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第78話 みんなに嫌われる


 一体、乃亜は何を言っているのだろうか?


「…………え?」


 そう言いたげに呆然と言葉を失っていた咲茉えまから、ポツリと声が漏れた。


 静まり返った部屋で、テーブルを挟んで座る乃亜を、真顔の咲茉が見つめる。


 そうして少しばかりの間が空いた後、ようやく乃亜の言葉を理解したのだろう。


 ゆっくりと、咲茉の目が大きく見開かれた。


「きゅ……急に、どうしたの? 10年前? 10年前って、私達……まだ5歳だよ?」


 全く意味が分からないと、どうにか言葉を絞り出した咲茉が引き攣った笑みを浮かべる。


 しかし、その言葉とは正反対に――彼女の身体は反応していた。


 抱き締められてから当然のように握っていた悠也の手を、彼女の手が力強く握りしめていた。


「……うん。咲茉の言う通り、10年前だと私達は5歳だね」

「でしょ? もう、変なこと言うんだから」


 面白い冗談だと、咲茉が笑って見せる。


 だがそれも、乃亜の一言で簡単に崩れた。


「でも10年前の私が5歳だとしても……咲茉は違うよ」


 本来ならそれも、意味の分からない言葉でしかなかった。


 15歳の乃亜にとって、10年前が5歳だとしか言えない。


 それは彼女と同じ歳の咲茉も変わらないはずなのに、違うと言うのだから。


「……なにを、言ってるの?」


 そう言うことしかできないと、咲茉の声が震える。


 悠也の手を握りしめながら、自然と彼に擦り寄る。


 そして嫌な予感がすると、咲茉が思った時だった。



「――タイムリープ、してるんでしょ?」



 ハッキリとした声で、乃亜が告げていた。


「た、タイムリープ? なにを言って――」

「その会話、もう悠也としたよ」


 それが何を意味しているか。


 その意味を理解した瞬間、ゆっくりと咲茉の目が悠也を見上げる。


 あり得ない。どうして彼女が知っているのか?


 そう言いたげに見つめてくる咲茉の視線に、目を伏せた悠也は、そっと彼女を抱き寄せながら答えていた。


「ごめん……隠しきれなかったんだよ。あの時、あの男が言ったことも、怒った俺が口走ったことも、俺と咲茉の会話も、全部乃亜に知られて……俺達がタイムリープしてるってバレた」


 そう言われてしまえば、咲茉も納得するしかなかったのだろう。


 確かにあの時の会話で、頭の良い乃亜が気づいてもおかしくないと思える。


 だがそれは、普通なら決してあり得ないことだと一蹴することだ。たとえその考えに辿り着いたとしても、あり得るはずがないと。


「……どうして、なんで……認めたの?」


 その乃亜の疑問を確固たる確信に変えた悠也に、咲茉が震えた声を漏らしていた。


 本来ならあり得ない乃亜の疑惑も、悠也が否定すれば良かったのではと。


「助けたいって……言われたんだ」


 そう思う咲茉に、悠也は言葉に詰まりながらも答えていた。


「……それって」

「咲茉があの男に狙われてるって、あの場に居たら誰だって気づく。またアイツが、いつかお前のところに来るかもしれない。だから……俺と一緒に、お前を守りたいって泣きながら言われたんだ」


