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第98話 ゴミが落ちてる

物語のテンポが悪くなると思いましたが、書きたくて予定を変更して書いてしまいました。お許しを。


 咲茉が連れ去られたと思われる建物は、都心から大きく外れた郊外の山奥にひっそりと佇んでいた。


 周りが森に囲まれた、4階建てのビル。この建物が建てられてから随分と長い月日が経っているのか、近くで見ると酷い有様だった。


 荒れ果てた外壁と、割れた窓。そして周辺に生い茂った草木も伸び切ったまま放置されている。


 これぞ、まさしく廃墟と呼ぶに相応しい建物だった。


「死ぬほど気味悪いんだけど……今からあそこに行くってマジ?」


 視線の先に見える廃墟を眺めながら、思わず凛子が苦笑してしまう。


「あの場所に咲茉ちゃんがいるんですから当然です」


 そんな彼女に、特に気にする素振りもなく雪菜が淡々と答えていた。


 今も止まることもなく進んでいる彼女の足は、まっすぐ廃墟に向かっている。


「……お前って怖い場所とか平気なタイプだったっけ?」


 舗装もされていない獣道を苦もなく歩き続ける雪菜の背中を追い掛けながら、つい凛子は思った疑問を口にしていた。


「いえ、普通に怖いですよ。むしろ嫌いな部類です。ホラー映画とか心霊番組とか見ると怖くてお風呂にも入るのが怖くなりますし、寝れなくなります」


 そう雪菜が答えているが、その言葉と行動が全く一致していないと凛子は思ってしまった。


 どう見てもホラー映画にでも出てきそうな廃墟に向かっているというのに、怖がる素振りすら見せていない。


 そして先を歩く彼女の背中を見ても、怯えている様子もなかった。


「いや、なら少しは怖がれよ」


 こんな彼女から怖いと言われたところで、微塵も信じられるはずがなかった。


「怖い場所なら私だって怖いですけど、別に今から向かう場所は怖くないところじゃないですか?」

「アレが怖くないって? 冗談だろ?」


 見える廃墟を改めて見ても、やはり凛子は不気味としか思えなかった。


 もし夜に一人で行けと言われても、絶対に嫌だと即答できる自信があった。


「あそこに人が居るって分かっていれば怖くないですよ」

「……確かにそうだけどよ」

「だからわざわざ回り道して近づいてるの、もしかして忘れたんですか?」


 そう言われてしまえば、凛子も返す言葉がなかった。


 こうして山道を歩く理由を思い出せば、怖がっている暇などなかった。


「……あそこに咲茉がいるんだよな?」

「そのはずです。私達のスマホでも咲茉ちゃんの現在地は、あの場所から動いてません。それに正面から行くと面倒なことになるって乃亜ちゃんにも言われたじゃないですか?」


 そう告げられて凛子の脳裏に過ぎったのは、廃墟の入口に止まっていたバイクの数々とたむろしているガラの悪い少年達だった。


 廃墟から続いている舗装された道を素直に歩けば、廃墟に辿り着く前に彼等から見つかってしまう。


 それでは役割が果たせないと乃亜に言われている以上、凛子と雪菜は回り道して廃墟に近づくことを指示されていた。


「だけどよ。私達のやることって、別に正面から行っても問題なくないか?」


 自分に割り振られた役割を思い返して、自然と凛子が不満を漏らす。


 これから起こすことを考えれば、こそこそと隠れる必要もないのではと。


 そう思う凛子の疑問に、雪菜は頷きながら苦笑していた。


「その気持ちは私も分かりますが……今から私達が向かって来てると相手に知られて行くのと突然現れた私達に驚くのでは、相手の対応も変わるというのも納得できるので」


 乃亜から指示された話を思い出して、雪菜がそう答える。


 その話は、当然凛子も覚えていた。


 相手を混乱させる役目。それを確実に行う為に奇襲するというのも、納得ができる。


