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第94話 遊ばねぇか?


 走る車の速度に、人間の足で追いつけるはずもない。


 咲茉を連れ去った拓真の車が走り去ると、すぐに追いつけないと判断した悠也と凛子は乃亜達と合流することを最優先した。


「あぁ! 莉乃っ! 良かった……本当に良かったっ!」

「おねえぢゃん! ごわがっだよぉっ!」


 戻ってきた二人が乃亜達の元に駆け寄ると、雪菜が無事助けた莉乃を姉の理沙が泣きながら抱き締めていた。


 大声で泣く莉乃の頭を、理沙が何度も優しく撫でる。


 無事に妹が戻ってきて良かったと、何度も理沙が妹の名前を嗚咽交じりに呟く。


 その光景に周囲の生徒達も安心する様子を見せていたが、そんなことに悠也達が安堵している余裕はなかった。


「乃亜、悪い。追いつけなかった」

「分かってる。それよりも悠也は咲茉の現在地確認して」


 状況を説明した悠也に、乃亜が簡潔に指示を出す。


 その指示に悠也が応じている様子を見ることもなく、乃亜も行動していた。


「山内さん。立て込んでるところ悪いけど、今すぐそっちの話聞かせて」


 泣いている妹を抱き締めていた理沙に、乃亜が淡々と声を掛ける。


 その声に理沙が振り向くと、乃亜から向けられた鋭い目つきに思わず言葉を詰まらせた。


「そっちは良かったかもしれないけど、こっちは君の妹を助けるために咲茉が連れ去られたの。このままだと咲茉がどうなるかくらい、君なら分かるでしょ?」


 痺れを切らした乃亜が、理沙を問い詰める。


 その毅然とした態度に彼女の胸の中で妹の莉乃が怯えていたが、乃亜が気にすることはなかった。


「さっきは妹に何かあったら許さないとか私達に好き勝手言ってたけど、こっちにも咲茉に何かあったら許さないって言える権利があるの。時間が惜しいから早く話して」


 そして立て続けに乃亜がそう告げると、理沙の表情が歪んでいた。


 自身の告げた言葉をそのまま返されて、返す言葉もないのか押し黙ってしまう。


 しかし胸の中にいる妹を一瞥すると、彼女は渋々と口を開いていた。


「そんなの、私だって分かんないわよ。昨日、学校から莉乃がずっと家に帰って来なくて、夜に莉乃のスマホから電話が来たら知らない男が出てきて……それで明日中に咲茉と連絡を取りつけないと妹を酷い目に遭わせるって言われたのよ。スマホに縛られた妹の写真送られたら、私だって従うしかなかったのよ」


 なぜ自分達が巻き込まれてしまったのか今でも理解できないと、困惑した表情で理沙が語る。


 これ以上追及しても、彼女から有益な情報が得られることはないだろう。


 先程の話を聞いた乃亜が彼女側の状況を把握すると、もう彼女に聞けることはないと判断した。


「分かった。ありがとう、もう大丈夫」

「ちょっと! そんな一方的に――」

「悠也、咲茉の現在地は?」


 思わず叫んでしまった理沙に向くこともなく、乃亜が悠也に声を掛ける。


「一応見れてる。まだ現在地も動いてるから咲茉のスマホは無事みたいだ」


 悠也の持つスマホに、問題なく咲茉のスマホの現在地が表示されていた。


 明らかに車で移動しているとしか思えない速度で動く位置情報に、今も咲茉の元にスマホがあることを知らせている。


「まだあっちもGPSに気づいてないのかもね。それも時間の問題だろうけど」


 悠也の返答に、少しだけ安堵した乃亜が頷く。


 そのやり取りを理沙が眺めていると、もう自分が用済みだと言われているような気がした。


「なんであの男達が咲茉のこと狙ってるのよッ!」


 受ける疎外感に耐え切れず、咄嗟に理沙が叫んでしまう。


 その叫びに悠也と乃亜が視線を僅かに向けると、二人は互いに目を合わせるなり、揃って肩を落としていた。


「……そんなの、俺だって聞きたい」

「同感……私だって聞きたいくらいだよ」


 あの拓真が、なぜ咲茉に異常なほど執着しているのか。


 その答えを拓真本人から聞いていたとしても、悠也達のその疑問が解消されることはなかった。


「君の疑問に私達が答えられることなんてないよ。別に私達の知ってることも、あの男達が女の私達を物としか見てないことだけだよ。あと、このままだと咲茉がとんでもない目に遭うことだけ」

「……そんなこと、どうして咲茉が」


 乃亜の話が理解できないと、理沙の表情が強張る。


 たとえ交流が少なくなったとしても、彼女も咲茉と友達であることは変わらない。


 妹を守る為に、友達を犠牲にした。その自責の念に理沙が涙を浮かべてしまうが、そんなことをされても今の状況が変わるわけではない。


「君の考えも十分理解できるから、もう気にしなくて良いよ。聞きたいことも聞けたし、あとは私達の役目だから」

「冗談でしょ……まさかアンタ達だけでどうにかするつもりなの!?」

「通報したいなら勝手にして。どうせ周りの人達がもうしてると思うけど、警察に君の妹と咲茉のこと話して事情聴取なんて受けたら……間に合わなくなる」


 一体、なにが間に合わないと言うのか?


