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第9話 良い機会


「……冗談だろ?」


 そう言って、あり得ないと悠也は引き攣った笑みを浮かべていた。


 単なる見間違えだと思いたかったが、やはり悠也が何度見直しても咲茉えまのスマホに表示されている日付は同じままだった。


 10年前の4月1日。


 それが咲茉のスマホに表示されている日付だった。


「咲茉、試しに再起動できないか?」

「ちょっと待って……やってみる」


 悠也に頼まれて、咲茉がスマホの再起動を行う。


 そして再起動されたスマホの画面を見て、咲茉は首を横に振っていた。


「日付……10年前のままだよ」


 咲茉から見せられたスマホには、先程と変わらない日付が表示されていた。


「まさかネットに繋がってない……わけないか」

「ちゃんと繋がってるよ」


 電波も繋がっている。スマホが表示する日付を間違えるはずがない。


 たとえ悠也と咲茉から見て10年前だとしても、正しいのはインターネットに繋がっているスマホの日付だろう。


 ならば、もう答えはひとつしかなかった。


「時間が戻るなんて……あり得ないだろ」


 気づけば、悠也がそう呟いていた。


 時間が10年前の4月1日に戻っていると。


 あり得ないと思いながらも、そう思うしかなかった。


「やっぱり、私達って天国にいるんじゃない?」

「もう一回、またつねられたいのか?」

「ごめんなさい」


 悠也が指で抓る仕草を見せると、慌てて咲茉が頬を守る。


 その姿に、悠也は呆れながら溜息を吐いていた。


「咲茉の気持ちは分かるけど、これって夢とかじゃないだろ?」

「……なら、タイムリープとか?」


 何気なく咲茉から返ってきた言葉に、悠也が首を傾げた。


「タイムリープ?」

「えっ……悠也知らないの?」

「いや、聞いた覚えはあるんだけど……社会人になってから仕事以外のこと忘れっぽくなって」

「……それは流石にどうかと思うよ?」

「俺も思うよ。そのうち過労死してたと思う」

「笑えないよ、その冗談」


 頬を引き攣らせる咲茉に、悠也は苦笑するしかできなかった。


 仕事以外のことを考えれば、辛くなる。そう思って自然と仕事以外のことを悠也は考えなくなった。


 タイムリープという言葉も悠也も聞いた覚えあったが、どうにも思い出せなかった。


「タイムリープってアレだよ。映画とかで出てくる死んだりして意識だけが時間遡る能力だよ」

「……あぁ、なんか思い出してきたわ」


 咲茉の説明を聞いて、少しずつ悠也が思い出していく。


 映画やアニメでも時間遡行系の作品は人気があった。昔のことだが、その手の作品は悠也も見た覚えがあった。


「タイムリープは良いよぉ……嫌なこととか全部無かったことにして結末が大体ハッピーエンドになるから見てて羨ましくなるの」

「……咲茉?」


 唐突に、うつろな目で咲茉が乾いた笑みを浮かべていた。


「私もタイムリープできたら良いなぁ、って思いながら色んなの見たんだぁ……アニメとか映画、たくさん見たの」

「……咲、茉?」

「でも見終わると辛くなるんだよね……アレ、立ち直るの、すごく時間掛かるんだよ」


 まるでスイッチが入ったように、小さな声で咲茉がうわ言を呟く。


 突如変わり果てた咲茉の様子に、慌てて悠也が彼女の身体を揺らしていた。


「おい! 咲茉っ!」

「……あれ? 私、今なにか言ってた?」


 悠也に声を掛けられて、咲茉が首を傾げる。


 急に元に戻った彼女に、咄嗟に悠也は困惑しながらも言葉を絞り出した。


「いや……特になにも。お前、タイムリープの説明してる途中でボーッとしてたぞ?」

「そうだった? なら別に良いんだけど……?」


 悠也にそう言われて、渋々と咲茉が納得する。


 先程の呟きは、どうやら本当に無意識だったらしい。


 きっと今のも、過去の話になると極端に拒絶反応を見せていた咲茉だからこそ見せた反応だろう。


 今だに過去の彼女に何があったのか知ることもできなくて、もどかしくなる。


 しかし今それを追求したところで、決して彼女が答えないことを理解していた悠也は強引に話を進めることを優先した。


「咲茉のおかげでタイムリープについて思い出したよ」

「ちゃんと思い出せたなら良かった。じゃあ悠也はどう思う?」

「急にどう思うって、どういう意味だよ?」

「そのままの意味だよ。悠也から見て、この状況はどう思うの?」


 そう訊かれたところで、悠也が答えられることなど限られていた。


 夢や幻覚、ましてや死んで天国に来たなどあり得ない。今の状況は間違いなく現実である。


 更に大人だった自分達が子供になっている。10年前の今の状況に合わせるように、身体だけが若返っている。


 と言うよりも、子供だった頃の身体に大人の自分が入り込んだと言うべきかもしれない。


 仮にそれが正しければ、悠也が答えることなど分かりきっていた。


「あり得ないことだけど、タイムリープしてると思うしかないな」

「やっぱり……悠也もそう思うよね?」

「まぁ、そう思うしかないだろ?」


 悠也がそう言うと、咲茉が小さく頷いた。


 そして何度か頷いた後、何かに気づいた咲茉がおもむろに、その視線を自分の腕に向けた。


 手首から肘まで、じっと見つめていた彼女の手がその肌を撫でていく。


 また唐突に奇妙な行動を始めた咲茉に、思わず悠也は訊いていた。


「ん? 急にどうしたんだ?」

「ねぇ、悠也? 私達が本当にタイムリープしてるなら良い機会だと思わない?」


 咲茉から返ってきた言葉に、悠也が眉を顰めた。


「……良い機会?」

「なんで私達がタイムリープしてるのか分からないけど、もし本当に私達が過去に戻ってるなら……私と一緒に人生、やり直さない?」


 そう言って、咲茉が悠也を見つめていた。

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