 だが、それでも薄気味悪い森の中を歩き、不気味な廃墟に向かう必要性はなかったのでは思えてしまう。


「だけどよ――」

「そろそろ近くなります。お話はこれくらいにしておきましょう」


 不安を漏らす前に、小声で呟いた雪菜が身体を屈める。


 気づけば、もう廃墟は鼻の先だった。


 話し声を聞かれてしまえば、隠れて近付いた意味がなくなる。


 こんな山道を歩いた甲斐が無くなると思うと、凛子も無言のまま渋々と身体を屈めていた。


 そうして屈んだ2人がゆっくりと廃墟に近づき、裏手から正面入口に向かう。


 そして隠れながら2人が確認すると、正面入口でガラの悪い少年達が談笑していた。


「昨日の連れ込んできた女は良かったなぁ!」

「マジでそれな! めっちゃエロかった! ヤリ過ぎて腰壊れるかと思ったわ!」

「お前は性欲強すぎなんだよ。流石に猿かと思ったわ」

「ははっ、マジでそれ分かるわ」

「はぁ? お前等だって何回もヤってただろ!」


 談笑と言っても、聞こえていた内容はとてもではないが笑える話ではなかった。


「……キモ過ぎる」

「はい……同感です」


 聞こえた少年達の話に、凛子と雪菜が言葉を失う。


 そして続けて聞こえた会話に、2人は揃って目を吊り上げていた。


「それにしても今日の女は楽しみだな」

「あぁ、拓真さんが滅茶苦茶気に入ってる女だろ? 確か、咲茉って名前だったっけ?」

「そうそう! 俺も見たんだけどよ、滅茶苦茶エロい身体してたわ! おっぱいとかデカくて腰も細くてさ! 顔もグラビアアイドルみたいに可愛かったんだよ!」

「俺も見たけどアレはヤバかった。今まで連れ込んできた女の中でもトップクラスじゃね?」

「あの女とヤレるって考えただけで興奮してくるわ」

「でも生でヤれないんだろ? 俺達はゴムないとダメだって拓真さんが言ってたぞ?」

「えぇ……こっそり外してもバレなくね?」

「ありかもな。拓真さんの後ならワンチャンバレないかも」

「おいおい、殺されるぞ?」

「間違いねぇ」


 そんな話をしていた少年達の汚い笑い声は、聞いているだけで気分が悪くなる声だった。


「……あの野郎共」


 彼等の耳を疑うような話に、怒りを隠しきれない凛子が歯を食いしばる。


 そして今すぐにでもあの少年達をぶっ飛ばそうと、凛子が考えていた時だった。


「あ……ゴミがいる」


 ポツリと、雪菜から冷たい声が漏れた。


 その声が聞こえた途端、ぞわりとした寒気が凛子の背中を駆け抜けた。


「ゆ、ゆきな……?」

「ゴミがひとつ、ふたつ……入口にいるのは全部で8個。まだあの建物にもゴミがあるって考えた方が良さそう」


 雪菜の話し方がいつもの丁寧な口調から、まるで子供のような話し方に変わっていた。


 それが奇妙なほど恐ろしいと感じてしまうのは、彼女の普段を知っている人間だけだろう。


 反射的に凛子が雪菜を見ると、変わり果てた表情に絶句していた。


「早くゴミ掃除しないと……でもあのままだと捨てるの大変だから小さくした方が良いかも」


 無表情で、呟く雪菜が少年達を見つめていた。


 はたして、小さくとはどういう意味だろうか。


「なぁ、ゆきな……落ち着けって」

「あ、ひとつだけ離れたところにゴミが落ちてる」

「……お、おい!」


 その単語の意味を考えたくもなかった凛子が声を掛けるも、気にする素振りもなく隠れていた雪菜が立ち上がるなり、歩き出していた。


 追いかける凛子に意識も向けず、歩く雪菜が正面入口に止まっている車を背もたれにしてスマホを弄っている少年に近づく。


 そしてスマホに夢中になっている少年に雪菜が近づくと、そのまま声を掛けていた。


「ねぇ、ここに私の友達いる?」

「……あ?」


 唐突に声を掛けられた少年が、呆けた声を漏らす。


 しかし呆然とする少年に、雪菜は無表情のまま続けて問い掛けた。