 そう思った理沙の疑問に、それ以上のことを乃亜が話すつもりはなかった。


 時間が惜しい。時間が経てば経つほど、咲茉が危ない目に遭うかもしれない。


 そう判断した乃亜と悠也が目配せすると、雪菜と凛子と共にその場から移動していた。


「ちょっと待ちなさいよッ!」


 彼等を心配した理紗が叫ぶが、その制止に悠也達が従うはずもない。


 走り去る悠也達を、理紗は呆然と見つめることしかできなかった。







「とにかくタクシー捕まえよう」


 走りながら提案する乃亜に、悠也達が頷く。


 自由に使える車がない以上、悠也達の移動手段も限られた。


「でもここ辺りでタクシーなんて見かけたことないぞ?」

「少し走りますが大きな道路に行けばいるかもしれません」


 凛子の疑問に、雪菜が答える。


 住宅街から近い悠也達の学校周辺は、あまり車の交通量が多くない。


 その中で運良くタクシーを見つけられる確率は、非常に低い。


「雪菜の案で移動しても良いけど見つからないと困るから、念のためにタクシー呼べないか電話してみる」


 雪菜の話に、頷いた乃亜が走りながらスマホを操作する。


 車の交通量が多い道路に移動して問題なくタクシーが見つかれば問題ないが、見つからない可能性も十分ある。


 それによる不都合を考えれば、電話でタクシーを呼ぶのもひとつの手段だった。仮に呼んだとしても、必ず短時間でタクシーが来る保証はない。その時の状況によって所要時間が変わってしまう可能性もある。


 この段階で時間を掛かるのは避けたいところなのだが、どちらにしても長距離の移動手段がなければ話にならなかった。


「悠也、ちゃんと咲茉の位置見ておいてね」

「分かってる。ちゃんと見てるって」


 そして電話しながら確認してきた乃亜に、悠也は問題ないことを告げていた。


 今も走りながら、随時スマホの画面を確認している。


 咲茉の現在地は、今も動いている。


 住宅街なら離れていき、おそらく都心から外れた郊外に向かっているのだろう。


 一体、彼等が咲茉をどこに連れて行こうとしているのか?


 そんな疑問を悠也が抱いた時だった。


 突然、悠也の持つスマホから着信音が鳴り響いた。


「……おい、みんな止まれ」


 鳴り響くスマホの画面を見た悠也が、その場で足を止める。


 その言葉に乃亜達が揃って足を止めると、怪訝に悠也を見つめていた。


「急にどうしたんだよ?」


 反射的に眉を寄せる凛子が訊き返してしまう。


 その疑問は乃亜と雪菜も同じだった。


 首を傾げる彼女達に、悠也は困惑した表情でスマホを見せていた。



「……咲茉から電話だ」



 今も着信音の鳴る彼のスマホに、なぜか『涼風咲茉』と表示されていた。


「悠也……それ、絶対に咲茉からじゃない」


 その画面を見て眉を吊り上げた乃亜の予想は、当然だが悠也もしていた。


 咲茉が連れ去られた光景を思い出せば、彼女から電話が来ると思えるわけがない。


「俺に掛けて来たってことは、俺だけに用があるんだろうな」

「出て良いけど、絶対スピーカーにして。私達が話すことはないけど、私達も聞いてた方が絶対に良い」


 続けて提案した乃亜に、悠也が頷く。


 スピーカーにして聞かせておけば、電話した後の説明も省ける。


 そう判断した悠也が乃亜達に目配せすると、すぐスピーカー設定で電話に出ていた。


「……咲茉か?」

『なぁ、俺とゲームでもして遊ばねぇか?』


 スマホから聞こえた声は、やはり咲茉ではなく、拓真のモノだった。


「……なんだって? ゲーム?」


 突然の不可解な提案に悠也が訊き返すと、返ってきたのは拓真の失笑だった。


『こっちに咲茉がいるのは良いんだけどよ。俺、お前に殴られた時のこと忘れてねぇんだわ』

「……だからなんだって言うんだよ」

『顔中に傷跡が残るくらい好き勝手に殴られたからなぁ……お前を殺すのも考えたが、それだけじゃ足りねぇんだわ。お前には、死にたくなるくらい辛い思いしてもらわないと俺の気が済まない』


 簡単に言ってしまえば、この男は仕返しがしたくて堪らないらしい。


 殺すという子供染みた言葉も、実際に人を殺している人間の言葉だと思うと恐ろしく感じてしまう。


「……咲茉は無事なんだろうな」

『それはお前の返答次第だって考えなくても分かるだろ、お前も馬鹿なのか?』


 小馬鹿にした拓真の声に苛立つ悠也だったが、咲茉が人質に取られている状況で下手なことを言えるはずもない。


「俺に……なにをしろって言うんだよ」


 身体中の血が沸騰しそうな怒りを堪えながら悠也が訊くと、スマホから拓真の楽しそうな笑い声が聞こえた。


『簡単なゲームだ。もしお前がクリアできたら、咲茉を返してやるよ』


 耳を疑うような拓真の話に、自然と悠也達が顔を見合わせた。


 意味が分からないと、怪訝に悠也達が眉を顰めてしまう。


 そんな彼等でも今分かることは――間違いなく彼の提示するゲームは、真っ当なゲームなとではないということだけだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりこんな展開になってしまいましたか。 タクマにあまりにも都合が良い展開が続くので、また暫くしてから読みます。完結まで頑張ってください。
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