される。
「終わったか」
「終わってみればあっさりしたものだね」
パーシーがメイスを振ると付いていた血が飛び散る。
血が湖へと流れ、水を赤く染めている。
「もう少し説明が欲しかった……」
大きくため息をつく。
「わかる。けど洞窟の中にダンジョンがあるなら、洞窟にモンスターが溜まっているのは予想できたかも」
「ああ……確かに」
予想はできるかもしれないが伝えようよ……。
事情を聞こうとベアトリクス様を探すとベアーレイク騎士団の方で何か話し合っている。ベアトリクス様はヘルムを脱いで、真剣な表情。
俺は嫌な予感がして話しかけるのは後にする。
「モンスターを回収しておくか」
血の匂いでモンスターが寄ってくるような場所ではないが、倒したモンスターは全て鞄の中に入れてしまう。
数が多いため、この場で全て解体するのは難しいだろう。
ファングボアを回収する間にも船は往来して洞窟の中に騎士や学生が増えていく。全員が入ると身動きが取れなくなりそうだ。
「学生はダンジョンに入って低層のモンスターを討伐する!」
教師が声をあげると学生が動き出す。
ダンジョンは洞窟の奥にあるようで、人が洞窟の奥に吸い込まれていく。
「アイザック」
同じ学園の生徒を見ていると横から声をかけられ、顔を横に向ける。
「ベアトリクス様、話はもう宜しいので?」
「ああ」
ベアトリクス様は頷きながらも不満があるのか眉間に皺が寄っている。
「何があったのです?」
「洞窟の対処方法について齟齬があった」
齟齬か。
「もしかして降りて戦うのではなかったのですか?」
「モンスターは大半が泳げないため、水に落とす予定だった」
「なるほど」
モンスターは水に浮かないため金槌。
ダンジョンが発生した場所が水辺に近い場合、最終手段が水責めとなる。大量の水が必要になる上に、ダンジョン破壊後に水が逆流するため洪水になりやすいのが欠点か。
あれ?
「ベアトリクス様、湖に近いためダンジョンに水を流し込めそうですが、このダンジョンは何故水責めしなかったのですか?」
「洞窟自体に湖に対する下り坂の傾斜がある上に、奥行きが意外にある。ダンジョンまで水を流す場合、大きなポンプが必要となる」
言われてみれば洞窟は奥に向かって上り坂になっている。
直接ダンジョンに水を流し込まなければ水責めはできないか。
「崖にある洞窟のため、大きなポンプを運び込むのが大変ですか」
「王都でポンプの準備はさせている」
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