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第70話 飲めないの?


「悠也っち〜。待ちに待った放課後だよ〜」

「別に待ってねぇよ……それで? 俺に訊きたいことってなんだよ?」

「そんなに慌てないの〜。積もる話もあるから、とりあえず場所を変えましょ〜」

「……どこに行くんだよ?」

「私の家〜」


 放課後になると、その乃亜の一声によって悠也は雪菜と2人で彼女の家に向かうこととなった。


「わざわざ俺以外に雪菜も呼んでるなら、凛子達も呼んでるのか?」

「呼んでないよ〜。今の凛子っちは呼んでも使い物にならないからね〜。まだあの子が立ち直るキッカケがないから、もう少し放置しておくのが良きだよ〜。いつの間にか帰っちゃってるし」


 乃亜が呼ぶ呼ばないに関係なく、放課後になると凛子はいつの間にか教室から姿を消していた。


 今日一日中、ずっと上の空だった彼女が心配になってしまうが、下手に声を掛けても余計に落ち込ませるだけかもしれない。


「啓介っちも咲茉えまっち達が襲われた時のこと見てないから、話について来れなさそうだしね〜」


 そして啓介も、今回の件について詳しく事情を知らない。よって乃亜も彼を呼ぶつもりはなかった。


「それで残ったのが雪菜ってことか」

「そういうこと〜。って言っても、雪菜っちがいるのは私の保険だけどね〜」

「……保険?」

「それは後で分かることだから、気にしなくて良いよ〜」

 

 そんな話をしつつ、悠也は怪訝に思いながらも雪菜と共に先を歩く乃亜についていく。


 学校から徒歩で20分程度。街付近に建てられた高層マンションが彼女の住まいだった。


 最後に乃亜の家に足を運んだのはいつだったか。そんなことすらも思い出せない自分に呆れつつ、悠也は久々に訪れた彼女の住むマンションに苦笑していた。


 相変わらず、良いところに住んでいる。全20階もある高層マンションで、街からも近く、交通の便も良い。そしてオートロック付きのエントランスと、10階に住む乃亜の家に来るまでの内装を見るだけで、このマンションの質の良さが伺えてしまう。


 興味本位で悠也がスマホで家賃を調べようとしたが、どうにか堪えた。きっと金額を見ると後悔するかもしれない。


 知らない方が良いこともある。そう自分に言い聞かせて、悠也は乃亜の案内のままに足を動かしていた。


「2人とも来るの久々だもんね〜。ここが私の部屋だよ〜」


 玄関を抜けて少し歩くと、乃亜の自室に悠也と雪菜は案内された。


 久々に訪れた乃亜の部屋は、圧巻の一言だった。


 壁に何枚も貼られたアニメやゲームのポスターと棚に並べられたフィギュアの数々に自然と目が向いてしまう。


 大きな本棚にはギッシリと本が敷き詰められていて、その種類は実に多彩だった。漫画やラノベだけかと思えば、よく見ると小難しい本や参考書が数多く並んでいる。


 そしてカラフルなデスクに、大きなモニターが2つと一目で高性能だと分かるパソコンが置かれていた。


「わぁ……久しぶりに来ましたけど、本当に乃亜ちゃんの部屋は異世界みたいです」


 乃亜の部屋に入るなり、雪菜が感嘆の声を漏らしていた。


 実に雪菜らしい反応だった。アニメやゲームの知識があまりない彼女にとって、乃亜の部屋は理解の範疇を超えていたらしい。


 昔から乃亜と咲茉の影響で雪菜もサブカルに多少なりとも触れているが、それでも一般人に毛が生えた程度の知識しかない。


 そんな彼女が乃亜の趣味全開に染まった部屋を見てしまえば、驚きのあまり呆然とするのも当然だろう。


「……ほんとこういうの好きだな、お前」


 それは悠也も同じだった。これほど凄まじい部屋を見ることも滅多にない。馬鹿にする気など全くないが、ここまで趣味に全力を出せる乃亜に呆れるばかりだった。


「ふっふー! 好きなものに全力を捧げるのが私のモットーだからね〜!」


 誇らしそうにえっへんと胸を張る乃亜に、悠也と雪菜が顔を見合わせて苦笑してしまう。


「とりあえず適当に座ってて〜。飲み物とか持ってくるから〜」


 そう言い残して足早に乃亜が部屋から出ていくと、悠也達は恐る恐るとその場に座っていた。


「ふぁ〜、すごいですねぇ」


 きょろきょろと部屋を見渡して、どこか感動すらしてそうな雪菜を他所に、悠也は考えていた。


 わざわざ乃亜が場所を変えてまで話をしようとしているのは、きっと彼女なりの考えがあるからだろう。


 おそらくは誰にも話を聞かれたくないから、という予想はできた。今の乃亜の家には、乃亜以外の家族は出かけて居ないらしい。


 間違いなく乃亜から訊かれることは、先日のデパートで起こった事件についてだろう。


 あの拓真という男が話してしまった咲茉に関する話。そして悠也自身も感情的になって口走ってしまったこともある。


 それを雪菜や凛子に聞かれて、2人から乃亜の耳に入っていてもおかしくない。今回の件で悠也に訊きたいことがあると乃亜が公言していた時点で、そう考えるべきだろう。


 それもわざわざ相手になんでも言うことを聞かせる権利を使ってまで話をしようとしているのだ。


 これを使ってくると言うことは、今から話す内容が悠也にとって答えにくい話だと分かっている。


 一体、乃亜がどこまで予想しているのか悠也も分からなかったが……とは言えど、彼も余計なことを話すつもりもなかった。


 予想できるのは、あの拓真と咲茉の関係だろう。それを上手く誤魔化せば、大したことにもならないはずだ。


 とにかく上手く答えなければ、頭の良い乃亜を誤魔化せない。


「お待たせ〜」


 そう悠也が考えていると、大した時間も経たずに乃亜が戻ってきた。


 脇にお茶の入った2Lのペットボトルを抱えて、両手に3個のコップを抱えていた彼女がテーブルに置いていく。


「大したものじゃないけど、好きに飲んじゃってね〜」

「はい。ありがとうございます。良かったらみんなの分、注ぎますね」


 そう言って、雪菜が3人分のコップにお茶を注いでいく。


 その光景を悠也が見つめていると、


「あ、悠也っちはこっちが良かった? お父さんが買い置きしてるやつなんだけど、飲む?」


 乃亜がそう言うと、カンッと心地良い音がテーブルに鳴った。


 どうやら彼女がテーブルに何か置いたらしい。


 何気なく悠也が視線を向けると、乃亜が置いた物に怪訝に顔を顰めていた。


「は……?」


 テーブルに置かれた銀色の缶。それは昔、タイムリープする前の、悠也が大人だった時に時折飲んでいたモノだった。


 見間違えるはずもない。それは紛れもなく――350mlのビール缶だった。


「お前、馬鹿か? 未成年にビール渡すなよ?」

「あれ? 飲めないの?」

「飲めないとかじゃなくて、未成年が飲んで良いわけないだろ。馬鹿」


 不思議そうに首を傾げる乃亜に、思わず悠也の目が吊り上がった。


 なぜ彼女が急にビールを出してきたことが意味不明過ぎて、素直に悠也が困惑してしまう。


「流石にこれだと引っ掛かってくれないかぁ〜」


 そんな彼を見つめながら、乃亜はわざとらしく肩を竦めていた。


 それが何を意味しているのか、悠也は困惑しながらテーブルの上に置かれたビール缶を見つめていた。


読了、お疲れ様です。


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