「ここに私の大切な友達がいるって訊いてるの。もしかしてゴミって耳も悪いの?」

「なんだテメェ……急に出てきて女が喧嘩売ってんのか?」


 突然現れた雪菜に困惑するも、間違いなく彼女から喧嘩を売られていると察した少年が目を吊り上げる。


 しかし彼から睨まれても、雪菜が動揺することもなかった。


「あと一回しか訊かないから。ここに咲茉って女の子が居るか居ないか。今すぐ答えて」

「咲茉だぁ? 知らねぇなぁ……知ってても言わねぇけど、お前の後ろにいるエロそうな女とヤらせてくれたら考えてやっても良いぞ? お前みたいなベニヤ板みてぇな胸の女とヤってもつまんないしなぁ?」


 そう言って、少年が笑おうとした瞬間だった。


 顎に小さな衝撃と、コンッとした音が少年の頭に響いた。


「……あ?」


 その音が聞こえた瞬間、なぜか少年の視界が揺ぐ。


 更に足がふらつき、立っていることすらままならないと倒れそうになる。


 その瞬間、更に鈍器で殴られたような衝撃が両頬と腹部を貫いた。


 歯が何本も折れる感覚、そして迫り上がる嘔吐感に少年が苦悶する。


 そして少年の体勢が崩れたと思うと、何かに足を払われて身体が宙に浮いてしまった。


 何が起きたか分からない。そう思っていた少年だったが、次に見えた光景は顔面に迫るガラスだった。


 鼻の骨が砕ける音が聞こえて、顔面に突き刺さるガラスの破片。そしてドゴンッと響く爆音と、頭に駆け抜ける衝撃。


「あがっ――⁉︎」


 最後まで何が起きたか分からないまま、少年は車の窓ガラスを突き破った体制のまま、意識を失っていた。


「……一応訊くけど、殺してないよな?」


 あっという間に1人の少年を車に叩きつけた雪菜に、凛子が震えた声を漏らす。


 彼女の疑問に、雪菜は失笑混じりに答えていた。


「アレぐらいで人間は死なないよ。意外と人間の身体って頑丈だから」

「マジで容赦ねぇな……気持ちは分かるけど」

「咲茉ちゃんのこと教えてくれなかったから。あと、私の胸のこと馬鹿にした」


 おそらくだが、雪菜が少年を車に叩きつけた理由は後半の部分だろう。


「……文句ある?」

「いいえ、ありません……マジでこれから胸のことイジるのだけはやめとこ」


 雪菜の逆鱗を改めて理解した凛子が頬を引き攣らせる。


 そして肩を落とすと、彼女は雪菜に苦笑していた。


「でもここまで大きな音鳴らしたら、流石にバレると思うぞ?」

「……あ」


 凛子の指摘に、我に返った雪菜が呆けた声を漏らす。


「……なんだ今の音?」

「おい! アレ見ろよ!」


 それと同時に、先程の物音に気づいた少年達が慌しく動き出すと、建物の中からも何人も少年が出てきたと思うと、あっという間に雪菜達は囲まれていた。


「……どうすんだ? これ?」

「すいません。私としたことが怒りに我を忘れてしまいました」


 苦笑する凛子に、頬を引き攣らせた雪菜が謝罪する。


「それは別に良いんだけどさ、私達のやること変わんないし……とりあえず鬱憤晴らしでもしようぜ?」


 そんな彼女に、凛子はわざとらしく肩を竦めていた。


「……はい。わかりました」


 気を取り直してと、雪菜が深い深呼吸をする。


 そして気持ちを整えると、囲まれている少年達を一瞥して、彼女は告げていた。



「では――好きに暴れろと言われましたので、ゴミ共の皆さん。覚悟してください」

「殺しなんてしねぇけど、死にたい奴だけ掛かって来い。先に言っとくけど、骨一本で済むなんて思うなよ」



 雪菜に続いて凛子が告げると、揃って2人が構える。


「クソアマ共が調子乗ってんじゃねぇぞッ‼︎」


 その挑発に少年達が怒りを見せると、一斉に彼等は雪菜と凛子に向かって走り出していた。

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