第10話 欲しいもの、作りたいもの
慌ただしい日々が若干落ち着き、新しい家にも慣れてきた。
少し余裕が出てきたので、今のうちに身を守るためにテラパワーの資金と人員を増やして会社を大きくする。テラパワーの共同代表になったため、自分が隠れずに動けるが楽である。
錬金術で何かを作りたいところだが、完全にお金目的では貴族受けが悪い。俺が表に立っているため、ある程度は貴族向けの製品を作らないとまずい。
そうなると貴族受けは錬金術よりトレーニング器具の方がいいのだよな……。
「ということでパーシー、クロエ、何が欲しい?」
貴族向けは二人に聞くに限る。
学園のパーティーでの自習時間に尋ねる。
「随分と急だね」
「力!」
戸惑った様子のパーシーと、一切迷いのないクロエ。
力、力か……。
「もう少し具体的に。どの部位を鍛えたいとか」
「全部!」
そうだね。確かに全部欲しい。
ダンジョンでの戦闘を考えると間違いではない。ないのだが、そんな都合のいいトレーニング器具はない。トレーニング器具は特定の部位を狙って鍛えるものなのだ。
「いっそトレーニング器具から離れるか?」
「えー、トレーニング器具つくらないの?」
クロエは不満そう。
「全身鍛えられる種類は作っただろう」
「それならもっと重い道具を作りましょう。トリスが一部のトレーニング器具が軽いって言っていたわよ」
「ベンチプレスで1トン上げる人には軽いだろな……」
地球よりも重い重量にしているが、まだ軽かったようだ。
ただ、あまり重い器具はアダマンタイトのような錬金術で作った合金を使って作る必要がある。錬金術で作る合金は高く、特注で作るようなオーダーメイドの高級品となってしまう。
「特注になりそうだけど、高重量の器具に最適な金属を探しておくよ」
「楽しみね!」
俺の返事はクロエが満足する答えだったようだ。
しかし、すでに完成している器具を改造するだけであれば俺でなくともできる。他にも何か案がないだろうか。
「パーシーは何かないか?」
「うーん……あ、欲しいものでなくてもいいのなら思い出した」
「なんだ?」
「父から牧場の規模が広がったって聞いたよ。最近忙しかったから伝えるの忘れてた」
「おお、牧場が広がったのなら牛乳が増えたのか!」
パーシーの実家は山が多く農業にはあまり向かない土地。
一番有名なのは銘木なのだが、次に有名なのが酪農によるチーズ。チーズは生産数がそこまで多くないため高値で取引されている。
大量に狩られるモンスターにより肉の価格が安いため、家畜を育てている地方というのはとても珍しい。家畜といえば馬車を引くための馬や、畑を耕すための労働力として飼われることが多い。
「牛をかなり増やしているみたいだよ。馬の出荷数はまだそこまで変わらないけれど、徐々に減っていくのは想像ができるからね」
「作るチーズの量が増えたなら破棄されるホエイも増えているはず」
俺が欲しいのはホエイ。
ヨーグルトを置いておくと滲み出てくる水のようなものがホエイや乳清と呼ばれる液体。
チーズ作りでも同じように牛乳を固形化するとホエイができる。
「そうそう。ホエイはほとんど破棄されているらしいよ」
「ホエイがあればプロテインが作れのに、もったいない」
プロテインには色々と製法があるが、ホエイから作るのが地球では主流だった。
牛乳に含まれるタンパク質はホエイとカゼインという二種類あり、ホエイから作るプロテインの方が消化吸収が早いとされる。
「もったいないというけど、濃縮するのが大変だと言っていたじゃないか」
タンパク質は熱で変化してしまうため、濃縮して乾燥させるのが難しい。しかもホエイの9割以上が水分であるため、乾燥させて濃縮しようと思うととても大変になる。
「実はホエイからプロテインを作る機械ならある」
「あるの?」
「ああ。作ってから気づいたのだが、プロテインを作るには大量のホエイがないと意味がなかった。農業が盛んで海が近いアックスオッターは酪農が盛んではなかったから、そもそもホエイがあまり手に入らなかったんだ」
機械を作ってから、ホエイに含まれるタンパク質の量が少ないのに気がついいて悲しかった。機械自体は別の製品を作るのに使っているため、完全に無意味ではなかったが何かに負けた気分。
「それならウォールナットスクワローでプロテインを作るの?」
「そうだな。テラパワーからウォールナットスクワローに人を送るか」
クロエの提案同様に俺でなくともできる作業。
というか卒業資格を保有しているとはいえ、王都から気軽に出かけられない。
できるとすればパウダー状になったホエイプロテインを王都に送ってもらい、王都で味をつけて飲みやすくする程度か。
命をかけて戦うよりいいが、錬金術とは関係がない作業だな。
しかし、トレーニング器具にプロテインとは、筋肉から離れられないな。
「ちなみに、アイクは欲しいものないの?」
「うーん……。強いていうのなら遠距離魔法を使えるようになりたい」
貴族関連だと魔法くらいしか思いつかなかった。
「獣化を頑張ってみる?」
「いや、覚醒者でない場合を考慮したい」
ベアトリクス様より覚醒者である可能性は教えられたが、あくまで可能性でしかない。獣化に成功しても魔力が数倍になるという保証はない。
魔力が増えなかった時に気落ちしたくはない。
「覚醒者にならず遠距離魔法は難しいと思うよ」
「そこは錬金術でどうにかならないかなと。魔力が拡散するから魔法が使えないのであって、拡散さえしなければ魔力量的には魔法を使える」
「理屈はそうなんだけどね……」
理屈はとても簡単。
実践する方法はさっぱり思いつかない。ため息をつく。
「なぜ魔力は空気に触れると拡散してしまうのか」
「拡散するものだとしか言えないな」
パーシーは現状を受け入れているように見える。
しかし、俺は諦めきれない。魔法のある異世界に転生したというのに、魔法らしい魔法が使えないのは酷すぎる。
「俺もパーシーみたいにかっこよく魔法を使いたい」
「僕も使えて3回程度だよ?」
「俺は一度も使えないからな……」
パーシーの雷魔法はかっこいい。
密集している場所にパーシーが雷魔法を打ち込むと、俺が斧で倒すのがバカらしくなるほどの威力と範囲。もっとも、代わりに凄まじい量の魔力を持っていかれるのだが。
実は魔力効率を考えると物理で戦った方が効率はいい。魔法を放つのは魔力効率を落としてでも時間効率を上げるため。
「僕にはいい方法が思いつかないけれど、アイクには何か思いつかないの?」
「空気に拡散する以外ならある」
「あるの?」
「魔力がほぼ拡散しないのは体内にある時。つまり人体を使えばいい」
「いや、人体実験はダメだよ」
「そうだな」
俺はもっともだと頷く。倫理観からしてできないのは当然。
そもそも人体実験をやりたくない。
「アイクが人体実験する気がないのはわかっているよ。他に案があるんだろ?」
「その通り。人体の次に魔力が拡散しにくいのはアダマンタイトなどの合金。合金に混ぜてあるのはモンスターの素材で、骨や脂などが使われる」
「つまり?」
「モンスターの肉体は人と同様に魔力が拡散しないと思われる」
モンスターは俺たちと同じように肉体を魔法で身体強化している……のだと思う。
倒したモンスターは普通に食べられるほどの柔らかさだが、生きている時はライフルの銃弾を受け止めるような硬さを持っている。モンスターが魔力を持っているのはみてわかるため、おそらく身体強化して硬くなっているだろうと予想されている。
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