買い物
「ふぅ、これぐらいでいいかしら。」
私がビオラさんの宿で働き始めてから一週間ほどがたった。
「ただいま。」
「お帰りなさい。お掃除終わりましたよ。」
「そうかい。ありがとうね。」
前は全て自分の手で掃除をしていたけれど、ここでは誰の目も気にすることなく、魔法を使うことができる。おかげで楽に手早く掃除を済ませることができるようになった。
「ルーナのおかげで掃除が早く終わるよ。」
「他にすることはありませんか?」
「ん~ん、今は特に何もすることはないね。」
「では、街へ買い物に行ってきてもいいですか?」
「もちろん。好きなものを買っておいで。」
「ありがとうございます。いってきます。」
「いってらっしゃい。」
この国は皆が親切で優しく、活気に満ちている。街へ買い物に行けば、美味しい食べ物や美しい工芸品で溢れている。
「おや、お嬢ちゃん。」
「カエルムさん!」
「元気そうで何よりだ。」
「おかげさまで。先日はありがとうございました。」
街へ出掛けると偶然カエルムさんに会うことが出来た。カエルムさんとは、あの日以来会うことができずお礼を言うことが出来ていなかった。
「カエルムさんは今日はお仕事ではないのですか?」
「あぁ、今日は暇潰しに外に出てきたんだ。お嬢ちゃんは?」
「私は少し買い物をしようと思って。」
「そうか。なら、俺が案内してやろうか?」
「いいんですか?」
「あぁ。お嬢ちゃんはどこへ行きたい?」
「私はまだ、この街についてよく知らないので、カエルムさんにお任せします。」
「じゃあ、とっておきの場所を案内しよう。」
そういってカエルムさんが連れてきてくれたのは、小さいけれどおしゃれなお店だった。
「いらっしゃいませ。」
「この子に似合うものをいくつか。」
「かしこまりました。」
数々の美しい商品に目を奪われている間に話が勝手に進んでしまっていた。
「お客様、こちらを。」
「あ、はい。………どうでしょう。」
「では、こちらを。」
気がついた時には店員さんに大量の服を渡され、着て、脱いで、着ての繰り返し。
「じゃあ、今の全部お嬢ちゃんにプレゼント。」
「え!」
「服、欲しかったんだろう?」
「でも……」
「いいんだ、趣味じゃなかったら着なくていいぞ。」
「いえ! ありがとうございます。大切に着させていただきます。」
入店からお会計まで早すぎて追い付けないまま、あっという間に沢山の服を買って貰ってしまった。
紙袋には、系統も様々でおしゃれで上品なものから、かっこいい雰囲気のものまで、今まで着たこともないような服がたくさん詰められている。
「よし、じゃあ次だ。」
「え!?」
「ほら、行くぞ。お嬢ちゃん。」
「はい!」
「あら~カエルムさん! 今日はひとりじゃないのね~」
「あぁ、この子にぴったりなのを頼むぞ。」
「任せてくださいな。」
次に私たちが来たのはアクセサリーがたくさん並んだ高級そうなお店だった。
「これと、これと、これと~。あぁ!これも!」
「え!? え!?」
店員の女性は次々に大きな宝石のついたアクセサリーを選んでいく。
「よし。これもプレゼントだ。」
「そんな! いただけません。」
カエルムさんはすぐに会計を済ませて、アクセサリーをたくさんくれた。
「いいんだよ。」
「………ありがとうございます。」
(また沢山頂いてしまったわ。次こそ私がお支払しないと。)
「そろそろ昼飯でもどうだ?」
「そうですね。お腹、すきました。」
「何か食べたいものはあるか?」
「カエルムさんのおすすめでお願いします。」
「分かった。じゃあ、移動するぞ。」
「ここだ。」
「素敵なお店ですね。」
カエルムさんに案内されたのは少し大きなお店だった。レンガ造りの建物で看板には『女神の愛』と書いてある。
(『女神の愛』、素敵な名前ね。)
「いらっしゃいませ!」
中に入ると意外と多くの人が食事に来ていた。美味しそうな香りが鼻をくすぐりお腹がなってしまいそうになる。
「どれでも好きなものを頼むといい。」
「どれも美味しそうですね───」
「おすすめはこれだ。」
私が決めかねているとカエルムさんがおすすめを教えてくれた。聞いたことのない料理だけれど、きっと美味しいに違いない。
「では、それでお願いします。」
カエルムさんが注文を済ませてくれたので私たちは料理がくるまで少し話すことになった。
「お嬢ちゃん、宿には無事行けたようだな。」
「はい。今はビオラさんのもとで働かせて貰っています。」
「なら良かった。仕事は大変か?」
「私は水魔法を使うことが出来るので、なんとかお役に立てています。」
「そうだったのか。じゃあ、今は楽しく出来てるんだな。」
「はい。お気遣いありがとうございます。カエルムさんは、何をなさってるんですか?」
「俺は商人をやってるんだ。」
「だからあの時あの国にいたんですね。」
「あぁ。そうだ、お嬢ちゃん。気をつけた方がいいかもしれないぞ。」
「え?」
カエルムさんは急に深刻な顔をして話をはじめた。