 悠也の話を聞いた咲茉が絶句する。


 そんな彼女に、悠也は続けて話し掛けていた。


「俺に掴み掛かって、泣きながら乃亜もお前のことを心配してたんだ。どうしようもなく大好きな咲茉の助けになりたいって、だから協力されてくれって」


 あの拓真に自分が狙われている。それを乃亜達が察するのも理解できる。


 友達想いの乃亜達が心配してくれるのも、当然理解できる。


 だがそれを理解しても、咲茉は理解できないと首を左右にゆっくりと振っていた。


「それ、タイムリープしてるって認めなくても――」


 もし協力するにしても、タイムリープのことを明かす必要はなかったのではないか。


 その疑問は、悠也と同じく咲茉が抱くのも当然だろう。


 そう思う彼女に、悠也は正直に答えていた。


「お前に、信頼されたかったんだよ。乃亜達は」

「……え?」


 意味が変わらないと、咲茉の表情が怪訝に歪む。


「あの時の事件で、乃亜達は咲茉が誰にも言えない秘密を抱えてるって気づいたんだ」


 そして悠也がそう言った途端、咲茉の身体がビクッと震えていた。


 誰にも言えない秘密。それは今でも咲茉が話すことを拒んでいる辛い過去。


 それを咲茉は限られた人間にしか話していない。タイムリープする前の両親と、こうして一緒にいる悠也だけしか知らないことだ。


 話しても大丈夫だという確信がなかった。話しても絶対大丈夫だと、周りを信じることができなかった。


 きっと話せば、嫌われてしまう。その不安が今も咲茉の心を蝕んでいる。


 信頼することができなかった自分を、今も許せないままでいる。


「あ……」


 その時、ふと咲茉の脳裏にある考えが浮かんでしまった。


 信頼という言葉を乃亜が使ったということは、自分の話さなかった秘密が話すことを躊躇う内容だと察したからではないかと。


 そして先日の事件で起きたことを思い返せば、自分達の会話で様々な話が飛び交っていた。


 過去に遡った、殺し殺されたことなど、普通なら理解することもできないことを叫んでいた。


 その言葉を思い出せば、乃亜達にタイムリープがバレたことも納得はできるのだが――


 その中で、咲茉は気づいてしまった。


 女を性欲のはけ口としか思っていない、あの拓真という男が口走った言葉を。


 犯したことを楽しそうに語っていた言葉の数々が、咲茉の脳裏に蘇る。


 それを乃亜達に聞かれてしまった。聞かれたということは、予想されるのも当然のことで――


「あ、ぁ……」


 そしてタイムリープした事実が知られ、10年前に自身が転校した事実も知られている。


 おそらく、それも悠也が話してしまったのだろう。彼が秘密を話すとは微塵も思っていないが、数少ない話せることとして話してしまったのだと考えられる。


 だが、それだけの情報があれば予想することも容易い。それが特に頭の良い乃亜なら、気づいてもおかしくない。


 もしかすれば、もう乃亜は気づいたのではないかと。


 咲茉にとっての10年前に、何が起きたのかを。


 彼女達にも、また悠也と同じく。自分の口で伝えられなかった。


 自分の言葉で伝えなければならないことを。知られる覚悟もできてないのに、知られてしまった。


 はたして、この秘密を彼女が知った時、どう思われるのか?


 その不安が、咲茉の思考を埋め尽くした。


「……ぁ、ぁ」


 その考えが脳裏を駆け抜けた瞬間、無意識に咲茉の口から声が漏れていた。


 ゆっくりと首を振りながら、その予想が受け入れられないと咲茉の表情が凍りつく。


「……咲茉?」


 その変化に気づいた悠也が咄嗟に声を掛けるが、その声は届いていなかったのだろう。


 次の瞬間、咲茉の様子が一変した。



「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 頭を抱えた咲茉が剥き出しの感情を曝け出した。


「咲茉っ⁉︎」


 暴れそうになる咲茉を抱きしめながら悠也が叫ぶが、一向に落ち着く気配すらない。


「咲茉っ⁉︎」

「咲茉ちゃん⁉︎」


 咲茉の変わり果てた様子に乃亜と雪菜が慌てて駆け寄るが、それでも咲茉は頭を掻きむしりながら暴れていた。


「嫌ぁぁぁぁ!」

「おい、咲茉っ!」


 なにか勘違いしてると察した悠也が叫んで暴れる咲茉の腕を抑える。


「嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだいやいやいやいやぁぁぁぁぁ!」

「咲茉っ! 落ち着けっ!」

「みんなに嫌われるのいやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁ!」


 しかしそれでも嫌だと、彼女は悠也の腕の中で暴れていた。


 まるで癇癪を起こした子供のように。喚く彼女に乃亜と雪菜が絶句する。


 その中で、悠也は必死に暴れる咲茉を抑えていた。


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[気になる点] なんだろ、心配してるのも分かるんだけど心配してる描写が主人公の目線経由だけなせいか、よってたかって辛い事の告白を強要してるように感じたな 身近な女の子の不幸をエンタメ化してるように見え…
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