第86話 そんな漫画みたいな
更新、大きく遅れてごめんなさい。
体調不良で倒れてました。
毎日とは行かずとも、これからは早めに更新できると思います。
昼食も済ませた賑やかな昼休み。教室を抜け出した悠也が屋上に向かうと、ひと足先にベンチで啓介が待っていた。
「悪いな。わざわざ場所変えさせて」
「良いってことよ。他の奴に聞かせる話でもないだろうし……ってか、後ろのチビ助は良いのか?」
「あぁ、コイツは一緒で良い」
「まず先にチビ助を否定しろ〜」
貧弱なローキックを繰り返す乃亜を放置しながら、啓介の座るベンチに悠也が腰を下ろす。
そして思う存分蹴って満足したのか、乃亜も当然のように悠也の隣に座ると、2人の姿を見た啓介が恐る恐ると口を開いていた。
「今更言う話でもないけど、咲茉ちゃんと離れて大丈夫なのか? お前が一緒に居ないと寂しがるだろ?」
もう数ヶ月も咲茉の様子を見れいれば、啓介がそう思うのも当然だろう。
学校では可能な限り一緒にいる咲茉と悠也が離れている今の状況は、本来ならあり得ないことだと。
「今は雪菜と凛子の2人に任せてる。別に少しの間なら大丈夫だ。長話するわけでもないし」
「それもそっか」
納得したと頷く啓介に、悠也がわざとらしく肩を竦めて見せる。
そうは言っても、先に教室を出ていた啓介は知る由もないことだが、実際のところ悠也が教室を抜け出すまで一悶着はあった。
先生に呼び出されたと適当な用事を作って教室を出ようとする悠也に意地でもついて行こうとする咲茉を納得させるのには一苦労した。
今は教室で不貞腐れている咲茉を雪菜と凛子がなだめているに違いない。
今日の夜は、たくさん甘やかしてあげよう。きっとそうすれば少しは許してくれるかもしれない。
そう悠也が密かに思っていると、
「ってかさ。わざわざ場所変えるとかしなくてもさ、咲茉ちゃん達に聞かせても大丈夫じゃないの?」
「馬鹿こと言ってんじゃねぇよ。そんな話、聞かせられるわけないだろ」
怪訝に眉を寄せていた啓介に、思わず悠也は苦笑していた。
これから啓介から聞く話は、まだ咲茉が知るべき話ではない。
むしろ咲茉だからこそ、絶対に知るべきではない。
それは乃亜と悠也が相談して決めていた決定事項だった。
「メッセージとかは?」
「記録が残るモノも全部無理。間違って咲茉が見る可能性あるし」
「……徹底してんなぁ」
「先に言っとくけど、間違っても咲茉に話すなよ?」
「わかってるよ」
その可能性を危惧して、わざわざ直接会って話すことを選んでいるのだ。
メッセージも、なにかの拍子で見られる可能性もある。電話も、ここ最近ずっと咲茉の家に悠也が泊まっている時点で聞かれる可能性もあり得る。
ならば彼女に聞かれなくない話をするのなら、少し強引な手を使うしかなかった。
それが今の状況だった。
「余計な話は良いんだよ……それで? わざわざ啓介が俺を呼んだってことは分かったのか?」
とにかく時間が惜しいと悠也が急かすと、苦笑混じりに啓介は答えていた。
「あぁ、前にお前から頼まれてた咲茉ちゃん達を襲ったタクマって奴のこと。知り合いに聞いてみたぞ」
それは以前、悠也が啓介に頼んでいたことだった。
とにかく咲茉を狙う敵の情報を得る為のひとつとして、乃亜と悠也がとりあえずと考えた案。
それが啓介の広い人脈を使った情報収集だった。
「わざわざ悠也っちを呼んだってことは、少しは分かったの〜?」
こうして呼び出された時点で、その答えは決まっているようなものだろう。
そう判断した乃亜が呑気に訊くと、頷きながら啓介は口を開いた。
「分かったって言っても、そんな詳しくは分からなかったけどな」
無言で悠也が話せと催促する。
その視線を感じ取ったのか、苦笑しながら啓介は話を続けた。
「俺とタメの同じ部活の奴がいるんだけど、地方の中学出身でさ。そのタクマって奴と同じ中学だったらしい。銀髪で見るからにチャラそうな暴力のひどい不良って訊いただけで言ってもないのに名前当てられたわ」
世間というのは思っていた以上に狭いらしい。
これは予想以上の成果が得られそうだと悠也が驚いていると、そのまま啓介の話が続いていた。
「部活の奴が入学した時からメチャクチャ悪さする銀髪の不良が3年にいるって学校中の噂になってたらしい。学校でも外でも喧嘩は日常茶飯事、犯罪して警察と揉めるとか、ヤバい奴だって」
「……よくそれで退学にならなかったな」
「中学までは義務教育だからね〜」
聞いている限りは悠也の想像通りの人物像だった。
そして学年が2個上ということは、同じく歳も2歳上になる。
あの男が自分よりも歳上。その事実に、悠也は失笑するばかりだった。
「でも馬鹿みたいにモテてたらしい。イケメンで常に女子を何人も傍に置いてたとか」
「悪い男子をカッコ良いって思っちゃう女子、痛いわぁ〜」
なぜそんな男が女にモテるのか悠也も疑問でしかなかったが、乃亜の言葉で納得してしまった。
子供なら聞く話だ。とは言っても、おそらくは外見に惹かれてしまったと思うのが無難かもしれない。
確かに男の悠也が思い返しても、服装などは抜きにすれば拓真の容姿は随分と整っていたような気がした。
それが子供の女子にモテる理由になるのも……理解できなくもなかった。それが極悪人の不良でなければ、だが。
「そこまでヤバい奴なら高校とか行ってないだろ?」
「それが行ってるんだよ」
「……まじ?」
信じられないと顔を顰めた悠也に、同感と啓介が頷く。
「これも聞いた話だけど、俺達が行くこともないような地方の高校に進学したらしい。名前書けば受かる高校だとか」
「……ちなみに、その学校どこ?」
話を聞いていた乃亜が訊き返すと、拓真の進学した高校を聞いてスマホで調べるなり、その場で失笑していた。
「あぁ、ここか」
「……知ってるのか?」
「知ってるのもなにも、割と有名な学校だよ」
乃亜の返事に悠也が首を傾げてしまう。
当時から覚える気もなかったのか、啓介から高校の名前を聞いてもピンと来なかった。
その反応で察したのか、呆れたと乃亜が肩を落としていた。
「誰でも受かる高校で、不良の掃き溜めで有名だよ。学校も放任してるらしいし、悪さばっかりする不良が多いからって周辺に住む人も減ったって聞いたことある」
「そんな漫画みたいな」
「ほんとそれね。ちなみにバイクの騒音とか怒声なり聞こえて色々と危ない場所だから近付いたら駄目な場所だって色んなサイトで書かれてるよ」
思わず、悠也が鼻で笑ってしまった。
遠い記憶のどこかで、そんな高校が舞台の漫画を読んだような気がする。
作り話として見てる分には良いが、実際にあると言われても信じられないと思わずにはいられなかった。
「とにかく、この制服には要注意かな。そもそもちゃんと制服を着てるのかすら怪しいけど」
そんなことを悠也が思っていると、おもむろに乃亜がスマホを悠也に見せつけてきた。
乃亜のスマホに映し出されたのは、どこでも見かけるような学ランの画像だった。
他に改造された原型を留めていない制服もあったが、おそらく参考にはならないだろう。
「一応、覚えとく」
と言いつつも、念の為にと悠也が凝視して目に焼き付けておく。
そしてしばらく眺めた後、乃亜がスマホを仕舞おうとした時だった。
「あ、そうだ。ねぇ、啓介っち? ソイツのフルネームは聞いてる?」
なにげなく乃亜がそう訊いていた。
「ん? 聞いてるけど?」
「なら教えてよ」
「……ずっと気になってたんだけどさ、そこまで知ってどうするつもりだ?」
「別にどうにもしないよ。また咲茉っち達が襲われたら大変だから、いつでも警察行けるように準備しておくだけだって悠也から聞いてないの?」
これも、あらかじめ悠也と決めていた通りのことを自然に話している乃亜に、啓介が顔を顰める。
子供の啓介にしてみれば、反論のしようもない理由に返す言葉もなかったのだろう。
渋々と啓介が納得した素振りを見せると、素直に答えていた。
「そのタクマって不良の名前。カガミタクマって名前らしいぞ」
「漢字は?」
そこまで知る理由がイマイチ理解できないと思う啓介に、乃亜が制服のポケットからペンとメモ用紙を渡す。
そしてまた渋々と啓介が書いたメモ用紙を乃亜が受け取ると、満足そうに頷いていた。
加賀美 拓真。
悠也が横から覗き見たメモ用紙には、そう書かれていた。
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